経過報告
ノアが洋服を着始めてから1週間。明らかに村の雰囲気は変わった。服装自体はまだ大きく変化はしていないが、着こなし方を変えたりしてオシャレを楽しみ始めている。特に女性たちは創意工夫を凝らしていて、アクセサリーなどの小物をつけたりする人もいる。男どもはというと、ほとんどの方が今までと変わらないままだ。しかし、女性たちを見る目は明らかに満足そうだ。
アスカは自分が誕生したときにマリア様から『創造』というスキルを付与され、そのスキルで好きな服を作っていたそうだ。ただ力には制限があり、無限に作れない。
話しを聞く感じだと俺も誰かにスキルを付与することは可能みたいだ。しかし条件があって、一人に付与できるスキルは1つまでらしい。
村人たちのために服は作ってはいない。制限された中で個性を出すのがオシャレ道だとアスカがどや顔で語っていたな。それに何でも与えてばかりだと、堕落させてしまうからな。
「よー。ハヤトー!」
一人の村人が大きく手を振りながら挨拶をしてくれた。
「よお、ダン。相変わらず派手な格好だな」
ダンはひまわりのような黄色の短パンに真っ赤なシャツを合わせ、腕にも小物をじゃらじゃらと付けている。髪は鳥のように逆立てている。ノアの服を見て衝撃を受け、徹夜で花のエキスで服を染めたらしい。土色のシャツを着ている男性陣の中では際立っている。というか、村人全員の中でも一番目立っている。
「今日のコンセプトは、『俺様に触るとやけどするぜ!』だな。最近は草を取りに行くときも、咲いている花を見てしまうんだよ。日常にも楽しいことが転がっているってことに気づいたよ」
ダンは本当に嬉しそうに話す。こちらまで楽しい気分にさせてくれる。
「そいえばダンは最近部屋もこだわっているんだろ」
「そうなんだよ! 今度部屋に招待するよ。」
「ああ、それは楽しみだな」
「ハヤトたちがここに来てから人生が変わった気がするよ。今までは生き延びるために生きてたんだ。その日をどうやって生き残るかだけを考えていた。正直楽しいという感情はほぼなかった。だが今は明日が来るのが楽しくなっているんだ。本当にありがとな」
「俺は何もしていないよ。ダンが自分で変わったからだよ」
このように感謝をされるごとに力が貯まっていくのを感じている。ノアのときみたいな急激な力の上昇ではないが、じんわりとしかし確実に力を感じている。そして日に日に貯まる量が微量ではあるが大きくなっている。
今ならいける気がする。
信者数5人 ノア・リュカ・エレナ・カイン・ダン
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「ハヤトは皿を用意して」
ノアにいわれ、皿を出す。夕飯の準備の手伝いは数少ない俺の仕事の一つだ。
「あいよ」
澄んだ水をコップに入れ、みんなを待つ。力を使い水源を見つけ村では衛生的な水を確保することができた。正直これはかなり大きい。水は生活に欠かせないからだ。
「みんなご飯よー」
ノアがみんなを呼ぶ。ぞろぞろと食卓に集まる。
「はぁ~。今日も疲れたわ」
本当にくたびれた様子でアスカがつぶやく。この1週間一番動き回っていたのはアスカだと思う。ノアが洋服を着始めてから、アスカのもとにたくさんの人が訪れ、服について質問しに来ていた。確か最初にきたのはダンだっけな。
それから毎日、染め方や小物の作り方などをみんなに教えている。この村の空間を作り上げているのはアスカだ。
「「おなかすいたよー」」
可愛い衣装を身につけたリュカとエレナが入ってくる。毎日アスカの自信作を着て村人たちを魅了している。
「いただきます」
見た目では何も変わっていないカインだが、当初と比べて仲は深まっている。最近は俺も一緒になってトレーニングをしたりしている。
「最近は水のおかげか味もよくなった気がするんだ。どうかな?」
初日こそワンピースを着ていたノアだが、それ以降は動きやすさを意識したスポーティーな格好をしている。自由自在な動きを可能にしている代わりにノアの体型がくっきりと浮きでている。健康的な体つきをしているがやはり胸の方は発展途上だ。
「うん。確かにスープの味に苦みがなくなっている気がする」
「よかった」
「そういえば、ハヤトあんたはこの1週間なんかしてたの? ニートになっちゃダメよ!」
アスカがズバリと聞いてくる。
「うっ、すみません。まだ何も出来ていないです……」
「ニートってなあに~?」
「生活のためのお仕事を何もしない人のことよ」
「じゃあぼくたちもニートなの?」
「違うわ。小さい子は元気いっぱい遊んでいれば大丈夫なのよ」
完全にニートです。すみません。
「そ、そんなことはないと思うぞ。ほら、水も見つけてくれたし、これはみんな喜んでいたよ」
ノアありがとう。
心で感謝をして、次の計画をみんなに話す。
「実は明日、みんなをもう一度集めてみようと思う」
「え!? ……大丈夫?」
「大丈夫だと思う。力もある程度貯まった気がするし」
「みんなも俺を信じてくれるか」
「もちろん」
みんながまっすぐ俺を見てくれている。力が溢れてくる。
「さぁ奇跡を見せてやろう」
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