婚約者が庇護欲をそそる可愛らしい悪女に誑かされて・・・ませんでしたわっ!?

月白ヤトヒコ

あの女・・・ニセチチで愚かな野郎共を誑かしていたとはっ!?

 わたくしの婚約者が……とある女子生徒に侍っている、と噂になっていました。


 それは、小柄で庇護欲を誘う、けれど豊かでたわわなお胸を持つ、後輩の女子生徒。


 しかも、その子は『病気の母のため』と言って、学園に通う貴族子息達から金品を巻き上げている悪女なのだそうです。


 お友達・・・、が親切そうな顔をして教えてくれました。まぁ、面白がられているのが、透けて見える態度でしたけど。


 なので、婚約者と、彼が侍っている彼女のことを調査することにしたのですが・・・


 ガチだったっ!?


 いろんな意味で、ガチだったっ!?


「マジやべぇじゃんっ!?!?」


 と、様々な衝撃におののいているところです。


「お嬢様、口が悪いですよ」

「あら、言葉が乱れましたわ。失礼」


✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧


 調査一日目。


 くだんの彼女は平民として暮らしていたところ、男爵が侍女をお手付きにして産ませた子供であることが判明。この春、めでたく? 貴族や裕福な平民の方が通うこの学園へ入学。


 元平民なので、マナーに疎いとのこと。


 そして、入学初日から複数名の男子生徒を侍らせていた模様。


 とんでもない悪女なのではないかしら?


 調査二日目。


 彼女は、ランチのときにはいつも男子生徒達に囲まれている。


 なんでも、お金がなくてお昼が食べられないとのことで、男子生徒達に奢らせている模様。


 その中には、婚約者持ちの男子もいます。


 わたくしの婚約者も、彼女にお昼をご馳走して鼻の下を伸ばしているうちの一人のようです。


「チッ……浮気野郎共め!」

「お嬢様、舌打ちはおやめください」

「あら、失礼」


 彼女は、テーブルに余ったパンをこっそり鞄に忍ばせました。それが見付かると、『お腹が空いたら後で食べようと思って』とのこと。


 恥ずかしそうに笑う彼女に同情? をした男子生徒が、テイクアウトのメニューを注文して、彼女がそれを喜び、我も我もと男子生徒達がテイクアウトのメニューを注文し始めました。


 彼女は、てんこ盛りになったテイクアウトメニューを困った顔で見詰め・・・弱々しい笑顔で、『こんなにたくさんは一気には食べられませんけど、ありがとうございます』と言って、でも料理を全部持って帰っていた。


 図々しいですわね。あんなたくさんの食べ物、どうするつもりなのかしら?


 調査三日目。


 放課後、彼女は取り巻きの男子生徒達と街へ繰り出しました。


 そして、複数名の男子生徒に連れられ? て、買い物をした模様。


 雑貨屋さんやアクセサリーショップに入って行ったのを見ました。


 然程さほど高価なお店というワケではないけれど、平民基準ならばそれなりのお値段のアクセサリーや原石のままの宝石を買ってもらった模様。


 夕方、彼女は笑顔で彼らへ礼を言い・・・彼らと別れたその足で、質屋へと向かったそうです。


 わたくしは、日暮れ前に帰りましたが。


 そして、『ちっ、しけてんな』と舌打ちをしながら出て来たそうです。


 売ったのね! しかも、『しけてる』とはなんてことでしょう! 心(おそらく下心満載)の籠ったのアクセサリーを売り飛ばすだなんて・・・


 彼女はやっぱり悪女だったのですわっ!? ああ、彼女が悪女であるという決定的瞬間、ちょっと見たかったですわ。残念です。


 彼女は悪女なのだと改めて思い、彼女に侍る婚約者の目を覚まさせるべく、有無を言わせない証拠を掴むため、彼女の素行調査を続けることにしました。


 彼女は授業には、無遅刻無欠席。態度は至って真面目だそうです。成績は中の下。


 まぁ、ついこの間まで平民だったことを鑑みると、優秀な方だと言えるかもしれませんね。


 ただ、学園の備品をこっそり拝借していることも度々。それを見付かり、担当教科の教師(男性)に呼び出しを食らうこともあるそうです。


 ・・・男性教師までたぶらかしているのかしら?


 昼食は相変わらず、男子生徒に奢らせる毎日。食事やテイクアウトのメニューは、男子生徒達が持ち回りで彼女へ奢る……いえ、貢ぐことに決まったようで、この前のように大量の食べ物を抱えることはなくなったみたいです。


 そんな日々が続いて――――


 わたくし、知ってしまいましたの・・・


 彼女がっ、彼女のあのたわわなお胸がっ、実はニセチチだったなんてっ!?


 というのは、冗談でもなさそうですが。


 ある日の休日のことです。


 彼女が学園寮からこっそりと出て行ったとの報告がありました。


 なので、わたくしは彼女の悪行を監視するため、後を付けることにしました。


 街に出た彼女を見失いそうになったところ、わたくしの侍従が教えてくれました。


「彼女はあれです」


 と、指差されたのは・・・なんとびっくり、質素とも言える古着のワンピースに帽子を深く被った――――お胸がすっとんとんな女の子!


「おのれ、あの女・・・ニセチチで愚かな野郎共を誑かしていたとはっ!?」

「お嬢様、偶にすっごく口悪いですよね」

「あら、気のせいじゃないかしら?」


 うふふと笑って誤魔化し、彼女の監視を続ける。


 彼女は、下町の雑貨屋を巡り、あれこれと買い物をしている様子。


 わたくしが彼女の買い物に飽きた頃、彼女はとある場所へ向かった。

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