え、私たちってガチ百合?そんなことないと思う

御花工房

え、私たちってガチ百合?そんなことないと思う

第1章 佐倉彩朱花と汐留千賀は幼馴染

第1話 女同士が付き合ってるくらいで上がる景気なんてないでしょうに!

「ついにか~、楽しみだね!」


 私、佐倉彩朱花さくらあすかは今日から高校生だ。

高校初日の通学路……!正直かなりワクワクしてる。


「彩朱花と一緒の高校に通えてよかった」

千賀ちか以外ほとんど知り合いいないとこだもんねぇ」


 幼稚園からの幼馴染である汐留千賀しおどめちかと同じ高校。

彼女は黒髪のショートヘアで、だけどボリュームのある髪型は実年齢より大人びて見える。


 ショートって子供っぽく見えやすくなると思うんだけどな。目おっきいくせに目尻がシャープで妙に色気があるから?

 あ、ちなみに私は千賀とは対照的にロングヘアです。はい。


 高校は電車で30分くらいの場所にあるので、中学の時の同級生はほぼいない。

なのになんで同じ学校に行ってるのかって言われたら、千賀が私の進路希望を丸パクリして提出したからだ。


「でも彩朱花とクラスが別々だったら不登校になる」

「まだ入学式すら始まってないよ!」



 初めての電車通学はちょっと恥ずかしい結果だったので、細かいやりとりはスキップ。

お焼香の時みたいに前の人を伺いながら改札に定期をかざしたり、乗る電車がほんとに降りる駅で止まるのかそわそわしたり、ていうか止まるとしても時間にちゃんと間に合うやつ!?って何度もスマホで時刻表確認したり、千賀と一緒なのにずっと落ち着かなかった。


 でも無事についたらなんてことはなくて。


「は〜、今日からここが私たちの通う学校だって思うとなんか感慨深いねぇ〜」

 そう話しかける私の元に千賀がスッと隣に戻ってくる。あれ、ずっと隣にいたと思ってたのに!

まだ電車通学の緊張は抜けきってなかったの……!?


「クラス一緒だったよ、これで1年は生きていけるね」

「ねぇなんで先に1人でクラス分け見ちゃうの!?」

「浸ってるとこ邪魔しちゃ悪いなと思って」

「自分が一刻も早く確認したかっただけでしょ!」


 せっかくだから一緒に見たかったのに!



 教室に入ると黒板に座席表が貼られていて、それを確認して席に着く。

席は名前順に割り当てられていて、苗字が『さくら』の私とそのすぐ後ろに『しおどめ』である千賀が座る。

廊下側から2列目の最後尾2人が私たち。席、サイコーじゃん……!


「席、最高じゃん」

「それ私が先におんなじこと心の中で言ってた」

 証明のしようがないのにちょっとドヤっとする私。

「彩朱花の心の声を音読しただけなのに」

「証明できないこと言わない!」


 自分が言ったばかりの言葉を秒で棚に上げる。しまっちゃおうね~。

でも確かに千賀が語尾に『じゃん』って付けてるとこ聞いたことないな。


……まさかほんとに心の中筒抜け?


 ほどなくしてクラス全員が揃い、担任の先生がやってきて体育館へみんなを誘導する。

入学式自体は別に楽しくもなんともなかったから割愛するけど、問題はその後。


 これからクラスメイトの名前と顔を覚える為に、順番に自己紹介をする流れになった。

お焼香の時みたいに前の人達の自己紹介を聞きながら、どんなフォーマットで喋るか脳内でイメージする。

 ……お焼香の作法って実は誰も知らないんじゃないかな?

お焼香、ロストテクノロジー(テクノロジー?)説浮上です。


 そんなこと考えてたら脳内イメージが終わる前に自分の番が来てしまった。まって。

初めが肝心、そう、初めが肝心!とりあえず元気よく行こう!ガバッと立ち上がる。


「佐倉彩朱花です!えと……好きなことはおいしい物を食べに行くことです!これから1年よろしくお願いしまーす!」


 よし、無難に良い感じに言えた!ほっと胸をなでおろして座る。

……しかし、安堵したのもつかの間。次の番の千賀がとんでもないことを言い出す。


「汐留千賀です。好きなものは彩朱花です。私の恋人なので手を出さないでください」

「なにいってんの!?!?」


 今度は焦りで千賀の方にガバッと立ち上がる。

教室がなんだかざわざわし始めてる……!うおーーーい!

 私らただの幼馴染だよ!!……実は中学卒業の時に千賀から告白されはしたものの!

結局私は断ったし、ただの良い幼馴染だし!異議あり!(いかついフォントで)


 先生が苦笑いしながらクラスを鎮めてるから、あんまりこの場で取り繕ったり出来ないし!

 どどどどうしようって焦りながら、顔を真っ赤にしながら机に顔を伏せる。

やっぱりすぐに訂正した方がよかったのかな……!?



 ──放課後、結局初対面のクラスメイト達に向かって『アレは違います!』なんて言えずに初日が終わってしまった。

みんなが帰り始める中、机に突っ伏していると千賀が私の席の前に来た。


「……ちょっとした景気付けのつもりだったんだけど、本気で嫌だった?」

「女同士が付き合ってるくらいで上がる景気なんてないでしょうに!」

 え、ないよね?


 私は机から顔だけあげて千賀を見上げる。


「ていうか、事実だったならまだしも、私あの時ちゃんと断ったじゃん……」

「……うん、分かってる。ごめんね」


 シュンとしてしまった。千賀は滅多に気を落とさないのでその姿がかわいい。

い、いや違う、なんか罪悪感が込み上げてくる。悪いの千賀だけどね!?


「もー……別にいいよ、いきなりで恥ずかしかっただけだし」

 頬を膨らませて不服をアピールしながらもまぁ、許してあげる。

「うん、知ってる」

「今度は心の声を黙読してたの!?急にケロッとしてんじゃないよ!?」

気を落とすフリをしただけだったらしい千賀、やっぱり許してあげない。


「もうばか、私不登校になる……」

「まだ入学式終わったばっかりだよ?」

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