私の目が取れないうちは
花沢祐介
私の目が取れないうちは
あなたと初めて会ったのは、とてもよく晴れた日でした。
棚にたくさん並べられたぬいぐるみの中から、あなたは私を選んでくれましたね。
あなたのお母さまが
「隣の子じゃなくていいの?」
と聞いたら、
「この子じゃなきゃヤダ!」
と泣いてくれたのが、私にはなんだか嬉しかったです。
あなたのお家に迎えられて、それからは色々なところへ行きましたね。
あなたがどこへ行くときも、私はあなたの腕の中。
朗らかなあなたの笑い声を聞いていると、私もつられてあたたかい気持ちになりました。
あなたは時々、私をベッドに投げつけたりもしました。
それはそれは、とても痛かったです。
それでも、投げたあとに泣きながら私を抱きしめるあなたを見ていると、私も胸の奥がキュッと締めつけられるのでした。
数年の時が経つと、私の体は脆くなってしまいましたね。
腕が離れかけたり、お洋服が破けそうになったり、目のボタンが取れてしまったり。
その度にあなたが涙を流してくれたこと、私は忘れません。
そしていつも、お母さまに頼み込んで治してくれてありがとうございます。
気がついたらあなたは徐々に大きくなって、お友達と遊んだり、学校へ行ったり、私と過ごす時間も少しずつ減っていきましたね。
私は寂しくなりましたが、あなたの成長を傍で見ていられるのは喜ばしい限りです。
さらに時が経ち、やがてあなたは綺麗な制服を着て大人の階段を登り始めました。
それでも変わらず、夜になれば私にたくさんお話を聞かせてくれていますね。
お勉強やお友達の話を聞くのも面白いのですが、素敵なお顔でルンルンと話してくれる『恋バナ』を聞く時間が一番楽しいです。
これからも色々なお話を聞かせてくださいね。
あなたにはこれからどんな未来が待っているのでしょうか。
ぬいぐるみの私には想像もつきませんが、きっと泣いたり笑ったり、素敵な日々を過ごしていくのでしょうね。
人間の言葉に
『私の目が黒いうちは……』
なんて表現があると聞きましたが、
私の
残りどれくらいの時間をあなたと共に過ごせるのかは分からないけれど、これからもどうぞよろしくお願いしますね。
最後に……私を選んでくれてありがとう。
私の目が取れないうちは 花沢祐介 @hana_no_youni
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