容赦はしないので、首を洗って待ってろや!



 彼女はとある場所へ向かった。


 診療所、だった。そこで彼女は、女性のお見舞いをして・・・彼女の世話を甲斐甲斐しく焼き、日持ちのするお菓子を診療所のスタッフ一同に配り――――


「母のことをよろしくお願いします」


 と、頭を下げてお金を払っていた。


「え……? 嘘じゃ、なかった……の?」


 『病気の身内がいて、お金が要る』というのは、詐欺の常套句。


 彼女に、本当に病気の母親がいたなんて・・・


「って、おかしいじゃないっ!?」


 彼女は、男爵家に引き取られたのよね? ああでも、男爵に後妻が入ったとは聞いていない。彼女を引き取ったはいいけど、その母親が病気だろうが面倒を見る義理は無いということ?


「どういうことか、本格的に調べて」


 これまでの、学園での探偵ごっことは違い、彼女の家も探らせることにした。


 すると、予想通りというか・・・ある意味、予想以上のことが判明した。


 ガチだったっ!?


 いろんな意味で、ガチだったっ!?


「マジやべぇじゃんっ!?!?」


 と、わたくしはおののいた。


 彼女が男爵家に引き取られたのは、高位貴族と縁付かせるための娘が生まれなかったから。しかも、学園にはいかせるけど、嫁には出さず、どこぞの子息や貴族の愛人にするためだというから、呆れて物も言えない。


 彼女が、母親の医療費を自分で支払っているのは、男爵が診察料の支払いを拒否したから。それで彼女は、どうにかして代金を贖おうとして、男子生徒達に貢がせることにしたようだ。


 男爵は学園高等部に、彼女を十二歳で入学させていた。通常なら、十五になってから入学するはずの高等部へ、だ。


 それも、早く学園を卒業させて、彼女をどこぞの馬の骨の愛人に出すために、なのだとか。


 年齢詐称、戸籍などの公文書偽造。


 元平民だから、戸籍を上手く誤魔化せてしまったのでしょうね。


 でも、これは許されていいことではない。


 わたくしは男爵の悪事を暴き、然るべき関係各所へと通報した。無論、証拠も提出致しましたわ。


 そうやって男爵が逮捕された今、彼女は男爵令嬢ではなくなった。 


 年齢詐称がバレ、学費も払えなくなった。


 彼女に群がっていた男子生徒達も、彼女から波が引くように一気に去って行った。


 ぽつんと、一人で退学の手続きをして、荷物を抱える小さな背中。


 彼女が小柄で、庇護欲を誘うのは、今では当然に思える。


 だって、十五歳以上の子女ばかりの高等部で、彼女はただ一人の十二歳だったのだから。


 年下なのだから、小さくて当然。頼りなくて当然。無邪気で当然。


 彼女は、男子生徒達に嘘は吐いてなかった。


 母親が病気なのも本当で、お昼にお腹が空いていたのも本当だった。


 この学園では、寮に食費を払えば朝食と夕食が出て来る。だけど彼女は既に支払われていた食費を、男爵に内緒で食事は食べないからと払い戻しさせ、そのお金を母親の医療費に充てていた。


 朝食と夕食を寮で食べず、昼食を男子生徒達に奢らせ、テイクアウトのメニューを夕食と翌朝の朝食として食べていたという。


 男子生徒からの貢ぎ物も、街で換金して医療費に。街で買い食いしたりしたお菓子は、保存の利く焼き菓子が中心。その焼き菓子は、自分で食べたり、母親へお見舞いとして持って行ったり、入院する診療所のスタッフへの賄賂として配っていた。


 彼女の、『病気の母がいるんです』という言葉を、本気にしていた人は、一体どれだけいたのでしょうか?


