第10話

 レモンナスはトムに任せウィスタリアは日常に戻った。ある日、マリアに言われウィスタリアは城の畑にある薬草を摘みに向かった。


「ウィスタリア、丁度よかった。調理場に行こうと思ってたんだ。ちょっといいか?」


 トムがウィスタリアに駆け寄った。


「トム、おはよう。何かしら?」

「ああ、実は預かっていた栄養剤があるだろう?あれを追加して欲しいんだ」

 タルの中に残っていた栄養剤の管理はウィスタリアに任されていた。それを瓶に詰め少しづつ畑に撒いていた。


「栄養剤はもう必要ないわ。あの時はすぐにでもフルーツが必要だったからたくさん撒いたのよ?急ぎでなければ使う必要はないの」

「え?そうなのかい?で、でも無くなったので補充して欲しいんだが…」

 トムはなにやらモジモジとしている。

「…怪しいわね。そもそも栄養剤の瓶の中身は半分ほど残っていたでしょう?なぜなくなったの?」

「レモンナスを作るために使ったんだよ」

「ああ、レモンナスね。じゃあ育ったのね。どこにあるの?」

「い、いや、もう例のテイマーに渡したよ」

 ピアニーからそんな連絡は貰っていない。

「…へぇ、じゃあテイマーに確認するわ」

「お、おい。信用してないのか!」

「確認して何か問題があるの?もし渡ってなかったら私だってお叱りを受けるのよ?途中でメイドが盗んだとかあるかもしれないしね。きちんとテイマーに渡っているか確認するのは当たり前の事よ」

「それはそうだが…」

「栄養剤の補充はマリアと相談するわ。多分春になると思うけど…」

 トムは顔色が悪くなる。

「何かを隠してるの?もしかして栄養剤を盗んだ?今なら怒らないから正直に話して!」


「す、すまない…」

「やっぱり、盗んだのね…そんな事をされたらもう信用できないわ」

「ち、違うんだ!聞いてくれ」

「今聞いているわ…」

 トムは項垂れた。


「最初は栄養剤を預かってもあまり使用しなかったんだ。急ぎのものはなかったし、でも魔導士達がここで育つレモンナスが非常に状態がいいって評判になって来て、俺も嬉しくなってレモンナスを渡していたんだ。でも次第にレモンナスが育たなくなって栄養剤をまた使い始めたんだ。さ、最初はほんの少しずつだ。でも魔導士がもっともっとって…」

「…だったら、最初からそう言えばいいのに…」

「え?あ、そんだよな。俺は仕事をしてただけなんだよな、ははは」

「お金を貰ってた?」

「あ…」

「貰ってたんだ…」

「あ、い、いや、それはその…」

「一応、この畑はマリアが管理しているからレモンナスがたくさん城に渡っているなら、マリアは知っているはずよね。でもそんな話は私にはしてない。だからレモンナスが畑にあった事もあやふやだった訳だし…報告をしてないって事よね?」

「…しかし、ま、魔導士様が必要だと…」

「管理のマリアが知らなければその魔導士だって横領よ。トムもね。城のモノを勝手に渡していたんだから…」

「そ、そんな…ちょっとしたこずかい稼ぎだったんだ。今はレモンナスの時期じゃないって言ったら金貨を渡されて、少しならと…でも段々もっと作ってくれって…」

「私が頼んだテイマーには本当に渡したの?」

「それが…昨日出来たからじっさまの言葉通り優先しようとしたら魔導士に見つかって、持っていかれたんだ。最後の栄養剤を使ってしまったから…ウィスタリアならきっと何も疑わず栄養剤を補充してくれると思ったんだよ。すまない」


 おっちょこちょいのウィスタリアですもんね。



 食べ物の管理なんてあやふやなものだ。しかし、勝手に城の人間にどんどん渡してしまえば、管理が出来なくなる。だから、マリアが管理をして調理場の人間に渡していたのだ。ウィスタリアはちょっとした手伝いだったがレモンナスが調理場ではなく魔導士に渡っていたとなればさすがに把握はしているはずである。









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