第8話 もはやカップルですら中々しない距離感

◇前書き


いつもありがとうございます!

前話を公開する時に丁度2000PVを越えたところだったんですが、もう既に3500PVと伸び幅がグンと上がって嬉しい悲鳴をあげております!

恋愛ジャンルの週間ランキングも最高34位に!


なにがとは言いませんが、やっぱり皆さん好きなんですねぇ💖

そういう回の頻度はまだあまり増えませんが、プロット自体は現在10話分程溜めていまして、もうそろそろ色々と展開していくはずなので見守って頂けたら嬉しいです!


あと、先週公開した短編『ツン百合』のおまけもプロットだけはありますし、さらに新作短編のプロットも書いているところです!


新作は結構設定ががっちりしていて、甘々な百合というよりバディもので、仕上がるまで時間もまだまだかかりますが、こうご期待!


では今週もよろしくお願いします!

────────────────

「ふぁ…………」


 朝。


 目が覚めた私は、ベッドの中でぐぐっと伸びをする。


 彩朱花あすかはまだ寝ているみたい。


 今日は創立記念日で学校が休みだから、とりあえずごろごろしながらスマホを開く。


 しばらくすると、隣で寝ていた彩朱花がもぞもぞと動き出した。


「彩朱花、おはよう」

「んー……」


 眠そうに目をぎゅっと瞑ったまま、私の胸に顔をうずめてくる。

 二度寝しようとしている時はいつもこう。


 4月ももう下旬だというのに、布団に包まって身を寄せ合うのはまだまだ気持ちが良い。


 彩朱花の顎をあげてキスをする。

 ちょっと長めに10秒くらい。


「あ……」


 目を薄く開いて少し頬を赤くした彩朱花が、照れ隠しみたいにまた胸にぐりぐりと顔をうずめてきたから、抱きしめて髪を撫でつける。

 するとすぐにまた寝息を立て始めたので、私もほんのりと微睡みながら考えごとをする。


 ……彩朱花は結局のところ、私に対してどう思っているんだろうか。

 昨日は気持ちよさそうにしていたし、最近の雰囲気を見てもやっぱり嫌われている訳ではなさそうで。


 むしろ、好きでいてくれてるんじゃないかなと自惚れてしまう程には心の距離も近くに感じているのに、やっぱりアレを思い出してしまう。


『私も、千賀ちかのことはほんとに大好きだよ?でも、付き合うって話になると……うーんと、全然嫌じゃないし、むしろ嬉しいって思うんだよ?だけど……えっと……ごめん……』


 中学の卒業式後に告白した時の返事。

 私を傷付けないようにかなり言葉を選びながら振ったのが分かるし、だからこそ本当に脈が無い時の答えだと思う。


 昨日は私もやりすぎたって思うところがあるから、そろそろこの曖昧な関係に決着を付けたいと思っている。


 一度振られた手前、あまり『好き』って言うと困らせてしまうのは分かっているから言わないようにしていたのに、昨日は色々と込み上げてきて言ってしまったし。


 だから少し可能性をいくつか考えてみようと思う。


 まずは……『恋愛対象は男だけ説』。

 正直、一番現実的で一番困る。


 どれだけ時間を重ねて、どこまで仲良くなっても一生友達止まり。

 それでも私に対して性的に興奮はしてくれているみたいだから、新しい価値観を芽生えさせることは不可能じゃないと考えれば、一応希望が無いこともない……かもしれない。


 もう1つは『告白から1ヶ月以上経って、今は惚れている説』。

 これもあり得ると思っている。


 卒業式の日に振られて、最後のお願いとして一度だけキスをして貰って、それから今日まで結局何度もキスを重ねた。

 なんだかんだ高校に入ってからも毎日ずっと一緒で、そのうちに意識してくれている可能性はあるはず。


 だとしたら、もう一度告白したら受け入れてくれるのかな。

 でも、もしまた振られたら……今度こそ立ち直れないかもしれない。


 最後は『単に彩朱花がめちゃくちゃえっちなだけ説』。


 私に対しての恋愛感情は相変わらず無いけど、それでもキスやえっちなことは気持ち良くて好きという可能性。

 悲しいけど、これはこれでアリかもしれない……。


 この3つの説を元にして結局のところ私はどうするべきか考えてみると、再度告白してみるか快楽堕ちさせるかしか方法が無い……。


 やりすぎたからやめきゃいけないと思ったのに、むしろ突っ走った方が解決する?

