ドキドキ?夏合宿 3話
歯磨きなどを済ませ、寝室のベッドに潜るとつるぎが話しかけてきた。
「真希、今日はありがとうございます」
「ん? 何が」
「朔のこと。いろいろ協力してくれたので。今日は久しぶりに朔とたくさん話すことができました。……まあ、怒られたりもしたんですけどね」
そう言ってつるぎが笑う。ランニングの時のことか。
「昔はそれなりに仲が良かったと思うんです、私達。でも、DAMで再開すると朔は人を寄せつけない雰囲気に変わっていて、上手く話せなくて……朔は初め、ガーディアンになりたかったんです。ですが適正が合わず、指令官を目指し始めました。毎日、指令官やマナンについて勉強している姿を私は遠くから見守っていました。そしてあっという間に階級に差が開いてしまって、それからはより話しかけづらくなりました。一等指令官になってからは朔と相性のいいガーディアン候補がなかなか見つからず、いつもイライラしているようでした。……その中でやっと朔は真希に出会えたんです。だから真希を手放さないためにちょっと強引なこともしたんじゃないかと少し心配でした」
「まあ、そうだね……」
いきなり呼び捨てにされたりとか、あんぱん押し込まれたりとかね。
「やっぱりそうでしたか……朔って昔から不器用なところがあるんですよね。あんな風に大人っぽい恰好や口調をするのは、自分を強く見せたいっていう気持ちの表れなのかなって私は思っています……」
生意気な話し方は大人の武装だったのか。
「ですが、真希と一緒にいる朔は…いつもよりも子供らしく見えます…それって素敵なことで…私も嬉しい…です…だからもういいんです…私のことを好きじゃなくても…朔が笑う姿を…見られれば…」
うつらうつらしていたつるぎは眠りについたようだ。規則的な寝息が聞こえる。
「おやすみ、つるぎ」
つるぎの頭をそっと撫で、私も眠りについた。
喉が渇いて夜中に目が覚めた。隣で眠るつるぎを起こさないようにそーっとベッドからでる。
一階に降りるとダイニングに明かりが点いていた。
「朔?」
扉を開けるとテーブルで何か作業をしている朔の背中が見えた。
「真希か。どうした」
気づいた朔がこちらを振り返る。
「ちょっと喉が渇いて。朔は何してたの?」
キッチンで麦茶を注ぎ、それを持って朔の向かいに座った。
「眠れなかったから、今日のトレーニングの記録をつけていたんだ」
朔の手元にはノートがあり、そこにはびっしりと文字が書いてあった。
朔は手を動かしながら続けた。
「ガーディアンと執行官の管理も指令官の仕事だからな。最適なトレーニングや戦闘プランを立てることで、班員のダメージを最小限に抑えることができるんだ」
私達が怪我しないように一人で考えてくれていたんだ。
「そっか。偉いね、朔は」
朔はガバッと顔をあげた、
「な…っ! そんなこと言ったって明日のトレーニング、軽くしてやらないからな!」
素直に受け取っておけばいいのに。意外と褒められ慣れてないのかな。
「はいはい」
朔はノートをぱたんと閉じ、真希の目を見つめた。
「真希は辛くないか」
「えっ?」
予想もしない言葉に驚いた。
「僕が声を掛けなければ何も知らずに過ごせたのに、無理やりこっちへ引き込んでしまった。焦っていたんだ。それにつるぎのことも……」
朔は机に目を落とした。
「つるぎから聞いたか、僕のお父さんの話」
「うん……」
「そうか……いいんだ、言わないといけないと思っていたからな。……僕のお父さんはマナンに誘導されて事件を起こし、罪に問われた。お母さんはその現実を受け入れられず、心を病んでしまった。今は病院に入院している。一人になった僕を蘭さん…神谷総監督がDAMに引き取ってくれたんだ」
それで今はDAMに住んでいるんだ。
「僕がDAMに加入してすぐにつるぎがやってきた。執行官になるとか言い出してな……本当は嫌だった。何も知らずに平和な世界で生きていてほしかった。でもつるぎはやめてくれなかった。せめて僕の目の届くところに置いていけるように、総監督に頼み込んで僕の班に入れてもらったんだ。…だから絶対に危ない目になんて合わせない。もちろん真希のこともな」
