奇跡!?
ざわざわ…。ざわざわ…。
いつもならみな野草を取りに村を出る時間だ。しかし今日はみんな広場に集まって一人の男に注目している。
その男の名前は神木ハヤト。昨日いきなり私の前に表れた。
我々と同じ種族であることは間違いないのだが、見たことのない布を身につけている。
先が丸い木の棒を握りしめ白いローブを身にまとっている。そんな武器じゃ戦えないぞ…。
そして目は何というか…バキバキだ。
確か朝にキセキを見せてやるとかいっていたな。
キセキってなんなのだ?
まぁ昨日からの付き合いだが悪い奴ではないんだと思う。
「みな集まってくれてありがとう!わたしの名前は神木ハヤト。親しみを込めてハヤトと呼んでくれたまえ!」
目がバキバキなままハヤトが話し始めた。
「みんなは今の状況に満足か?」
ざわざわざわ…
「私はみんなにお腹いっぱい食べられる生活を与えたいと思う!!」
おおおおおおおおおお!!!!!
(腹一杯だって!そんなこと出来るのか?)
(俺はりんごをたらふく食べてみたいなぁ〜)
「さぁ、奇跡をみせてやろう!!」
ハヤトが足下に落ちている石ころを拾って目の前に座っているリュカに渡した。そして手を小石にかざし何やらよく分からない言葉を唱えた!
「
………………
………………
???????
何か起こったのか?
それにしてもハヤトは面白い顔をしているな。
まるで獰猛な獣人を目の前にしたときの顔みたい、そう絶望したときの顔だ……
石を取っ替えひっかえしては何か唱えているな。
ああっ!リュカの目が死んだ魚みたいに!
結局あいつは何がしたいのだ?
******************************************
お・か・し・い……
やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい……
調子のってみんなを集めてしまった!
(あいつはいったい何をしたいんだ?)
(早く野草を探さないと今日食べるものがないわ…)
全身から汗が噴き出しているのが分かる…
なんで!?なんで力が使えなんだ?
頭の中が真っ白で何も考えられない。
10秒なのか1分のかはたまた1時間なのか……永遠にも感じるこの時間。
(おい!固まってないで何か言え!)
(なぁ行こうぜ!今日の飯手に入れなきゃ)
次々と俺の前から去って行く人々。怖くてみんなの顔が見れないぃ!
最後に残ったのはリュカ・エレナ・ノアそしてアスカの4人だった。
………………………………………………
………………………………………………
………………………………………………
……………………………………帰ろっか。
アスカが気まずそうに口を開いた。
*******************************
「……ハヤト?」
「………」
返事はない。ただの屍のようだ。
「だからいったじゃん。まだこの星は信仰パワーがたまっていないって。ハヤトは興奮して聞いてくれなかったけど」
もう昼になろうというのにハヤトはずっと部屋の隅で体育座りをしたまま。
「アスカ」
ノアが泥が混じった水を私にくれながらひそひそと話しかけてきた。
「その、なんだ、ハヤトは一体何がしたかったんだ」
「うーん…分からないわ」
本当は石を食べ物に代えたかったんだと思うけど
「アスカも分からないのか……でも、きっと私たちのために何かをしてくれようとしたんだよな。その気持ちが何よりうれしいよ」
ノアは本当にいい子なのよね。
「ところでノアは家にいていいの? 蓄えは残っているの?」
「うっ、確かに取りに行かなければいけないのだが、その………ハヤトがあんなんだろ。ほっとけないよ」
「俺、ちょっと外にでるわ」
ハヤトがおもむろに立ち上がり家から出ていった。どうやら私たちの会話が聞こえていたみたいね。
「ノアも取りに出かけたら?私はリュカとエレナと遊んでいるわ」
「そうか……じゃあいってきます!」
*********************************************
恥ずかしい。なんでこんなことしてしまったんだ。この場から消え去りたい。
生まれてきてすみません。こんな俺が神でごめんなさい。
みんなの顔が頭から離れない。かわいそうな人を見るときのあの哀れみを含んだ顔、死んだ魚のような目、そして何より期待を持たしておいて何も起きなかったときのみんなの落胆した表情………
「なんで俺……神様やるなんていったんだろう」
「まだそんなところで座っているのか?」
見上げるとノアが俺をのぞき込んでいた。
どんなに落ち込んでいても目はやはりあそこにいってしまうんだな……
「もう日が沈むぞ。今日はほら!リンゴをたくさん取ってきたんだ。このリンゴはとても甘くてな。1口食べれば辛い気持ちも吹っ飛ぶぞ!」
「………」
ノアの優しさが辛い。何が神様だ。この子の涙を止めるために来たはずなのに俺は結局何も出来ないじゃないか!
「………」
「私のことを少し話してもいいか?」
そういって俺の横に座るノア。
「2年前両親が死んでから実は私はずっと辛かったんだ。村長の子だとかいう理由で、12歳で村長になって、弟たちもまだ小さいし。それに、我々は他の種族と違って力も弱いから、仲間はずれにされて……こんな境遇が変わってくれってずっと思っていたんだ」
「………」
「でもそんな言葉みんなにはいえないだろ。私はみんなを引っ張る村長なのだから。本当は苦しかったんだ。でもな、そんなときにハヤトたちが現れた。私、嬉しかったんだ」
「………」
ごめんな。ダメ神様で
「そのなんだ、今日もハヤトなりに私たちのために何かをしてくれようとしてたんだよな。その気持ちが嬉しいよ」
「ノア……」
「朝、ハヤト言ってたよな。いろんな食べ物をお腹いっぱい食べる生活をしたくないかって。私たちはずっと野草と果物しか食べていないんだ。そんな暮らしが出来たら………最高だろうな!!」
ぐうぅうう~~~~!!!
特大急の音がノアのお腹から放たれた。
「……ぷっ。はははっ」
「こ、こらっ!ハヤト!笑うんじゃない。これは、そっそのあれだ。あれ。んんーなんだ?ってかハヤト落ち込んでいたんではないのか!!!」
「ありがとう、ノア。おかげで元気出たわ」
「もうっ!でもハヤトやっとで笑ったな。流石にあんな顔でずっと家にいられても困るからな……さぁ夕食にしよう」
「……そうだな」
本当にありがとうノア。この子を何とか救いたいな。
「ハヤト」
「んっ?どうしたノア」
「最初ハヤトに会ったときは正直警戒した。格好も変だったし。でも今はハヤトたちが私たちのために何かしてくれようとしているのは分かってるから」
ノアが何というか今までとは違う表情になる。家族に見せる顔だ。
「どうやるのかは見当が付かないが、ハヤトがしようとしていること………私は信じているぞ」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
感じたことない感覚が全身をかけめぐる! エナジードリンクを100本飲んでもこうはならないだろう。
本当に翼が生えそうだ!!
「なっなっなんだ!? ハヤトいきなり大声を出して! 何かハヤト光ってないか? ってかいきなり石を持ちだしてどうしたのだ」
俺は深呼吸し目を閉じた。
集中しろ! 今なら……!
「
少しゴツゴツとした肌触りで地球ではおなじみの野菜。
俺はジャガイモを握りしめていた。
「なっ!? ハヤト、一体なにをしたのだ」
俺はこう答えた。
「これが奇跡だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます