第三章 落ちた薬莢
CHAPTER.39 始まりはどんなものでも小さい
「今から、一切の捕縛任務をサボる!」
エルフとの決戦から三ヶ月後、高校も冬休みに入り、誉とプロ子は部屋の中で寝転がっていた。
グラン、ローザ、ライ、ザックの四人は、あのすぐ後にプロ子が未来へと送還した。ローザとライの二人は初め抵抗したが、グランが一声かけると直ぐにプロ子の指示に従い問題なく送還された。
そう、エルフ族の四人は問題無かったのだ。
問題は、ジェントルの送還だった。
ジェントルはその強力な能力が故、モルフェウスの力を借りて精神世界に捕らえていた。廃ビルから帰る途中でプロ子は誉、惣一と別れ、魔女の面々と共にジェントルの送還の為にSESへ寄った。
そうして、二ネット、マノン、エレーヌ、ファイエット、シヴィル、プロ子が教会に近付いて目の当たりした光景は6人の口をぽかんと開けさせた。
まず、ボロボロの外装だった教会が洗練された白を基調とした現代風なデザインのオフィスのような見た目へと変貌していた。軋む音を立てていた木製のドアは自動ドアになっており、中を入ればだだっ広い玄関ホールが迎える。
大企業のビルのような見た目に戸惑っている魔女たちを迎えたのは、疲れ切った顔をしているエメだった。
「もぉぉお、助けてぇぇ」
悲痛にそう言って、ピカピカに磨かれた大理石に座り込んだエメは事情を話し始めた。
なんでも、エメ以外の魔女が全員居なくなった今日というタイミングで、ジェントルは精神世界から自力で脱出したらしい。ただ、そんな時用にエメも外で待機していた。一瞬、目を覚ましたジェントルに驚いたものの、直ぐにモルフェウスと協力して精神世界に帰した。
が、ジェントルは諦めなかった。
また直ぐに脱出。それをエメとモルフェウスが戻す。
結局、十回ほど繰り返してモルフェウスが諦めてしまったので、ジェントルを捕まえる手立てが無くなってしまった。
エメもジェントルに正面突破されたら一人では止められない。諦めて自由にさせると、逃げる素振りを見せなかったそうだ。
それどころか、唐突にこの協会を修理してあげましょう、とか言って大改造を始めたらしい。
信者たちは次々と物質を生み出すジェントルを新たな魔女の仲間と信仰して、余計にジェントルはヒートアップ。遂には、教会丸ごと作り替えてしまったそうだ。
そこまでやって、ジェントルは満足そうに帰ってしまった。だが、一夜にして外見が変わった教会は目立ちすぎる。ただでさえ、近隣住民には怪しまれている組織ということもあって、エメは魔力を使い切って、人間には見えないように細工をしていたらしい。
『ナラザル』を見れば普通にジェントルは『武器屋』に帰って、店を開いているらしい。
それから今日まで、平和な日々が続いた。学校がある日はあまり無理は出来ないということで、簡単な任務だけが三ヶ月間続いた。
基本は誉と惣一が作戦を考えて、プロ子や時にはナキガオやフォルティス、SESが現場に向かうという方式で順調にアリメンタムを捕獲する日々。
SESの面々には、捕まえた人外を数日貸すという条件を提示すると簡単に任務を手伝ってくれた。何故か、誉たちにアリメンタムが引き渡される頃には心も体もすり減っている為、無抵抗で送還出来てウィンウィンだ。
ちなみに、グランとの戦いの間ずっとフォルティスはモルフェウスの空間で、もう一つの人格と戦っていたそうだが、何故か急にその暴力的な人格が消えたらしい。エメは原因が特定出来ずに不安そうにしていたが、当の本人は楽観的に喜んでいた。
そんなこんなで、地底人や龍人、精霊など色々な種族を簡単に捕まえて、既に人外のコミュニティではかなり噂になってしまった。
事前に正体がバレてしまっては、捕まえる際に不都合となる。ということで、誉は思い切って冬休みのあいだは、家の中に引きこもることにしたのだった。
「話は分かったんだけどさ。流石に暇じゃない?」
プロ子は頬杖をついて窓の外を眺めながら、間延びした声で言った。
「うーん、確かにな。でも、なんも出来ひんやん」
誉も何も考えない時間がここまで暇だと思っていなかったのか、そう言ってベッドに寝転がる。
「そうなんだけどね。うーん」
「うーん」
二人が天井を見上げながら、うんうんと唸っていると、誉の携帯が鳴った。
「ん?……これや!」
誉はメールを読んで、直ぐに叫んだ。そのままの勢いで、プロ子にも画面を見せる。
「なになに……?んー良いね!」
プロ子も満足そうに頷いて、活気づく。
メールの送り主は二ネット。
内容は
『私たちが育てられた魔女教会本部から召喚命令が届いた。良ければ一緒に来ないかい?ヨーロッパまでの旅費は出す』
といったものだ。
誉とプロ子は舞い上がって、謎のダンスをしていた。
「よっしゃあ!ヨーロッパ旅行じゃあ!」
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