第14話 

訳も分からず訳の分からないことを公衆の面前で暴露した俺は、丁度授業終了のチャイムが鳴ったのを良いことに戦略的撤退を決行した。


「あぁ……本当に俺は馬鹿だ。何言ってんだ」


どこに200名近くの教え子の前で自らの性癖を語る教師がいるんだ。特殊性癖かよ。前世なら懲戒処分待ったなしだぞ。


恥ずかしさから火照る顔を手を当てることで冷ましつつ、廊下を歩きながら自分の担当クラスである2年1組を向かう。そう。この後まだホームルームが残っている。……一体どんな顔をして生徒達に会えば良いんだか。


理事長からお小言でもあるのかなぁと憂鬱な気持ちになりながら、歩みを進めた。







バタバタと顔を赤らめたまま廊下へ走り去っていく男を見ながら、その場にいる200数名の女子生徒達は固まっていた。この感情をどう表せば良いか分からなくなっていた。


なのでとりあえず叫んだ。


「「「わぁああああ!!!!」」」


「今の見た?!」「先生の性癖!!」「女性好きってことだよね?!」


男の『優しくて頼れるちょっとエッチなお兄さん的ポジション』の戦略は今日の一件であっけなく瓦解していた。

皆、薄々男の正体に近づきつつあった。


「そういえば私たちが絡みに行っても嫌がられなかった」

「てっきり教師だからかと思ってたけど」

「え、それじゃほんとに?!」

「教師になったのは女子高生が好きだからだったりして」


ニアピンどころかストライク!

完全にその通りだったりする。


「わ、わたし、ちょっと本気でアピールしようかな」

「私だって!」

「ちょ、これどんなラノベ?!」

「世界初の男性教師が誕生したと思ったらその男が実は私の担当科目の教師だった件について~ライバルが200人と多いけど全力投球で頑張ります!~」


案の定女子生徒達は、自身の暗く惨めなはずの青春が一転し、彼氏とイチャイチャしてラブラブする華やかな学園生活に変わる可能性がある知り大興奮だった。オタク女子なんかは即興でライトノベルらしきタイトルを作って妄想に浸っているくらいだ。きっとそのうち小説投稿サイトに上げられることだろう。R18かもしれないが。


「あーこの後はホームルームか」

「そ、そうだった……って!ちょっと2年1組の人?!抜け駆けは止めてよね?!」

「卑怯だからね!恨むからね!」


ホームルームの存在を思い出したと同時に、彼が2年1組の担任だったことを全員が思い出した。どう考えても彼女達の存在が目の上のこぶ。上級生を中心にジャブを放ち牽制する。


「わ、わかってますよ先輩方!(するに決まってるでしょバーカバーカ!)」

「もちろん正々堂々で行きますよ!(担任なのはアドバンテージなんだからずるじゃないわボケー!指くわえて見とけ!)」

「「「(横やりが入らないうちに二年一組だけで独占するのはどうかな……皆に相談しよう)」」」



女子は男を巡る争いにおいて殊の外強かだった。

男を独占するのが無理なのは重々承知。ならその母数を減らすように動くのが最善手だ。


上級生や他の生徒達が捨て台詞を吐いて去りゆくのを、2年1組の面々は内心を漏らさないように真剣な表情で見送った。




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