こん棒
グオゥッ――
風を裂く恐ろしい轟音と共に、巨大な木の塊がアイザックの頭上を掠めました。
(くそっ!一発でも喰らったらアウトだな)
アイザックは巨大なトロールの懐に一気に潜り込みます。そして勢いに乗ったまま鉄の直剣でトロールの下っ腹を切り上げると、どうだと言わんばかりの笑みを漏らしました。
ところがトロールは怯む様子も無く、振りぬいた棍棒を頭上に構えアイザック目掛けて振り下ろします。
ドゴッッッ―――
棍棒を叩きつける鈍い音が石窟内に響き渡りました。
間一髪で跳び避けたアイザックは、すぐに体勢を立て直すと再びトロールに対峙します。怨恨の叫びを上げるトロールを前にアイザックは確かな手ごたえを感じていました。
(これなら押し切れる)
アイザックは勝利を確信しました。
ところが、突如トロールの傷口から泡が湧き立ったかと思うと、見る見るうちに傷を塞いでいくではありませんか。アイザックの顔が蒼ざめます。
「おいおいおい……」
◇
その男が言うには、この石窟を抜けた先には今の時期だけ花を咲かせる稀有な植物が自生しているそうで、その花を煎じたものを一部の人間に高額で売却できるとのことでした。
ところが、石窟の奥には昔から妙なモンスターが住み着いているそうで、石窟を通る者がいると棒切れを振り回しながら威嚇するというのです。
「村の人間は怖がって石窟に近づこうとしない。だからアンタみたいな冒険者に仕入れを依頼してるんだが――」
たまたま立ち寄った道具屋で話を持ちかけられたアイザックは「酒代くらいにはなりそうだな」と、依頼を承諾しました。
◇
「何が棒切れだ!こういうのは俺の業界では棒切れって言わねんだよ!」
アイザックは吐き捨てるように叫ぶと、喰らい付くような目でトロールを睨みつけます。
「あのハゲ親父、帰ったらぶん殴ってやる!」
愛剣を握り締め、雄々しくトロールにその切っ先を向けながらも、アイザックの頭は逃げの算段を始めていました。
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