ぬいぐるみウォーズ

大道寺司

第1話

「ママこれ買って」


 俺は購入され、ご主人の家に来ることとなった。

 俺はウサギさんのぬいぐるみ。ご主人に愛されるのが仕事だ。


 ご主人は帰宅し、早速俺を自室へと運ぶ。

 この部屋が今日から俺の職場だ。

 ご主人は俺をクマさんのぬいぐるみのそばに置いて部屋を出た。


(よう。新入りか?)


 クマさんのぬいぐるみが頭の中に直接思念を送ってきた。


(はい。よろしくお願いします。にしても驚きましたよ。まさか俺と同じ能力ちからを持つぬいぐるみがいるとはね)


(分かってるな。俺達ぬいぐるみが同じ部屋で出会う意味は)


(分かってますよ。ぬいぐるみ同士は戦う運命さだめ。手加減はしませんよ)


(じゃあ決闘だ)


 クマさんのぬいぐるみは臨戦態勢に入る。


(いつでもかかって来て下さい。クマさんのぬいぐるみ)


(いくぞ。ウサギさんのぬいぐるみ!)


 クマさんのぬいぐるみは素早く距離を詰めてくる。


(《兎反撃脚ラビット・カウンターキック》!)


 俺はクマさんのぬいぐるみの攻撃を避けながら、慣性で止まり切れないところに反撃の蹴りを叩き込む。

 クマさんのぬいぐるみは床に倒れた。


(やるじゃないか)


(ここに来てから長いんですか? 思ったより大したことありませんね)


(言ってくれるな。これでも結構な数のぬいぐるみを屠って来たんだがな)


(そうですか。随分ぬるい戦いをしてきたんですね)


(何を......ぐはっ、これは......綿!?)


 クマさんのぬいぐるみの縫い目から綿が漏れ出ている。


(俺は中古品です。前の家じゃ真の強者しか生き残れない。もっとも元のご主人に飽きられて売られてしまいましたけどね)


 ガチャッ


 ご主人が部屋に戻ってきた。


「あれ? クマさんのぬいぐるみ壊れてるじゃん。ウサギさんのぬいぐるみ買ってもらったし捨てちゃおっと」


 ご主人はクマさんのぬいぐるみの首根っこを掴む。


(放せ! 死にたくない!)


 明日処分されるのは自分かもしれない。

 俺達ぬいぐるみの戦いはこれからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぬいぐるみウォーズ 大道寺司 @kzr_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説