第25話 side七海
朝、目を覚ますとそこは見慣れない部屋。
私は、その部屋のベットで何も身につけていない産まれたままの姿で横になっていた。隣を向くとそこには私の恋人、彼氏である玉城先生が眠っていた。
「っ……!!」
昨日の情景が目に浮かぶ。
私はこれが現実なのか信じられない気持ちで一杯だった。
「……先生……好きです……!!」
だけど、私の身体にはその痕跡がしっかりと残っていて……。
私は遂に女としての幸せを手に入れたんだと、幸せを噛みしめた。
☆☆☆
私の転機はあの日、玉城先生が担任になった時に遡る。
私たちは2年に進級したことで、将来を意識し始めた。
中には今年から塾に通い出した子や資格の勉強に取り組む子まで出てきて、時間の経過を感じた。
来年は受験や就職が待ち構えているため是が非でも忙しくなる。今年は高校生として自由に過ごせる最後の年になる。
私がそんな寂寥感を仲のいい友達と話しているとき、それは起こった。
「ホームルーム始めるからお前ら席に着けよー」
私たちの担任となる男性教師の玉城先生が現れた。
先生は少し困惑している様子に見えたが、それは仕方の無いこと。私たちはこれまで男性と関わりを持てずに居たのにそれが今日急遽、その機会が目の前に訪れたのだから。
その後の始業式のことは全く覚えていなかった。
ただ、他のクラスから羨望の視線が送られることには、優越感があった。
私にとっての驚きはまだ続く。
クラスの委員長という普段ならお互い押し付け合い最終的にくじ引きになる役職。それになんと私が選ばれてしまった。
委員長はクラスメイトの代表なので担任とは一番接触する機会がある。つまり私は学校中で一番ラッキーなクラスの中で一番ラッキーな生徒ということだ。……私は始めてこの時、神様の存在を信じた。
先生は、担任の他に『男性学』という私たち女性が男性に対する知識を学ぶ授業の担当になっていた。一応全学年対象の選択授業にはなっていたが休む生徒なんていないと思う。彼氏がいれば……いや、先生イケメンだしそれはそれ……かな。
案の定男性学は普段埋まることの無い視聴覚室がギッシリと満席になった。
特に現3年生の先輩たちの目つきが危ないと私は思う。自分たちが今年で卒業の時に先生が現れたんだから『あんまりだ』と同情するけど。
授業は先生の人生について語るという面白い内容になった。普通男性の一生を聞く機会は無いし、作ろうとしても男性側が拒否するので多分世界初。
話を聞くと、先生はとにかく男性なのか疑わしくなった。……いや、あの顔とか匂いとかプロポーションは女性には再現できないけど。
先生は小学校から大学まで女性と同じように進学したようだった。もちろんそこの過程で女性との交際経験は多くあったが(女性が羨ましすぎる)、引きこもったりしないで女性とも馴染めていたのには驚きだった。そして恐らく居るだろう『先生と小中高大幼馴染み』という称号を持つ女に嫉妬を覚えた。絶対居ると思う。私だってそのためなら一日四時間睡眠でも何でもやれる自信があるから。
しかしこのまま進むと思われた授業は後半の質問時間になって一変した。
皆もちろん先生と話がしたいから手を上げるが、ある時一年生の女子が『好きなタイプ』を聞いたところで、……先生が暴走した。
先生の発言にざわめく教室。
全校生徒は先生と付き合える可能性に希望を見いだした。
そして今でも夢に見るホームルームにて。
私は数いる生徒の中で先生に一番に選ばれ、男性から告白を受けるという人類史5指には入ってもおかしくない偉業を成し遂げた。
その後先生がいなくなってから、クラスメイトや他のクラス、学年の生徒達が私に詰め寄ってきて質問攻めにしてきたが、私は嬉しくて全然頭に入ってこなかった。
しばらくして教職員が鎮圧に訪れると、私は事情を説明し、またしても全員から羨望の……いや嫉妬の視線を受けた。
私は先生から生徒達のとりまとめ(先生との課外授業(表現が卑猥))という役割を全うするべく、その場でメッセージアプリのグループを作成した。
そして翌日の今日は先生とデートを楽しんだ。
創作で夢に見ていた男性とのデートは甘酸っぱくて心地よいもので……。
夜は、私の人生で一番幸せな時間を過ごす事が出来た。
そして今。隣には大好きな先生が同じベッドで寝ている。
……幸せだ。
「もうちょっと寝ようかな……えへへ」
私は正面から先生に抱きつくと、幸福感と共に緩やかに眠りについた。
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