CHAPTER.27 人を信じよ。その百倍も自分を信じよ
「天使がこっちについとるからな。なあ?」
呼び掛けた天からは、惣一が舞い降りた。
きらびやかな天使と共に。
「え、エレーヌ!?」
プロ子は、惣一の後から降りてきた彼女を見て目を丸くした。
エレーヌはいつもの魔女らしい真っ黒なローブとつばの広い三角帽子姿ではなかった。純白の柔らかな衣装を身に纏って、頭上には輝かしい光輪が浮かぶ。そして何より目を引くのは、彼女の背中の大きな、これも真っ白な羽だった。
話は『武器屋』が襲撃された日、エレーヌの部屋に惣一が訪れている頃に戻る。
「そして、肝心の笛は……持っていなかった?らしい」
首を傾げながらの惣一の言葉に、エレーヌも僅かに眉をひそめたが、直ぐにメモに書き留めた。
その微々たる挙動を惣一は見逃さなかった。
「うーん、やっぱエレーヌ、『笛の男』知ってるやろ?」
エレーヌは自分の身体が一気に強ばるのを感じた。
「えー、なんで?」
エレーヌは出来るだけ平静を装って、そう答えるがどうしようも無く声は震える。
何故バレた?どこで?いつから?
頭の中で自問自答するが答えが出てくる訳もなく、冷や汗が出るだけに終わった。
「まぁ、最初に狼男について聞きに来た時から怪しかったな。誉は行動から、僕は言動からエレーヌが『笛の男』を知ってるという結論に至った」
自分の口の中が異常なスピードで渇いていくのをエレーヌは感じる。
「今、僕たちは『笛の男』ってやつを追ってて」
指を立てながら、惣一はあの時の発言をそのまま繰り返す。
「こう僕が話した時、君は持ってたスナック菓子で咄嗟に顔を隠した、誉からしたら十分怪しい行動。そんで、協力的にみせて早く話を終わらせようとしているのが見え見え、らしい。誉はそこで怪しんだ」
更に、と惣一は続ける。
「『笛の男』、動物を操るんだっけ。まぁ頑張って」
今度はエレーヌが部屋を送り出すときに言った言葉を、そのままなぞる。
「今思えば、早く僕らを返したかったんやろうけど。流石にヘマしすぎやで。僕ら、『幻獣を操る』とは言ったけど『動物』とまでは言ってないんやわ」
「……っ」
エレーヌの脳裏にあの時の焦りが蘇る。
確かに、あの時は自分の発言にそこまで注意を払っていなかった。この男たちを出来るだけ早く部屋から出さなければという思い一心で軽率に行動していた。
しかし、後悔しても既に遅い。
心を見透かすように、惣一は笑いながら瞳を覗き込む。
「それじゃあ聞かせてもらおうか、エレーヌ。君は敵なんか?それとも味方なんか?」
エレーヌは仕方なく、全てを明かすことにした。
「味方ではあると思う。まず、私は人間じゃない」
「ちょ、待って」
ようやく語ろうとしたエレーヌの言葉を惣一はいきなり遮る。
「そもそも魔女は人間なんか?」
「あー、ベースは人かな。中世の頃、魔女狩りが頻発していた時に、そこから逃れたのが私以外の5人。魔法技術で寿命は延ばしてるけど。でも、私はそもそも人間じゃなくて、天使なの」
惣一は入ってきたドアを指して納得した顔を見せる。
「あー、配信者としての名前から取ってるんかと思ってたら、ガチの天使なんか」
「そーそー。私の階級は、熾天使様と智天使様の下の主天使っていう階級なんだけど」
惣一は天使についてある程度知っているのか深く頷いた。
「あれやんな、主天使ってその下の天使のお目付け役みたいな」
「そ、普通はね。でも私は違うくて、私は天使としての力が天才的だったから特別な立場を頂いた。『神具奪還特別部隊』っていう」
「はいはい成程ね、話見えてきたな。つまり『笛の男』が持っとった笛は天界のものなんか」
エレーヌは惣一の理解力に内心驚いた。
「そういうこと。それに身柄も引き渡さなきゃいけない。だから、そっちに渡すワケにはいかない……って思って隠してたんだけど。バレちゃった以上判断はそっちに委ねる、かな」
「んー、天界に引き渡した後の流れは?」
「まず、罪の確認として査問会に連行。って言っても、罪なんて明らかだし事務的な確認だけで終わり。で、罰も生きている状態じゃ天界に留まりにくいから、死後に魂にかけるもの。だから、『善の鎖』っていう、悪いことが出来なくなる制約を掛けて、後は寿命を待つカンジかな」
説明を聞いた惣一は、一瞬考え込むように下を向いたが直ぐに結論を出した。
「ええよ、直ぐに無傷で帰ってくるんやったら一回エレーヌに預けるわ。どうせ暫くは未来に送還出来んからな」
「やった。なら後はどうやって『笛の男』を捕まえるか考えないと。既に『武器屋』に勝つ実力を付けてるみたいだし。笛の所在も気になるし」
「あ、ちゃうねんちゃうねん。『武器屋』襲ったんは僕やし、それもエレーヌの敵味方をはっきりさせるっていう目的のためやねん。まぁ、それ以外にも『武器屋』をたきつけるっていう意図もあるけど。そやな、作戦共有しとこうか」
そうして、エレーヌと惣一は満月の日へと準備を進めた。
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