第13話
「またやったね!人参の手配をしていないじゃないか!」
「あ~マリア、ごめんなさい。朝一で頼もうとしていたの!すぐ手配してくるから!」
「もう手配したよ!あんたはいつになったらミスがなくなるんだい!まったく」
またやった…ここ最近はミスが減っていたのに…
ウィスタリアの相変わらずの日常に戻っていた。が、少し違うのは暇さえあれば畑に通っている事だ。
あの件以来、貴族は許可が無ければ裏の畑の出入りが禁止になった。見かけたら即、罰金だ。そして今では兄が実らせたフルーツ畑はそのままフルーツ園になっていた。
そしてあの件でトムがクビになり、マリアも忙しいため暇そうなウィスタリアが管理を任られる事になった。今までは栄養剤の管理だけしていたのに大抜擢だ、とウィスタリアは思っている。
また監修として他の近く農家が来ている事もあるが長いはしない。ベゴニアの許可がなければ栄養剤も使う事が出来ないようにしていた。
実はウィスタリアを抜擢したのは兄ベゴニアだった。栄養剤を使うのに一々たくさんの許可の書類が必要になるあの連絡網が面倒だという事だろう。便宜上ベゴニアの許可がいるとしているが実際は、ウィスタリアの独断で栄養剤を使用しているのだ。
畑は冬だという事もあり封鎖されていた。しかしレモンナスだけは神獣様の為に作る事となっている。
そんな事もあり最近、ウィスタリアは時間があれば畑に通っているのだ。
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冬の寒さが到来し始めた頃、実家の暖炉の回りで家人が集まっている。家族茶会だ。あれからまた1ヶ月経ちお馴染みのメンツが集まり、まったりとしている。いつも質素な暮らしぶりをしているウィスタリアに取って、月一の家族茶会は自分へのご褒美だ。
「姉さま、また立派なレモンナスをありがとうございます。この時期にレモンナスが食べられてウィリーもとても喜んでいますよ」
「よかったわ、頑張ったもの」
いつもの仕事をこなしながら畑仕事もしていた。生活魔法が使えないウィスタリアには結構ハードな毎日だ。でも給金は変わらない。
「あの畑かい?ウィスタリアがレモンナスを育てているの?レモンナスは難しいのだがよく頑張っているのだね」
兄のベゴニアだ。自分が言い出した事を忘れているような口ぶりだ。
「まぁありがとうございます。お兄様」
皮肉を込めて言ったが、ベゴニアは本当に忘れているのかもしれない。
「侍女は畑の仕事も請け負う事があるのかい?」
父だ。
「う、そう。たまたまね…栄養剤は貴重なものだから…」
兄と弟はにっこりと黙り込む。いい兄弟だ。
「でも本当にレモンナスは難しいのだよ。魔力が豊富なのも魔素が多いとされる南の魔素が多いとされている国の森が原産だからだしね。農家の人たちも近くの魔素が多い森の枯れ葉などを利用して育ててはいたようだが…ウィスタリアは私の能力と近いギフトがあるのかもしれないね」
「それは違うわ。兄さまが置いて行った栄養剤を使っているのよ。そうでなければ難しいわ」
「しかし、そんなにたくさんの栄養剤をおいては行ってなかっただろう?追加要請もない。タルの中にあったものはそんなに多くなかったはずだ」
「追加要請が出来るものなのね。無くなってしまうと思って節約してチビチビ使っていたからまだ残っているの」
「姉さま、神獣様の事は国上げてのモノです。遠慮はいりませんよ。正規に栄養剤の支給をお願いしてください!」
「まぁ、そうね。今度からそうする」
「…チビチビ?ウィスタリア…チビチビとはどういう意味だい?」
ベゴニアがゆっくりと聞き直す。
「え?だから少しずつ使っていたの」
「しかし、量を減らしたら効きが悪いだろう」
「ええ、だから薄めて使っていたのよ」
「薄めて?」
「ええ」
「あの栄養剤を?あれは純正の魔法水を使って作られているものなんだよ?井戸水や川の水で薄めてしまったらなんの効き目もなくなってしまうんだが…」
はぁ、とベゴニアは頭を抱えた。
「大丈夫、超純正の魔法水を使って薄めているから」
兄は顔を上げる。
「純正の魔法水は高いんだ。ウィスタリアが買えるような金額ではないだろう?予算の請求もされて来てないが…」
「ふふん、実は裏の森に小さな泉を見つけたの。とても澄んでいてたくさんの魔素が含まれているわ。だから混ぜても問題ないと思っているの。実際に問題なかったし」
ウィスタリアは自慢げに話をしたが、ベコニアは顔をしかめる。
「そんな報告はされてないぞ…」
「そうね…してないもの…」
まずったかな…
「なぜしない?そんな泉があるのなら貴重な資源だんだよ?ウィスタリアひとりで使用していいものではないよ」
「…」
怒られてしまった…。
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