第8-3話「気づかないフリをしていた」
□登場人物
https://kakuyomu.jp/users/NainaRUresich/news/16817330654753611017
□本編
抗菌薬投与のタイムリミットから1日オーバー。
死のタイムリミット当日。
ララは嫌な予感を抑えながら、ベッドの彼の顔色をうかがう……
と――
「ララ……」
彼は……生きていた。
かなり苦しそうだが、意識が一時的に……
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「さ、早苗さま!!」
彼にほっぺたを触れられる。
夢なのだろうか。
それともコウセイブッシツなしで、5%程度の可能性で生き残った……?
「あぁ、ああぁ!! 生きてる!! 早苗さま……!」
ララはすぐに、抱きついた。
早苗が辛うじて、指だけを動かす。
「……え?」
その方角のポーチを見ると、紙と液体が入ったボトルが。
読んでみるが――
「……えええ!? これ、ペニシリンなノ!?」
でも全部失敗してたのに。なにがどうなって……
「と、とにかク……」
ララは注射器を取り、紙に書いてある通り、早苗に点滴注射した。
たぶん、これであってるハズ。
「……早苗さま」
早苗の意識は再び途絶えていた。
それからララは指示通り、ペニシリンを作成し続け、継続的に注射した。
生理的食塩水を点滴しつづけ、3日目に意識が辛うじて戻り、すり潰したビーツを食べさせる。
次第に、呼吸が安定する。
血圧も触れるようになり、脈も安定した。
それからさらに、2日後。
「ララ……おはよう……」
「さ、早苗さま……! うう、うわああああん……!!」
寝込んでいるが、話せるまでに回復している。
この数日間程、つらい日はなかった。
「……ララ、大変だったよね……」
「いいの。早苗さま……」
早苗は顔をしかめた。
「痛むノ!?」
「大丈夫……苦しいのは、峠を越えたから……」
苦しむ彼の手を、ララはぎゅっと握った。
「ララ……ペニシリン、どう……?」
「大丈夫。ちゃんと書いてある通りにやったヨ……」
「そうか。効果はあったんだね」
口ごもるララ。
ペニシリンは全部失敗してた。なんで、完成してたんだろう。
「あっ、そういえバ……」
はじめて注射器を渡されたとき、すでに使い終わった後だった。
「あの、ペニシリンは全部失敗してた。どうやっテ……」
「……地下牢の、アオカビ」
苦しそうに、続ける。
「……カーミットが盗んできたチーズのカビを、その日のうちに、芋のスープで培養してた」
「ええエ!?」
「……あの時から、薬が必要になると考えていた」
さらに彼は続ける。
「その後、蛇の皮を煮て作ったゼラチンの固体培地に、アオカビを移動して、ずっと持ってた……」
つまり、二つのペニシリン試作体があって、
一つ目は、かなり前から作り始めていたらしい。
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「この街に付く前の宿で、ララが買い物をしている時、宿で簡単に精製した」
「……さ、早苗さま」
ポロポロと、涙を流す。
「もっとはやく教えて欲しかった……ずっと、ずっと心配してタ……」
「……ごめん。成功してるかわからないから、言いにくかった」
下手に希望を与えるのは、よくないと思ったが……
ちゃんと言うべきだったのだろう。
「ララ。君は、命の恩人だ……」
「え、うん……」
涙を拭くララ。彼の方こそ、何度もわたしを救ったのに。
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「もう少し、待ってほしい。これから1週間かけて歩行……リハビリする。2~3週間後には、元に近い状態に戻ってる……」
「早苗さま……無理しなくて、いいからネ……」
ずっと、傍にいるから。
そういってララは、彼のおでこに手で触れた。
◇
あれから7日後。
早苗の見立て通り、彼は立って、歩けるまでに回復していた。
彼は歩いて、ベッドに腰を掛ける。
「ララ、おいで」
「早苗さま!」
手招きされて、ベッドの隣に座るララ。
「ありがとう。君のおかげで生き延びた」
「ううん、全然……」
ララは好きな人の顔を見ると、自然に笑顔がこぼれた。
男なのに、綺麗な顔。でも本当にきれいなのは、その中身。
「……わたし、もう、何もいらないかラ」
「ララ……?」
「王にならなくてもいい。生きてればそれでいイ……」
「ありがとう。でも僕は、この世界に近代文明を作りたいんだ」
「うん。協力すル」
言ってララは、頭を早苗の肩に乗せた。
彼は身長が高いので、横に寄る感じだが……
「ずっと、みんなおかしいって思ってタ……」
「え?」
「お父さんに、結婚して子供作れって言われて、ヘンだと思った」
早苗の体温を感じながら、ララは続ける。
「なんでわたしの人生を決めるのって。結婚しなくても幸せだって。でも、今はそう思わなイ」
だって、今のわたしは……
□ララ
https://kakuyomu.jp/users/NainaRUresich/news/16817330654786615080
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