朔からつるぎのことを聞いたのは初めてだった。つるぎのこと、やっぱり大切なんだな。
「私は辛くないよ。大切な人を守るために戦えることを誇りに思っている。……つるぎもきっと同じ気持ちだよ」
「そうか……引き留めて悪かったな。明日も動くんだ、ゆっくり休めよ」
朔はまだ納得していない様子だった。相手の口から言葉を聞くまでは私がどれだけ言葉を尽くしても信じられないのだろう。
「うん。おやすみ、朔」
真希はダイニングをあとにした。
翌朝、朝食と身支度を終えた私達はダイニングに集合していた。
「今日の午前中は真希とつるぎで模擬戦闘を行ってもらう。お互いの戦闘能力を知っておくことは協力して戦うときに役立つだろう。場所は昨日見つけた広場だ。行くぞ」
広場って昨日のランニングで通りかかったあそこか。確かに人気もなくて動きやすそうだった。
私達は走ってその場所へ向かった。
「よし、着いたな。二人にはこれを使ってもらう。」
手渡されたのは文庫本のような形の青い物体。つるぎのほうは変形して斧になった。私もいじくりまわしていると見慣れた剣の形になった。
「これはDAMの戦闘員がトレーニングで使う武器だ。人同士で使っても安全なように刃はなく、表面をシリコンで覆っている」
確かに今まで使っていた剣と手触りが違う。
「でも怪我をしないとは限らないから、攻撃は寸止めしてほしい。あと、真希の体力が少ないから二分の時間制限付きだ」
……正直それはありがたい。
「時間内に攻撃を決めたほうを勝ちとする。練習だからって手を抜くんじゃないぞ」
「もちろんです。全力で行きますよ、真希!」
「うん!」
距離をとってお互いに武器を構える。武器の先は相手の喉元を狙っている。
「それじゃあいくぞ。……始め!」
朔の号令とともにつるぎは斧を頭の上に振り上げた体勢になった。
剣道でいうと上段の構えに近い。振り上げた状態では剣道の打突部位である頭を狙うことが難しいし、むやみに近づいて振り下ろされたらまずい。斧は剣よりも重心が先のほうにあるから剣道の頃のタイミングでは避けきれないだろう。
剣先をつるぎの喉元から振り上げた左こぶしに向けた。平生眼の構え。剣道なら上段で構える相手にはこれがセオリーなのだが、実践ではどうか。
「はぁっ!」
掛け声とともにつるぎは真希の頭に向かって斧を振り下ろしてくる。斧の軌道を逸らすため、私は剣を斧の側面に当てようとした。
私の剣が斧を追って持ち上がったところで、斧は軌道を変え、私の剣をすり抜けて胴体を狙ってきた。すかされた剣は斧を逸らそうと力を込めていたため、重心のバランスが崩れる。
まずい……!
真希はギリギリのところで距離を詰め、攻撃を逃れた。斧は小回りが利かないため、接近戦では不利だろう。たまらずにつるぎが距離を取る。
斧の重量がこの試合のポイントになる。それは有利にも不利にも働くからだ。重たい斧を剣で動かすには軽い力では跳ね返されてしまう。そのため力を籠めるとその分かわされたときに体勢を崩しやすくなる。一方で斧を振り下ろさせれば、重い斧を再び振りかぶるためには時間がかかり、空いた頭を狙うチャンスとなる。
やっぱりあの斧を下げさせるしかないか……
「やぁーっ!」
真希はつるぎの振り上げた手首を狙って飛び込んだ。つるぎは真希の剣が届くよりも振り下ろしたほうが速いと考えたのか、真っ直ぐに振り下ろしてくる。
……かかったな。これはフェイントだ。
真希は途中で動きを止め、振り下ろされる斧を逸らした。斧はその重さのまま地面に向かって落ちる。
私は後ろの足に重心をかけ、剣を振りかぶった。そして頭を狙う。引き面。これで勝てる。
「メェーーーン!」
しかし、つるぎは後ろに跳び退り攻撃をかわした。攻防はふりだしに戻る。
いや、そんなことないかも。距離を取ったつるぎは斧を振りかぶらずに体の前で持っていた。今なら頭が狙える。
「やぁーっ!」
「はぁーっ!」
私たちは同時に飛び出し、相手の頭を目がけて振りかぶった。
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