第3話
城の裏にある畑にベゴニアが満足そうな顔をして立っていた。
「これはベゴニア様、実験はどうなりました?あまり畑をいじらないでほしいのですが…」
「ああ、マリア。実験は成功だよ」
「それはようござんした…って、こ、これは…す、すぐに料理長に!」
マリアはバタバタと駆け出していった。
それを見送ったウィスタリアはベゴニアに言った。
「兄様、うまくいったのね。よかったぁ。ありがとう」
「いや、こちらも実験が出来てよかったよ」
城の裏にある畑一面にはたくさんの様々なフルーツが実っていた。外国でしか育たないとされている葡萄にイチゴ、メロン、桃と多種多様なフルーツが実っている。
「それにしても…兄様、どうやったの?これ」
「フフフ、この栄養剤をまぶしたのさ」
「栄養剤?」
「そう、僕が開発した栄養剤だ。ずっと実験をしたかったんだ」
ベゴニアは嬉しそうに大きなタルに入った栄養剤を見つめる。
「このフルーツ達は輸入してきた苗だ。植物園で少しずつ育てたフルーツの苗をこちらに移したんだよ。植物園には色々な苗を実験的に育てているからね。でもどれも少量でね。しかもさぁ植物園は王妃様のお気に入りでね。キレイな花を咲かせてほしいみたいなんだよね。たから僕は花を美しく咲かせる為だけの研究をしているって勘違いしている人も多いんだ。でもそれはもちろんフルーツや野菜にも適応する訳で…。でもそれらを広い畑で実験しないと行けないだろう?しかしねぇ国がなかなか予算を出さないんだよ。花なんて二の次だって感じでね。花だけじゃないんだけどって思っていたんだ。でも今回の件で予算が出るかもしれないね。フフフ」
ベゴニアは不適に笑う。ベゴニアはウィスタリアの兄でもあるが、植物に特化したギフト持ちと呼ばれる国の重要人物でもある。そのベゴニアは王妃の為にキレイな花を咲かせる為に雇われている園芸担当な訳だがベゴニアは納得していない。
数年前からベゴニアは植物が早く成長するための栄養剤を研究していた。魔石を壊さないと切っても切っても成長する植物アロエビナにヒントを得て、魔石はもちろん、葉や樹液、皮など素材を集めて少ない研究費で頑張っていたのだ。時にはキレイな花を咲かすためにと、経費を増やそうと働きかけをし、こっそりと栄養剤の研究費に回していたりもした。
そして植物に特化したギフト持ちのベゴニアが魔力を注いだ事によりその栄養剤は完成した。
あとは畑で実験するだけであった。
今回の件で栄養剤が公になれば予算が大幅に増える事は間違いない。ベゴニアにとって喜ばしい事だろう。そしてそれは家族であるウィスタリアにとっても誇らしい事なのだ。
「ウィスタリア、食べてごらん。このイチゴすごくおいしいよ」
「本当、大きくて甘酸っぱい!こんなイチゴ食べた事ないわ。兄様、大成功ね」
「ハハ、ありがとう」
ベゴニアはウィスタリアの実の兄である。出来損ないのウィスタリアはこの兄の事を周りには秘密にしている。比べられるのが嫌だというのもあるし、兄に迷惑をかけるかもしれないという思いもあるからだ。
そんな兄にマリアが困っていると言っていた日に、今回のフルーツの件を相談したのだ。兄ならばどこかにフルーツを用立てる伝手があるかもしれないと思ったのだ。まさか作ってしまうとは思ってなかった。
そして舞踏会の当日、来ていた各領主たちにフルールは振舞われた。甘味はいつもより甘いと絶賛され、舞踏会は大成功を収めた。その事により王族の目に留まり予算が増える事になってベゴニアも満足したようだ。
「フルーツが間に合ってよかったよぉ。これでリンゴ、オレンジとレモンのハチミツ漬けだけだったら王族の恥だったからね。ハチミツだって高価なものだけどね。フルーツは王族の力を見せつけるには持って来いのものだからね。これで私と調理長の首が飛ばずにすんだよぉ」
マリアは満足げにウィスタリアに話す。
舞踏会で領主たちは王族にゴマをするいい機会のようだが、その王族が貧素では領主たちに顔向け出来ないのだ。
「それにしてもベゴニア様はすごいね。あんなすごいものを発明してしまうなんてね」
「今回の件で予算が増えると喜んでいたみたいよ。でもこんなにすごいものなのにどうして今まで予算が増えなかったのかしら」
「王族たちが自分たちの遊ぶ金を使っちまいたいからに決まっているだろう。それかものすごくプレゼンが苦手かだね」
「後者かも…」
ベゴニアはオタク気質で人付き合いは苦手だ。
「でもあの研究で早くフルーツや野菜が育つなら飢饉もなくなるし、経済も潤うってなもんだけどね…それも貴族が使い込んじまうかね…アハハ、はぁ、貴族に生まれたかったよ、ふう…」
マリアはそう言って仕事に戻っていった。
「そうだよね…」
兄ベゴニアが持っているギフトとは神様から生まれ付き頂ける能力のことだ。貴族だけでなく平民の子や、男女関係なく千差万別に与えられる。それをどう使うかは本人次第なのだ。
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