第二王子『憑き』占い師は、前世Vtuberの幽霊です!
鳩藍@『誓星のデュオ』コミカライズ連載中
第1話 良喜札めくるの異世界転生(?)
「やだ~夢の透明肌~♡ お肌スケスケ向こうの壁まで見えちゃ~う♡ ……とか言ってる場合じゃないわよねえ……」
アイスを買いに行ったコンビニ帰り。包丁で刺されたはずの『私』は、気づいたら豪華な部屋の真ん中で幽霊になって浮いていた。
広い部屋をぐるりと見渡せば、天井から下がるシャンデリアに、天蓋付きのベッド。パチパチと薪が燃える暖炉に、一目で高級とわかる瀟洒な家具の数々。
卒業旅行で行ったフランスのヴェルサイユ宮殿で見た、お手本のような王侯貴族の寝室だ。
――もしかしてこれ、異世界転生ってやつなの?
既視感と共に思い出したのは、ネットで読んだファンタジー小説。死んで異世界に生まれ変わった主人公が、特殊な力や前世の知識を使って活躍する話だ。
以前、親友が作画をしている漫画の原作と聞いて読んだフィクションが、まさか自分の身に降りかかるとは、思いもしなかったけれど……
――うん、ちょっと所じゃなく訳が分からないけど、一旦置いておきましょうか。
とりあえず今、分かっていることを整理する。
私の占いの結果が気に入らなかった視聴者の誰かが、わざわざ私のリアルを突き止めて殺しに来た。
そうして死んだ結果、どういう理由かはさておき、この部屋にいると。
「で、分からないのは……なんでこの身体なのかよね」
私は改めて、宙に浮く半透明な自分の体を確かめる。
内側を深紅に染めた、腰まである姫カットの銀髪。おそるおそる頭の横に手を伸ばせば、指先が固い巻き角を撫でる。
もし手元に鏡があったなら、銀のまつ毛に縁どられた深紅の瞳を持つ、白磁の肌の儚げな美少女の顔が映るはずだ。
身に纏うのはオレンジの生地に金色のビーズやメダルをこれでもかと縫い付けた、露出度高めの中東の踊り子衣装――所謂、ベリーダンスの衣装と言えばわかりやすいだろう。
頭には額の部分に雫型のルビーが輝く、金のビーズで編んだヴェールを被り、先の尖った両耳には、同じ形のルビーが揺れるイヤリング。
顔の下半分をオレンジの透明なフェイスヴェールで覆い、神秘的な雰囲気を一層引き立てる。
首元やむき出しになった腕と足には、エメラルドやアメシストなどの様々な宝石を下品にならない絶妙なバランスでちりばめた、黄金の装飾品。
衣服の飾りと相まったそれらは、動く度にまばゆい輝きで目を眩ませ、人ならざる美貌と共にその神々しさが際立たせた。
デザインを担当した親友と、モデリングを担当した義弟が揃って『会心の出来』と言い切った美少女。
「どうして生身の『私』じゃなく、『めくる』の身体なわけ?」
そう、なぜか私は生前の姿ではなく、ヴァーチャルにおけるもう一人の『私』。
――タロット占いVTuber『
◆
『ごきげんよう人生初心者キッズども! 今日もウジウジしてるのね? しょうがないから、私が背中引っぱたいてやるわ! 『タロット精霊・良喜札めくるの
浮遊城『
迷える人間の下に夢を通じて訪れ、タロットによって道を示す託宣の精霊。
儚げな見た目と裏腹の、高飛車で容赦のない物言いに込められているのは、裏表のない人間への愛。
そんなギャップとファンタジーな設定が売りの占い師VTuber。それが『良喜札めくる』だ。
『え? 設定がファンタジー過ぎ? 甘いよ
『そうだよ! もうV業界じゃ初回配信で胃カメラの写真載せるくらいはデフォなんだよ!』
そう熱弁した義弟と親友の説得によって――いや、胃カメラは断固拒否したけど――特盛ファンタジー設定を受け入れた成果か、私のチャンネル『タロット精霊・良喜札めくるの
しかし、それだけの数が集まれば、やはり嫌な奴もやって来るもので。
『当たらねえゴミ占いで金取るな』『カードよりもっとめくるものあるよな?』『リクエストとかどうせ自演だろwやらせ乙w』他諸々……。
こういう輩は基本、コメント内容のスクリーンショッット、いわゆる『魚拓』を取って動画サイトの運営に通報する。
大抵は一度アカウントを停止させられたら大人しくなるのだが、一人だけ複数のアカウントを使って粘着してくる香ばしい
同居する家族の安全のために情報開示請求を行い、それらの手続きを終えたところで、手伝ってくれた皆にちょっと良いアイスでもご馳走しようと思い立ち……そして、コンビニ帰りに襲われたのだ。
そこまで思い出し、私は深い溜息を吐いた。
――ほんっと馬鹿だわ、私。他のアンチと同じ、口だけ野郎だと思って甘く見てた。
悔やんでも悔やみきれないとは、この事だ。折角、アンチ対策に協力してくれた妹に義弟、そして親友に、本当に申し訳ないことをしてしまった。私の判断の甘さで、皆の努力を水泡に帰してしまった。
何より、身近な人間を亡くす悲しみに、皆を晒してしまったのだ。
――あー悔しい……ごめんね、皆。本当に、ごめん…………
「……ズッ……うーー……」
死んでいるにも関わらず、ハラハラと、熱いものが頬をつたう。私は強く目を瞑り、空中で両膝を抱えて顔を埋めた。
――……でも、いつまでも泣いちゃいられないわ。
「…………うん、よしっ!」
気が済むだけ泣いた後、私は勢いよく顔を上げて目元を乱暴に拭う。
正直、どうして『良喜札めくる』の姿で幽霊になって異世界に来ちゃったのかはさっぱり分からない。
が、ウジウジし続けるのは性に合わないのだ。
まずは部屋を出て、この世界の情報を集めよう――と、意気込んだ瞬間。
「クソッッッタレがぁ!!!」
バァン!!! とけたたましい音を立てて乱暴に部屋の扉が開かれた。
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