尊い百合を見るのが好きな私、親友に百合好きがバレてからちょっと距離感がおかしい気がする

@mikazukidango32

第1話

「今、話していた男の人って彼氏?」


 私に不安そうにそんなことを問いかける目の前の女の子は私の幼馴染で親友だ。少しウェーブがかかった亜麻色の長髪に顔が西洋のお人形さんみたいに整っていて完璧な美少女と形容しても意義を唱える人なんていないだろうと思わせる美人さんだ。


由衣ゆい、違うよ。一緒の委員会の人だよ。ちょっと委員会の用事で話があっただけ」

「そっか……。史歩しほはモテるから私がちゃんと見てあげないと……」


由衣は私が彼氏ではないと答えると少し安心したような表情をした。


私をモテると彼女は言うがそれは褒めすぎだ。彼女の方が数百倍はモテるはず……。ただ、彼女は昔から私に対して少し心配性なところがあった。でも昔から面倒見の良い性格で私が困っている時はいつも助けになってくれる心強い存在だ。


「史歩は彼氏とか作らないの?」

「私?私はいいかな……。今は全然そんな気持ちになれないよ」

「良かった……」

「え?なんか言った?」

「いいえ、何でもないよ」


彼女が小声で何かを呟いていたが私は聞き取れなかった。


私は由衣に答えた通り彼氏など作る気分にはなれなかった。なぜなら私の今のマイブームは尊い百合を鑑賞することだったからだ。男に目を向けている余裕など私にはない。


「あっこのぬいぐるみ可愛い。ちょっと買ってきていい?」

「もうしょうがないな……。史歩は可愛い物があるとすぐに飛びつくんだから」


 私は昔から可愛いものが大好きだ。特に昔からぬいぐるみには目がなかった。可愛さを分かち合いたくて由衣にぬいぐるみをプレゼントしたこともあった。確かそれがきっかけで彼女とは仲が良くなった。そんな私の今のマイブームは百合だ。可愛い者同士が馴れ合う姿は眼福でしかない。あと女の子同士の関係性を愛でるのも一興だ。


「ねえ、史歩……。いったい何を読んでいるの……?」


困惑した様子で私にそう尋ねる彼女。


私はきっと油断していたのだろう。いつものように帰宅途中の電車の中で百合のお話を読んでいたところ由衣にそれを見られてしまった。ブックカバーをつけていたので安心しきっていたが今思えば彼女の目の前で読み始めたのは軽率だった。


「由衣……」

「史歩って同性が好きなの……?」

「そういうわけじゃなくて……何て説明すればいいんだろう。可愛い女の子同士の関係性が好きというか……」

「たとえ、史歩がそうだったとしても私は気にしないよ? 同性とか異性とか私は些細な問題だと思うな……」


彼女はいたたまれない様子の私を慰めてくれているのだろうか?唐突にそんなことを言い出した。


「ありがとう。由衣はやっぱり優しいな」


私は嬉しくなった。親友が私の趣向に理解を示してくれたのだから。


「史歩……」


彼女は私の名前を呟くとじりっと距離を詰めて私に寄り添うようにして座り始めた。珍しい。彼女はたとえ親しい仲であっても人と一定の距離を保つタイプだったのに……。恐らく百合好きバレてしまい意気消沈している私を気遣ってくれているのだろう。ありがとう由衣。


「ねえ、史歩。私の家に久しぶりに寄っていかない?」

「え?いいの?行きたい!」


最近は委員会やら部活やらで帰る時間もまちまちになっていたため、由衣と帰ることも少なくなっていた。ましてや遊ぶ時間などなかなか作れない状態だった。久しぶりの親友の遊びの誘いに乗らないという選択肢など私にはなかった。


「由衣どうしたの?なんかやけに距離が近くない?別に嫌とかではないんだけど」

「ちょっと乗り物酔いしちゃったみたいで……」

「そんなごまかししてもダメだよ。私にはすべてお見通しなんだから」

「えっ?」

「本当は暗くて怖いからなんでしょ?」

「えっ……あ、うん。実は……そうなの……」


電車を降りた私たちは由衣の家へと向かう。向かう途中の道でやけに由衣が私に引っ付くような形なのが気になったが外も暗くなっていたため怖くなったのかな?と思い少し微笑ましい気持ちになっていた。


そして家に着いて由衣の部屋へと入った。


「このクマのぬいぐるみ懐かしいなぁ」

「昔、史歩からもらったぬいぐるみ。私の宝物なんだ」

「そうなんだ。嬉しいな」

「覚えてる?このぬいぐるみを渡すときに私に言った言葉」

「何だったかな?ごめん……。思い出せないや」


『やっぱり由衣ちゃんは可愛いなぁ。だからこのクマのぬいぐるみをあなたにあげる。だってぬいぐるみを抱えている姿はもっと可愛いと思うから……』


そんなこと言ったかな?でも私なら言いそうだな……。実際、今の私も似たようなものだ。趣味が百合に変わっただけで昔から可愛いもの同士を掛け合わせるのが好きだったから……


でもそれがあってから私と由衣は仲が深まった。二人の仲はぬいぐるみが繋いでくれたものだった。


「ねえ、史歩。私、もっと可愛いもの見つけたんだけど……」


唐突に彼女がそんなことを言った。


「え?何かな?」

「史歩……」


彼女は私の方へぐっと距離を縮めた。由衣の綺麗な顔がどんどん近くに来る。何かがおかしい。そう気づいた時には遅かった。目の前に由衣の顔がある。美人だ。そして微かに良い香りがしてクラクラする……。


「私と史歩がもっと仲良くなったら、その関係性って可愛くない?」


可愛い。確かに可愛い。私はもう思考を放棄して流されるまま由衣に身をゆだねた。








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