お掃除ロボット、異世界に行く。
茶柱
第1話 お掃除ロボット『ブーバー君』
時は3022年、人類は医療技術の進歩により死亡率が大幅に下がっていた。たとえトラックに轢かれても直ぐに医療ロボットがその場で完璧な治療をこなしてしまう。
誰も悲しむ事のない素晴らしい世界。しかしどれだけ問題を解決しても必ず新たな問題が発生してしまうものだ。
人類の尻拭いをされるのはいつも我々だ。
「『田中許助』トラックに轢かれる運命……のはずだが、医療ロボットの治療により生還……まただわ!」
女神の私は後輩のルラと転生者候補を探していた。だが、いくら資料を漁っても残るのは積もり積もった紙の山だけ。座りながら背伸びをする。ふと、ルラの方を見ると彼女のテーブルにも紙が何重にも重なっている。
「人類なんて滅べばいいのに人類なんて滅べばいいのに人類なんて滅べばいいのに人類なんて滅べばいいのに人類なんて……」
ルラは青色の目をしているはずなのだが三ヶ月徹夜したせいか赤く充血している。そして呪われたように怒りの言葉を連呼している。
流石にヤバそうなので声をかけるが反応は無し。なのでいつもの動画をスマホで流してみた。
「あっ! わんちゃんわんちゃんわんちゃんわんちゃん……あれ? 私一体何を……」
「大丈夫ルラ?」
「先輩、もしかして私また正気を失ってました?」
「うん、アンタ『人類なんて滅べばいいのに』とか気が狂ったこと言ってたわよ」
「あっそれは本音ですよ、人間なんて滅べばいいっていつも思ってます」
ルラの女神らしからぬ考えには目を瞑っておこう。
私達が必死こいて転生者を探しているのには理由がある。たった今滅びかけている異世界があるからだ。転生者を送らなければ確実に滅ぶだろう。
というわけで私達は一握りの運悪く死んだ若者の魂を探しているのだ。だが三ヶ月間探してもそんな物は見つからなかった。理由は簡単、現世の医学が進み過ぎているから。最近じゃあトラックに轢かれたぐらいじゃ全然死なない。
(もう無理、ゼウス様にギブアップだって伝えてこよう)
「大丈夫ですか? メラにルラも」
「ゼウス様!?」
気がつくと背後にゼウス様がふわふわと飛んでいた。彼は神々のリーダー、ゼウス様。私なんかよりずっと偉い神様だ。料理で例えるとするならゼウス様は高級ステーキ、私はコンビニの塩おにぎりくらいの差がある。
「ゼウス様、なぜこのような所に」
「二人にご報告があるからですよ」
彼は私達を席から立たせると質問をしてきた。
「転生者は見つかりましたか?」
「まだ一人も……」
「そうですか。実は私転生者候補を見つけてきたんですよね」
「え?」
「お疲れ様でした二人とも」
「え? じゃあもう仕事終わりですか?」
「はい」
それを聞くとルラは発狂しながらブリッジをキメた。きっと色んな感情が溢れているのだろう。頑張ったね、お疲れ。
「それでその転生者候補はどこにいるんですか?」
「今持ってきますね」
「持・っ・て・く・る・?」
ゼウス様は部屋に戻ってくると手元に機械を持っていた。現世でよく見る円柱の形をした一般家庭用のお掃除ロボットだ。最近の現世では基本はお掃除ロボットが掃除をするらしい。
「このロボットがどうかしたんですか?」
「この子はお掃除ロボット『ブーバー君』です。彼が新たな転生者候補です」
「ん? 今なんて」
「このブーバー君に魔王を倒す勇者をやってもらいます」
ずっと資料を漁っていたせいか幻聴が聞こえているようだ。今日は早く寝よう。もう一度聞いてみたが返答は変わらない。
(ロボットが魔王討伐? しかも一般家庭用ロボットが?)
「……あのゼウス様? 本気ですか?」
「もちろん本気ですよ。現世では人間が機械に頼っている。なら私達も機械を頼らなければ」
「いや絶対無理ですよ! しかもただの家庭用お掃除ロボットですよ!?」
「メラ、逆に考えてみて下さい。もしロボットが魔王討伐が可能だとしたら、貴方たちはもう資料を漁らなくても良いんですよ?」
「あ……確かに。試す価値はあるかも……」
「それにこの子可哀想でしてね。十年間頑張って働いたのに新型と取り替えられてしまったんですよ」
「まあそれが機械の定めなんじゃ……」
「可哀想!」
ルラはお掃除ロボットに抱きつくと頭を撫でてあげた。ペット好きだからって機械にまでなでなでをするとは。
「そうよね! 貴方も愚かな人間達にこき使われてきたのよね! 私と一緒じゃん! 私も人間達のせいでずっと働かされてきたんだよ! 私たち仲良くできそうだよ!」
「ほらルラ、手を離しなさい。ゼウス様の迷惑よ!」
「嫌だ〜! この子はもう私のペットだ〜!」
ルラを引き剥がし、ゼウス様にお掃除ロボットを戻し渡す。するとゼウス様は電源ボタンらしき赤いボタンを押した。
『どうも初めまして。私は一般家庭用お掃除ロボットブーバー君です。以後お見知りおきを』
これは凄い。現世ではこんな物が一家に一台もあるのか。
「凄いですね先輩!」
「まあ確かに驚いたけど」
「ではこの子を宜しくお願いしますね」
ブーバー君は今日の天気を機械音で説明する。そして部屋を掃除し始めた。ルラが目を輝かせながらブーバー君を追いかけている。
「本当に大丈夫ですかね機械なんかに任せて」
「そうでした、その為にここに来たのです」
ブーバー君の足元を見てみる。すると、なぜか転生時に使う魔法陣が描かれていた。その魔法陣は私達も巻き込み光り始める。
「貴方達二人には新しい仕事を依頼します」
「え……もしかして」
「これからブーバー君の魔王討伐を手助けして下さい。ちなみに今回の転生はロボットが魔王討伐出来るかの実験なので女神の力は剥奪しますね」
もう転送は始まっていた。足からどんどん消えていっている。
「は!? 普通にイヤなんですけど! 変な機械と異世界送りだなんて! ほらルラも文句言ってやりなさいよ!」
だがルラは殆どの部分が転送済みでおでこしか残っていなかった。
『これから宜しくお願いします』
「嘘だ〜!!」
かくして私達ニ人と一台は魔王を倒すために異世界に放り出された。
お掃除ロボット、異世界に行く。 茶柱 @tackle6
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