第2話 2年1組
廊下の窓から暖かな日が差す私立学徳学園の校舎。
幾ばくかの廊下を歩き階段を上ると、学生棟の二階――二学年の教室がある場所にたどり着く。
生徒達の使用する教室は、学園校舎における二つの棟――教員棟と学生棟――の内、学生棟の二階に存在する。
並びは一学年一階、二学年二階、三学年三階のように学年と階数が同一になっており、その内クラスは一組と二組が階段を上がり終えたスペースである踊り場から左に、三組と四組が右に配置されている。
俺の担当する二年一組は左の通路の一番奥なので、廊下を進み二年二組を経由することで行き着く。同様に四組に行く場合は二年三組を経由する。
「春休みにさ――」
「部活の大会で――」
「モデルの〇〇格好よくない?!」
「えー私はこっちの〇〇の方が好みかなー」
「もうちょっと笑顔を見せて欲しかった……写真集買うんだけど」
「活動してくれるだけで有り難いけどね」
廊下には始業が近いからか生徒はいないものの、教室で騒ぐ声が響いてくる。この騒がしく姦しい風景は数年前経っても変わらず、まるで高校時代に戻ったかのようだ。
相変わらず男の話ばかりが聞こえてくるけど。
歩くことしばらく。
二組の前を通り過ぎ一組へと到着した。
俺が視界に入ったのか二組からは生徒達のキャーキャーガヤガヤの声と共にドア付近から沢山の視線を感じるが、担任の先生が何とか宥めているようだった。
……大変そうだなぁ(他人事)
念のために言っておくが、俺は視線に関して特段気になることはない。
これは、生まれてこの方二十と数年、それこそ転生当初は視線に敏感であり恥ずかしい気持ちを持っていたが人間慣れるもので……慣れざるを得なかったとも言う。
今ではむしろ、前世で注目を集めたり出歩く度に変装してパパラッチ対策をしたりしていたアイドルや有名人の苦労が身に染みて理解できた。
慣れない人はストレスなんかで何時までも大変だと思う。
俺は早々に慣れたため見られても全然okのスタイルで生活をしていたので、学生時代なんかは調子に乗って露出の多い水着で女友達と海水浴に行った事もあった。その時はめちゃくちゃ視線を浴びて流石に恥ずかしかったのを覚えている。懐かしい思い出だ。
……まあその後は興奮した女友達に襲われて食べられてしまったんだけど。
今思えば本当に妊娠して無くて良かった。
もし子供が出来てたらこうやって教師になることは叶わなかっただろう。いつかは俺も家庭を作りたいとは思うけど、まだ20代なので色々楽しみたい。
……始業の鐘も鳴ったことだし教室に入ろうか。
始業開始まで後少しの現在。
二年一組では席に座りつつも久しぶりに会った級友と会話を弾ませていた。春休みのことや部活動のこと、それにもちろん男関係のことも。最後に関しては虚勢をはったり二次元について語ったりと冗談交じりだが、ともかく皆が皆級友との再会を喜んでいた。
そんな中、不意に隣のクラスが騒がしくなった。
もしかしたら何か良いことが起こったのかも知れない。
――男か?! 二組に男子転校生が来たのか?!
始業のタイミングでのこの喚声。有り得ない事ではないだろう。
思春期の女子達は皆、自分を見つめて優しく微笑むイケメンを思い浮かべた。
そうなったら後は早い。少しでも情報――好きな女性のタイプに電話番号に住所――を聞き出してやる! そして彼をゲットして二人で幸せに暮らすんだ!
そう息巻いた、どう見ても掛かり気味な女子達が隣の教室に突入すべく扉を目指した。しかし、殆どは互いに脚を引っ張り合いながら『お前には負けない』と泥仕合を繰り広げる有様だった。
そして早くも一人の女子が扉にたどり着く。
彼女は勝ちを確信し、それを開こうと手をかけようとした……その時。
「お前らホームルーム始めるから席に着けよー」
廊下側から扉が開かれると、教師用指定服を身に纏った男が教室に入ってきた。
如何にも自分がこのクラスの担任であるかのように。
「えっ」
「えっ?」
「「「「えええええぇぇーーーー?!?!?!?」」」」
女子達の絶叫が校舎中に響き渡った。
後に、その時の叫び声は二年四組にまで届いていておりそれを知った皆は担任である男に非難の目を向けるも……先生はとてもイケメンであったため長く目を合わせることが出来ず、あっけなく撃沈してしまったらしい。
女は男、とりわけイケメンには弱い生物なのだ。
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