魔法少女ブラックバレット

第1話

 午後5時30分。一人の少女が息を切らしながら走っていた。その額には汗が浮かんでおり、今にも倒れそうなほどに疲弊しているのが分かる。


「だ、だれか。───たすけて」


少女の後ろには、大きな犬のようなシルエットが少女を追いかけていた。しかし、普通の犬と違う点は、犬にしてはあまりにも大きく、車ほどの大きさがあること、そして、その足に生えた爪があまりにも鋭く、その爪に赤い液体が付着していたことだ。


「グルルルルォォ!」


けたたましい泣き声が響き渡り、少女は耳をふさいだ。しかし、その瞬間、犬らしきモノがとてつもないスピードで少女に襲いかかった。大きく口を開き、少女の頭に狙いを定めて飛びかかる。そして、その牙が少女の頭に突き刺さる直前、ドン、と銃声が響いたあと、犬らしきモノは吹き飛ばされた。少女がその銃声のなった方をみると、

そこにはマグナムを片手で構え、犬らしきモノに銃口を向けた女性が立っていた。


「君!早くこっちに!」


少女はその女性の元まで走ると、安心の余りその女性に抱きついた。


「大丈夫?よく生きていてくれた」


女性はそう少女に言い聞かせると、少女を片手で抱いたまま、死体を装って機会をうかがっていた犬らしきモノに向かって引き金を引いた。



《魔獣》

それは、突如として日本に現れた未確認生命体の名称だ。


四十年ほど前、世界中に突然謎の物質が大量に発生した。その翌日、全世界の科学者がその物質について調査を行ったが、生物由来なのか科学由来なのかさえも解明できず、やがてそれらは『魔素』と呼ばれるようになった。そして、それから数日後、突如として街中にやつらが現れた。ゴリラを凶暴化させた様な獣は40人程の死亡者、80人程の負傷者を出し、駆けつけた軍隊によって射殺された。これで事件は終わりかと思われた。しかし、その直後、遠く離れた国に先程と同じ獣が現れた。そちらの方では政府が軍隊の出動を決定するまでに時間がかかり、100人以上の死亡者が出た。世界は一日にして、恐怖に陥れられたのだ。

そして、それから1年ほど経った時、突如として自らを【魔法少女】と名乗る者達が現れた。少女のみで構成された組織は獣の被害をみるみるうちに減少させていった。その後、各国政府は【魔法少女】と正式に協力関係を結び、現在では魔法少女であるいうだけで国の大臣と同等の権力を持てるようになったのだ。


今や、数多くの魔法少女が政府の特殊部隊所属となり、警察と同じように扱われるようになった。そんななか、唯一政府に所属せず、放浪としている魔法少女がいた。


【魔法少女ブラックバレット】。

──これは、根なし草な彼女、あるいは、彼の物語だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法少女ブラックバレット @kamisimotenti

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