第12話 男性学2

鐘が鳴り終えるのを合図に俺は授業を始めた。


「えー、これから第1回男性学の授業を始めます。私は担当教師の玉城です。皆さんよろしくお願いします」



「「「よろしくお願いします!!!!」」」



生徒達の元気の良い返事が教室内に響き渡った。

俺はそれに軽く頷いて収まるのを待ってから一度生徒達全員を見渡し授業に入る。



「この科目は男性学ですが、皆さんはこれまでの数年間既に殆どを学び終えていると思います」


「しかしそこでは法律や男性の趣向などを学ぶことが出来ますが、それは主に共通部分であり具体性に欠けています。男性は女性同様に人間ですから一人一人異なる個性があります」


「そこで私は、この科目を通して具体的な男性について。つまり私のこれまでの人生について実体験を踏まえて語っていきたいと思います」


「ただ注意して貰いたいのが、私は男性の中でも異端であると言うことです。そのことは……皆さんが一番実感していると思います」


その言葉に教室中で笑いが起こった。


「もちろんそれだけでは退屈でしょう。なので授業50分の内前半30分は私の人生について。後半の20分は皆と遊んだり、質問や相談の時間だったりにしたいと思います」


今度は喜びの声が上がった。


「この授業を通して、皆さんが実際に男性に出会ったときに他の女性よりも上手くコミュニケーションを取ることで一歩リード出来るようになれば嬉しいです」


「では、これから私の人生について。主に生まれから小学生時代前までについて話していこうと思います」


皆がこちらを見ているのを確認し、俺は自身の生まれから語り始めた。


「私が生まれたのは――――――」





☆ ☆ ☆ 



「――――――以上で前半の授業は終わりになります。後半は殆ど休み時間の感覚でリラックスしてくれればいいです」


「質問があればどうぞ」



男の言葉が終わると同時に教室中から手が上がった。おそらく全員かもしれない。それはそうだ、こんな男性と話す機会など滅多にあるはずもなければ、女子高生は目の前のイケメン先生について興味津々なのだから。


「じゃあ……橘さん」


「――え?! あ、は、はいぃぃぃいいい!私です!!」


「えっと……どうかしましたか?」


途端、教室中の女子生徒が橘と呼ばれる女子生徒を睨み付けた。皆の内心はもちろん『先生に名前呼ばれやがって』『わざと時間延ばそうとするな』『後でしばき倒す!』。ようするに嫉妬である。


一方の当の橘はというと


「(なんで先生は私なんかの名前を知ってるの?!え、なんで?!入学したばかりなのに?!……えへっ、えへへっ、ふへへへっ)」


気持ち悪いメス声を上げていた。

声に出したら人生が終了するような気持ち悪いメス声を上げていた。


しかしそれも仕方が無いこと。

何せこの橘、まさかの一年生。つまり一年生なのに学校全体で一番初めに先生と見つめ合ってお話をする栄誉を引き当てたとんでもラッキーガールなのだから。


「いえいえいえ!何でもございません!えっと、えっと……ヒィッ!!」


橘は気付いた。自分がどれだけ敵を作ってしまったのかを。

教室中のあちこちから向けられる敵意の視線の数々。

彼女は助けるように隣に座る親友に視線を向けた。


「ヒィッ!!」


ダメだった。

親友はいつの間にか敵に成り代わっていた。

授業の前は『先生と仲良くなれたり?!』『キャッキャ!!』と二人で妄想した仲だったというのに。


彼女は今後の学校生活に不安を覚えながらも皆が求める答えをひねり出した。


「……えっと、では先生。彼女いますか!?」」


「残念ながらいませんよ」



「「「「シッ!!!」」」」



それは、生徒全員が乱れなくガッツポーズをとった歴史的瞬間だった。



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