落ちてたぬいぐるみ

仁志隆生

落ちてたぬいぐるみ

 今日、後輩の長谷川はせがわが出社して来なかった。

 どうしたんだと思って彼の携帯に電話してみたが、電源が切れているのか繋がらない。

 では連絡出来ないほど体調を崩して寝込んでいるのか、あるいは事件に巻き込まれたのか?

 とにかく部長に報告すると「自分が彼の実家に電話して確認するから、君は彼の自宅へ行って様子を見てこい」と指示されたのですぐに支度して会社を出た。




 小一時間程で彼が住んでいるアパートの近くまで来た。

 都心から外れているからか昼過ぎだからか、人影がないな。

 そう思って辺りを見渡していた時、なんか踏んづけちまった。

「ん?」

 見るとそれは小さな猫……じゃねえな、なんだろ?

 とにかくなんかのぬいぐるみだった。

「ああごめんな、ところで持ち主どこだ?」

 ぬいぐるみの埃を払いながら辺りを見渡したが、やはり誰もいない。

 どうしようか。

 これ、古ぼけてるがほつれたであろう箇所がきちんと修繕してある。

 きっと大事にされてるものなんだろな。

「うん。後で交番に届けてやるからしばらく我慢してくれな」

 って、ぬいぐるみに話しかけてるって傍から見ればアレだろうな。

 けどなんか知らないけど、こいつ見てると自然に話したくなった。




 しばらく歩いた後、アパートに着いた。

「ここだな。えっと部屋はたしか」

「あ、モモちゃんいた」

「は?」

 振り返ってみると、そこに小学校低学年くらいで赤いスカートに白いシャツといった服装の女の子がいた。


「えっと、もしかしてこれ、君の?」

「そうだよ」

「そうか、あっちに落ちてたよ。はい」

「うん、ありがと~」

 女の子は嬉しそうにぬいぐるみを抱きかかえた。

 うん、よかった。

 さてと、早くあいつの部屋へ行かなきゃ。


「お兄さん、モモちゃんもお礼言いたいってさ」

 女の子がぬいぐるみをこっちに向けて言ってきた。

「ああ。うん、どういたしまして」

 無下にするのもあれだと思い、ぬいぐるみを撫でて答えた。

「モモちゃん、お兄さんの事好きだって」

 女の子がそんな事を言う。

「うんありがと。それじゃあちょっと急ぐんで、じゃあね」

「お兄さん、たけしお兄さんならお部屋にいないよ」

「え?」

 猛とは長谷川の下の名前だ。

「あの、彼の事知ってるの?」

「知ってるよ。けどそんな事よりさ、お兄さんはモモちゃんの恋人になって」

「へ? ……うわああっ!?」

 ぬいぐるみの目が光ったかと思った時、俺の意識は途切れた。




「ぬふふ。モモちゃんよかったね」

 少女がを抱えて言う。


「さてと……今度はどうしよかなあ~」

 少女はニタァ、と笑みを浮かべて言った。

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落ちてたぬいぐるみ 仁志隆生 @ryuseienbu

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