 男に金を出させるための嘘。

 恋人ごっこ、判り易く可哀想な嘘を吐く彼女へ見せかけの同情をしての恋愛ゲーム。


 男子生徒達はそういう風に思っていたからこそ、本当に高価な品物は彼女へ買い与えなかった。多くの現金を直接彼女へ与えなかった。


 彼女に侍っていたクセに、彼女のことを、心から信じている男はいなかった。彼女のことを、本気で調べた男は誰もいなかった。


 更には、『誰が彼女を落とせるか?』だとか、『誰が彼女を宿に連れ込むことができるか?』と、下世話な賭けをしていた男子生徒が何名かいたそうです。


 困窮していると主張していた彼女を対象にした、恋愛ゲームや賭け事。


 まぁ、彼女の実年齢と男爵の逮捕とで、そういうクズ野郎共は去って行きましたが・・・


 問題は、そんな風にして、これからの生活を不安に思っている彼女を、本気で囲おうとしているロリコンつ、真性のクソ野郎共、と言ったところでしょうか。


 まぁ、彼女は年下ですし。病気の母親を助けるためとは言え、男子生徒達にあれこれ貢がせていたのは事実なのですが・・・


 わたくしの婚約者がクズ男だと知ることができたのも、彼女のお陰ですし。


「あなた、わたくしの侍女になりなさい」


 途方に暮れたような小さな背中に声を掛ける。


「……ぇ?」


 振り返った彼女の瞳が驚いたように見開かれる。


「衣食住は保証して差し上げます。衣服は侍女のお仕着せでもよければ、ですが」

「じじょ……?」


 あら、ぽかんとした顔も可愛らしいのね。


「それにあなた、十二歳で高等部の授業を受けて、ちゃんと理解して付いて来られる頭をしているのだもの。家庭教師も付けてあげるから、このまま学園を卒業させてあげるわ」

「え? あ、でも、あたし、十二歳で……」

「ああ、あなたはちゃんと入学テストを受けて合格したのでしょう?」


 これは裏口などではなく、彼女の実力。


「もう一度、学力テストを受けてスキップ制度を利用すればいいのよ」


 なにせ、男爵家に引き取られるまではろくに本を読んだことも無かったという彼女が、ほんの数ヶ月勉強しただけで、高等部の入学試験をパスできてしまうんだから・・・本当に驚いた。


 ぶっちゃけ、この子天才だわ。


 放っておいて、ロリコンクソ野郎共の毒牙に掛けられるのは、心底勿体ない。


 この頭脳は、もっとたくさん色々と学んで、もっと有意義なことに使用されるべきよ!


「というワケで、付いてらっしゃい」

「え? で、でも……」


 戸惑う彼女に言い募る。


「今返事をすれば、昼食を食べさせてあげる。もちろん、お給料も出しますわ。ああそうそう、大事なことをいい忘れていましたね。お母様も、うちに連れてらっしゃい」

「今日からよろしくお願いしますお嬢様っ!!」


 と、年下で天才で、庇護欲を誘う、元悪女な彼女を、わたくしの侍女としてスカウトした。


 さて、それじゃあ、次は・・・婚約者に婚約破棄を突き付けて、高額な慰謝料でもぶんどってやりましょうか。


 うふふ、わたくし、クズやクソ野郎共は嫌いなの。容赦はしないので、首を洗って待ってろや!


 あとは、そうね・・・この、庇護欲そそる彼女を、思う存分愛でようじゃないの♪


 実はわたくし、妹が欲しかったのよね♪


 ――おしまい――



__________



 おまけ。


 お嬢様「ところであなた、どうしてあんなにお胸をたわわに盛っていたの?」(´・ω・`)?


 元悪女「えっと、『男の人は、おっぱいの大きい美人さんの言うことを聞くのが好きなのよ』って、近所に住んでいたおねーさん(娼婦)が教えてくれたので、ばいーんとおっぱいを盛っちゃいました」(*ノω・*)テヘ


 お嬢様「間違ってはいないのかもしれませんけど・・・もう、あんなに盛らなくてもよろしくってよ」( ̄~ ̄;)


 元悪女「はーい、お嬢様」(*>∀<*)ノ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る