Intimidation
yokamite
Fearless
世界は恐怖による支配を克服した。
或る日、人類最悪の発明とも言われた究極の大量破壊兵器である核兵器の脅威を盾にとって、外交政策を有利に進めようとした国があった。
その国に対抗するため、他の国は核兵器に対抗する科学技術を発明しようと試行錯誤した。
すると、もし核兵器が発射されても空中で瞬間冷凍して着弾前に無力化するという軍事技術が確立された。
その日から、世界中の核兵器保有国は、国家間交渉の場でその絶大な特権的地位を失うこととなった。
或る日、とある銃社会において、小学校に押し入った1人の薬物中毒者によって、幼子が無差別に殺害されるという猟奇的な殺人事件が発生した。
薬物中毒者は精神鑑定の結果、無責任能力者であると判断されたため、公正な司法機関による裁判を経て犯罪の違法性は阻却され、無罪放免とされた。
この結果に憤慨した遺族のうち、1人は高名な医学者であった。
学者は昼夜を分かたず寝食を忘れて研究に没頭した。すると奇しくも、死者を蘇生する方法を発見した。
蘇生術は凄惨な事故や犯罪によって命を落とした者を中心に世界中の人々を救済した。
その日から、銃による脅しは人間に通用しなくなった。
或る日、子を持つ親や教育者から子供に対する躾について、脅迫的で乱暴な言葉遣いや体罰による威嚇を一律に犯罪化する条約が可決し、世界中に存在する全ての国家が加盟した。
親や教育者は自らが罰されることを危惧して、子供の世間知らずで非常識な言動に対して強く𠮟りつけ、躾けることに抵抗感を覚えるようになった。
その日から、未来を担う子供たちは皆一様に怖いもの知らずに育った。
或る日、とある莫大な財産を持った富豪がその権力を以て国会議員選挙に出馬して、国政を思いのままに牛耳るため金をばら撒いた。「この金を受け取って俺に票を入れろ。さもないとお前を経済的に破滅させてやる。」と。
富豪による権力拡大を危惧した政府は、徹底した社会主義路線に方針を転換して、貧富の格差を是正する政策を掲げた。
その日から、圧倒的な財力を有する権力者による圧制は幕を閉じた。
脅迫や威嚇が渉外手段として、あるいは抑止力として有効なものではなり得なくなった世界で、人類は堕落した。
核兵器による反撃を恐れなくなった国際社会では、強国が弱小国に攻め入って土地を侵略し、民間人への凌辱や略奪を繰り返すようになった。
銃を恐れなくなった市民は死の危険を
親や教育者からの叱責を恐れなくなった子供たちは、自由奔放で利己的な性格のまま成人を迎えるようになったため、社会は他者への思いやりや優しさを失った。
権力者による金の暴力に屈することがなくなった人々は、それぞれの思想・信条に従った言動を取るようになり、目上の人間に敬意を払うことはなくなった。
世界は恐怖による支配の重要性を知った。
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