 ……だとして、そんなやり方をするのは抵抗があると言う私の中の天使と、それで快楽に溺れて私と付き合う彩朱花を見たいという私の中の悪魔が本気で戦争を始めている。


 どちらの勢力も強すぎて、私の脳内でどんどん争いが激化していく。

 しかし、その戦争は一瞬で終戦を迎えることになった。


 唇にちゅっと触れる感覚。

 目を開けると、寝起きでへにゃっとした表情の彩朱花が「えへへ」と笑う。


「千賀、おはよお」

「おはよう、彩朱花」


 私の恋も本気を出さなきゃいけないけど、今日は今日でやることがある。

 私達は、ベッドの中でまったりしてから起きることにした。



「良いバイトを見つけるコツってあるのかな?」

「とりあえずは部活しながらでも働かせてくれるところじゃないとね」

「そうだった!」


 写真部での活動自体は、写真の技術を教えてもらったりフォトショで加工したりの地道な作業が多いみたいで、撮影は基本的に生徒主体になっているから出席は割と自由だそう。


「それから、応募してすぐ面接になってもいいように先に履歴書を作っておくとか」

「確かに!じゃあ先にそっちからやろっか」


 私たちは最初に履歴書を作ることにした。

 証明写真を撮る為に、あまり目立たない無地の服を着てメイクもしっかりやって出かける。


 近所のスーパーに併設された百均で履歴書を購入して、出てすぐの証明写真ボックスへ順番に入る。

 まずは彩朱花が中に入って、私は外から見ている。


「うわ、なにこれ!プリクラの感じを想像してたけど、めっちゃ狭くて緊張する」

「プリクラみたいに盛ってくれないんだから、お金入れる前にちゃんと見た目整えようね」

「うん、お願い!」


 ボックス内の椅子に座った彩朱花が、こちらを向いて姿勢を正す。

 こういう時、自分で整えるんじゃなく真っ先に私にやってもらおうとするところがたまらなく可愛い。


 普段メイクする時も、最後にお互い見せあってから完成しているから、それと同じ感覚なんだろう。

 メイクを一緒に勉強した時だってお互いどういうのが似合うか研究し合ったから、私は彩朱花のメイクを分かっているし、してあげることだって出来る。

 もちろん、彩朱花も私のメイクが出来る。

 そういう信頼があっての行動だと思うと、すごく嬉しい。


 私は、彩朱花の髪や服をちょいちょいと触って整えてあげる。


「うん、大丈夫。可愛いよ」

「へへ、ありがと」


 私は彩朱花のバッグを預かって、ボックスのカーテンを閉める。


「ああー緊張する。それじゃあ……入れるよ」


 カーテン越しの彩朱花が、なんだか妙にいかがわしいセリフを発した後、硬貨が落ちる音と無機質な音声案内が聞こえてきた。


 ほどなくしてカーテンが開く。


「えーもうちょっと撮り直したかったなー」

「満足いく写りにならなかった?」

「うん、なんか盛れてないのはまだいいんだけど、むしろ抉れてる気がする」

「抉れ……?」


 ボックスの外側についている取り出し口から、カコンと音がした。

 印刷された写真が出てきたようだ。

 彩朱花はそれを手に取ったかと思えば、ちらっとだけ確認をして、私に見られないようにそそくさとバッグにしまい込む。


「これ履歴書に貼んなきゃか~」

「いつも通り完璧に可愛く撮れてたのに」

「なにしれっと見てんの!?」


 何が気に食わなかったのか分からない程に可愛い写真だったのに。


「ほらほら、次は千賀の番だよ」


 早く忘れてほしいと言わんばかりに、私はボックスへ押し込まれた。


「こっちむいて」


 椅子に座るや否や、先ほど私がしたように身だしなみを整えてくれる。

 椅子の高さは……弄らなくても大丈夫そうかな。


 さっさと撮ってしまおう。



 最低限の用事を済ませて帰って来た私達は、早速履歴書のすぐに埋められるところだけを記入した。


「令和何年って書かなきゃいけないのめんどくさいなぁ!」


 そして、バイト探し。


「あのさ、バイトは別々のとこにしようって言ったじゃん?」

「言ってたね」

「これじゃめちゃくちゃ見えてるよね?」

「見えてるね」

「……どうしよ?」


 どうしようと言うのは、私達がいつものようにバックハグの体勢で座ってスマホを弄っていること。


 この体勢だと、当然後ろにいる私は彩朱花の画面が見えているし、私が後ろから回した手に持つスマホの画面も彩朱花の正面に来ているので見えている。


 どこのバイトに応募するかはお互い内緒にしようとしているので、画面が見えてしまっては意味が無い。


「……向かい合って座るとか?」

「うん、そうしよっか」


 昨日お風呂で散々キスした時の体勢。


 これなら相手の背中側でスマホを見ているから、見られる心配は無い。


「あー……思い出したらドキドキする」

「キス、好きにしていいんだよね」

「……ちゃんとバイト探すのがメインだからね」

「わかってる」


 一瞬だけのキスをする。

 今日は証明写真を撮る為だけにメイクをしてすぐ帰って来たから、ばっちり可愛いままの彩朱花と部屋で2人きり。


 バイト探しを始めてから、基本はスマホの画面を見ているけど、お互い目が合うたびにどちらからともなくキス。


 もっとぎゅっと抱き合ってしまえば、そもそも目が合うなんてことは無いのに、私も彩朱花もそうしていない。


「ちゅっ、あ、見てこれとかいいんじゃない?『カンタン作業で高時給♪アットホームな職場です』だって」

「見せたら意味が無くなるのと、あとそういうところを、ちゅ、選ぶのはやめた方がいいと思う……」


 もはやカップルですら中々しない距離感で会話している私達。

 今後これがデフォルトになってしまうんだろうか……。


 だとしたら最高だけど。


 それから気になったバイトをいくつか保存して、後から条件を何度も確認して応募した。


「彩朱花はどこに応募した?」

「ちゃんと決まるまで内緒!」

「そっか、分かった」


 今日やることはとりあえずこれでおしまい。

 またメールか電話が来るみたいだから、続きはそれから。


 とりあえず、キスして彩朱花が立ち上がる。

 スーパーで買っていたお菓子を取り出して、キスして、食べて、キスして、映画みて、キスして、宿題をして……。


 違うことをしたり、ちょっと席を立ったり、寝転んでみたり。

 いつもしている何気ない行動だけど。


 ……私達はこの日から、一挙一動にキスが挟まることになった。

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