知略と先読み

 さて、知略と言えば、相手の行動を先読みして痛打をあたえる――

 そんな描写を想像すると思います。


 なので先読みについて語っていきましょう。


 まず、知略において相手の行動の先読みが必要になる状況とは、どういうものでしょうか? ジャンケン、コイントスを考えてみてください。


 コイントス勝負で、相手が表か裏を出すかは完全なランダムです。

 そこに先読みする意味はありません。


 ジャンケンもそうです。

 グー、チョキ、パー。

 それぞれにがあり、差異がありません。


 こういった場合、最適な知略というものは何でしょう?


 クラウゼヴィッツはこういった出たとこ勝負を「戦場の霧」と例えました。

 こういった状況で目的にするのは「負けを最小に抑える」ことです。


 相手がどんな手を打つのか全くわからない、「」の影響下にある場合、必勝法はありません。運に左右される要素が大きくなります。


 ――例えば、戦術シミュレーションなどのゲームを考えて見てください。

 相手の編成がわからないのに、騎兵に強い槍兵だけを持っていきますか?

 騎兵、槍兵、弓兵をバランスよく編成しますよね?

 もしマップを既にプレイ済みで、敵の弓兵が多い、という「完全な情報」を得ていた場合は、あなたは弓兵に強い騎兵を戦場に大量に投入するはずです。


 ですが、じゃんけんのように均等に勝利の可能性がある状況ではどうでしょう?

 「安全に負ける方法」を考えるのが、知略の使い所、知略の目的となります。


 この方法を「ミニマックス法」といいます。

 普段我々が考えるという行為をする際の雛形で、AIがチェス、将棋などをプレイする際のアルゴリズムとしても用いられるものです。


 このアルゴリズムの基本的な考えは、その場面が総合的に見て、どの程度自分にとって有利か、評価することにあります。

 ジャンケンであれば、例え相手が何を出すかが不明でも、じゃんけんという場面を適切に評価できていれば、(グー、チョキ、パー、どれを出しても変わらない)選択肢のうち、もっとも有利な場面を出させるような手を打てば良いわけです。


 場面の選択肢だけで算出できる「勝ち筋」は静的なものです。

 それはたとえばチェスで言えば、コマの数や種類、位置などです。

 キングを取りに行くまでのコマの動きを想定しても、ここでは相手の動きがないので先読みをしていないことになります。だから「静的」なのです。


  なので先述したジャンケンでは、「勝てる手」を出すのが困難なのです。


 どういった手を打てば有利なのか? この先読みを実現させるためには「相手の情報」と「自分の情報」が必要なのです。

 そしてそれを具体的に説明するのが「ミニマックス法」です。


★★★


 さて、ここで先ほどのジャンケンに変化を与えてみましょう。

 相手の心を読むことはできませんし、簡単に動かすことはできません。

 しかし自分の心は簡単に動かせます。


 たとえば「今日はグーを出したい気分だな」と、あなたがそう言った場合、相手の選択肢の価値が動きます。グーを多く出す相手に、均等にグー、チョキ、パーを出すよりは、パーを多く出したほうが、勝利する確率は高まります。


 ここで相手はコントロールされるわけです。

 しかしあなたは相手がパーを出すと「先読み」し、チョキを出す。

 当然ながら貴方は勝利し、そのまま相手のパーでビンタされるでしょう。


 これが「先読み」の概要です。

 先読みに必要なのは、何よりも状況の把握と、情報です。


 あまりにも当たり前な内容、先読みの「本質」を説明しました。

 これが知略の基本中の基本です。


 通常、思考というのは相手の先、もしくは自分の行動を3手ほど思い浮かべた後、そうしたらどうなる? をさらに3手思い浮かべるということを、3度か4度行うはずです。


 しかしこういった思考では、基本的に人間は無意識の内に選択肢を枝刈りしています。考える必要のない選択肢は切っているのです(相手が負けを選ぶ、自爆する手もミニマックス法では考慮に入れます)


 これをミニマックス法の応用の、α-β法といいます。

 通常、人間はこちらで思考しています。

 ありうる選択肢を全部考えるのは、とても大変ですからね。


 さて、今回のお話では、知略の基本の先読みについて説明しました。

 次は交渉の余地がある知略について解説しようかと思います。


 この次も気になる方は、ブクマをよろしくお願いします。

 ではでは。

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