秋の嵐 3話

 本部から隠し扉のある下着屋へ出たところで朔が止まった。

「僕は絵理さんに話をつけるから少し待ってくれ」

 そう言ってバックヤードに声をかけると中から絵理さんが出てきた。

「あら、朔ちゃん! どうしたの、その恰好?」

「急いでいるから説明は今度にさせてください。緊急事態で、マナンをDAM本部に引き込みます。店のスタッフを帰して、店を閉めてもらえませんか。閉めたら絵理さんも避難してください。危険ですので。急で申し訳ありませんが、よろしくお願いします」

「分かった。でも、私は帰らないわ。朔ちゃん達がこの扉からマナンを引き込んだら、戦闘が終わるまで扉を見張っている人がいたほうがいいでしょ」

 そう言って絵理さんはDAM本部へ通じる隠し扉を指さした。

「だから地上のことは気にせず、戦いに専念しなさい」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 私達は絵理さんに頭を下げ、デパートの入口へと急いだ。


 デパートの中も人が多いが、外はそれ以上だった。どうやらデパート前の広場でステージパフォーマンスをしているらしい。人だかりの上に数体のマナンが見える。

「よし、武器を開け」

 朔の合図で私とつるぎは武器を開いた。そして頭上に掲げる。すると9体のマナンが集まってきた。

「朔! もういい?」

 朔が能力でマナンを検知する。

「まだだ! あと四体いる!」

 その時、女性が近づいてきた。

「素敵な衣装ですね! パフォーマーの方ですか?」

「いえ、私達は……」

「写真撮ってもいいですか?」

「私も一枚お願いします」

 段々と人が集まってきた。どうしよう……

 つるぎが私に耳打ちする。

「下手に否定しても不自然です。ここはパフォーマーってことにしておきましょう」

「分かった……」

 武器を頭上にあげたまま、それっぽいポーズをとって撮影に応じた。

「よし、全部集まった。戻るぞ」

 朔が小声で言った。真希は集まった人たちに声をかける。

「すいません! もう行かないといけないので!」

 私達は急いでデパートに入った。

 下着屋に戻ると店先は半分シャッターが閉まっていた。

「よし、マナンは全てついてきているな。絵理さん! これからマナンを連れていくのでバックヤードに入って下さい!」

「分かった!」

 店の中から返事が聞こえた。

「行くぞ!」

 私達はシャッターの隙間から入り、隠し扉でDAM本部へ降りた。


 本部には祐太郎、柚葉、寧々、杏奈の姿があった。柚葉と寧々が持つ武器の効果でマナンが分散する。

「ほや! マナンがこんなに……ど、どうしましょう」

 不安そうな柚葉に真希が近寄る。

「落ち着いて、柚葉ちゃん。能力を使わなくても、柚葉ちゃんならもう大丈夫。呼吸を整えて、目の前のマナンだけを見て」

「わ、分かりました!」

 柚葉は弓を構えた。朔が叫ぶ。

「ガーディアンは好きにやれ! 執行官はそのサポートだ! 僕らと杏奈のことは気にしなくていい!」

 そして朔は杏奈の側に移動した。祐太郎もそれに続く。

「やぁぁーー!」

 真希は目の前のマナンに次々と切りかかった。真希の背後から襲い掛かるマナンはつるぎが斧で弾き飛ばす。

「い、いきます」

 柚葉が矢を放つ。不安げな様子だが着実に射止めている。寧々は柚葉の正面にマナンを誘導しつつ、柚葉に近づけすぎないように立ち回っていた。

 これなら全部倒せる……!


 つるぎ達のおかげもあり、目の前のマナンは全ていなくなった。

「ふぅ……全部倒せてよかった。サポートありがとう、つるぎ」

「いえ。真希の活躍のおかげです」

 その時、ガツンという物をぶつける音が響いた。

「おい! あれを見ろ!」

 朔が声を上げる。音のする方を見ると、どこからか現れた一体のマナンが触手のようなもので机を掴み、大水槽のガラスに打ち付けていた。

 もしガラスが割れたら、前みたいに水でマナンが巨大化してしまう。

 真希が剣を構えたその時、奥から神谷総監督が現れた。片手でレイピアを握っている。

「総監督……」 

 さっきまでベッドで横になっていたのに、どうして……

 蘭はそのマナンに近づき、レイピアを向けた。マナンは動きを止める。

「なあ、お前。言葉を話すらしいじゃないか」

「ああ……パパから教わった」

「そうか。今日デパートの前に集まっていたのはパパの指示か?」

「違う……蘭のいる場所、多分ここ。パパ喜ばせたかった」

「私とパパは何か関係しているのか?」

「パパ、蘭取り戻したい。……連れて帰る!」

 そう言ってマナンは持っていた机を捨て、蘭の首元へ触手を伸ばした。

 その瞬間、蘭はレイピアでコアを刺した。

「きゅる……」

 触手の部分が水となって地面に落ちる。しかし、ガーディアンほどの素質を持たない蘭ではコアを一回刺した程度でマナンは消滅しない。

「下手な真似をしなければ、うちの優秀なガーディアンが苦しめずに消滅させてやる。この声は智春……いや、パパには聞こえているのか?」

「聴覚と視覚は繋がっている」

「そうか……分かった」

 蘭はマナンに顔を近づけた。

「智春、聞いているんだろう。……すぐに行く。首を洗って待っていろ」

 蘭は真希を呼んだ。

「一瞬で終わらせてやれ」

 そう言ってレイピアを引き抜いた。

「分かりました」

 真希がマナンを切る。マナンは消滅した。

「総監督、智春っていうのは誰なんですか?」

 朔が尋ねる。

「ああ。みんなに聞いてもらいたい話があるんだ」

 蘭は智春が幼馴染で、『ものに能力を与える力』をもつ可能性があることなどを話した。

「…智春とはもう十五年くらい会っていない。マナンを作った犯人の予測人物像を研究部から聞いて、智春じゃないかと思い当たったんだ。共犯だとか、そんなことは絶対にない。……信じてほしい」

 蘭は頭を下げた。

「当たり前じゃないですか!」

 朔が言った。

「総監督は……蘭さんはマナン撲滅のためにいつも全力だった! 僕やつるぎみたいなマナン事件の関係者にも寄り添ってくれた! 犯人が昔の知り合いだったとか、そんなことくらいで今までの信頼は崩れないんですよ!」

「そうですよ。そんな蘭さんだからみんなついてきたんです」

「それに蘭が器用にわしらを騙せるとは思えんしのぅ」

 つるぎと杏奈も蘭の言葉を信じた。

 ほら、やっぱり言ったとおりだった。蘭さんの今までの姿を疑う人は誰もいない。

「みんな、ありがとう……」

 そう言う蘭さんの目元は少し潤んで見えた。

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