英雄の息子は英雄になりたい~エドガー・マキーナルトの野望~

イノナかノかワズ

第1話 エドガー・マキーナルトの旅立ち

「マジかよ……」


 既に朝日は昇っており、多くの者が仕事を始める時間。


 獅子のたてがみの如き美しい短い金髪に、深い海の底のように澄んだ紺の瞳。ワイルド系で、ニカッと笑った笑顔はとても似合うだろうその端正な顔立ち。


 歳は十一にして背は百六十センチメートルに以上もあり、成長途中の柔らかさと、それでいて確かに鍛えられた筋肉とガタイもある。


 少し装飾の施されたローブと旅装束を身に纏った少年、エドガー・マキーナルトは唖然とした表情をしていた。


 すると、エドガーの母親でおっとりナイスボディー美人であるアテナ・マキーナルトが少し怒ったような表情をしながら、溜息を吐いた。緑がかった長い金髪が風に揺れる。


「仕方ないわ。あなたもだけど、あんなに遅くまで起きていたもの」

「うっ」


 細められたエメラルドの瞳を向けられ、エドガーはバツの悪そうな顔になる。


 昨日……というよりも今日だが、エドガーはここにはいない弟のセオドラー・マキーナルトと共に、遅くまで起きていたのだ。


 しかも、屋敷を出て散歩していた。


 それがアテナに見つかり、物凄く怒られ、そのあと慌てるように寝たのだが。


「まぁ、あいつらしいか」


 エドガーはメイドが何度も起こしても未だに寝ているセオドラーを考え、破顔した。


 その様子を見て、負けん気の強い蒼穹の瞳を浮かべている美少女が鼻を鳴らす。蒼穹のサイドテールが荒ぶる。

 

「ふん。アンタもセオも気を抜き過ぎなのよ! 大体、何話してたのよ!」

「内緒だ」


 エドガーは双子の妹であるユリシア・マキーナルトに苦笑した。ユリシアが不機嫌になる。


 と、


「その内緒って、今朝にマキュリーとかリースとかにペコペコと頭下げてたのと関係あるの? あんなに可愛い女の子たちをいっぱいを泣かせてたけど」


 緑がかった白髪に翡翠の瞳。女の子と見間違えるほど美しく線の細い顔立ち。来年には八歳となる弟のラインヴァント・マキーナルトが鋭く尋ねる。


 エドガーは渋面した後、そっぽを向く。


「……関係ない」

「あ、やっぱり関係あるんだ。もしかして、あれ? 将来、エドガーお兄ちゃんのお嫁さんになる! とかの話? 適当に頷いたけど、やっぱり適当は駄目だって思って、キチンと断ってたの? お別れとも相まって泣かしたの?」


 全て事実である。


 普段、面倒を見ている子たちからエドガーは慕われているのだが、その中でも幼い女の子たちからお嫁さんになる、と言われたのだ。


 エドガーは子供の言葉だし、直ぐに忘れるだろと思って頷いたのだが、それを弟のセオドラーに不誠実だとたしなめられたのだ。


 エドガーが顔をしかめ、ラインを見る。


「……お前、見てたのかよ!」

「いや。さっき、ユリ姉に頭下げて泣かしてたって聞いて」

「チッ」


 勘がいいというか、賢いというか、なんというか。相変わらず子供らしからぬ利発さだな、とエドガーは思う。


 あと、ユリシアが納得いったように頷き、それから蔑んだ目を向けてきたので、睨み返す。


 むっと眉間に皺を寄せたユリシアがエドガーの胸倉を掴む。


「何よ!」

「何だよ!」


 エドガーもユリシアの胸倉を掴み、ガンを飛ばす。


 双子の二人は仲が悪いわけではないが、喧嘩が絶えない。


 つまるところ、言い換えれば、


「こんな日まで怒られたいのかしら?」

「あ……いえ」

「だ、大丈夫よ、母さん」


 しょっちゅう母親であるアテナに怒られている。


 エドガーもユリシアも、アテナのあらあらうふふの笑顔の奥底に隠れた怒気にガタガタと震え、ラインの後ろに隠れた。


 ラインは仕方なさそうに苦笑いしていた。アテナは溜息を吐いた。


 その時、ザッと足音が聞こえた。


「何、また喧嘩したの?」


 サラサラとした短髪に柔らかな蒼穹の瞳。目鼻立ちは整っていて、甘いイケメンスマイルがよく似合う美男が、藍色の髪と瞳をもつ一歳ぐらいの赤ん坊を抱えそこにいた。


「いや、してねぇよ。父さん」

「あう。えお!」


 エドガーは父であるロイス・マキーナルトにボソッとそういった後、ロイスが抱っこしているブラウ・マキーナルトの頬を突いた。ブラウは嬉しそうに目を細めた。


 エドガーは目に入れても痛くないほど可愛い末の妹にデレデレと頬を緩ませた。


「ったく。せっかく、ブラウが最初に俺の名前を呼んだのに。もう別れるのかよ」

「あ。まだ言ってるわ! ふんっ。初めてが何よ! 私だってもう呼んでもらえるんだから!」

「あ~はいはい」


 未だにブラウが自分の名前を最初に呼んでくれなかったことを根に持っているユリシア。


 エドガーはそんなユリシアを適当にあしらう。ここで構えば、今度こそアテナに怒られるほども喧嘩に発展しそうだからだ。


 エドガーはロイスとアテナを見やった。それから申し訳なさそうな顔を向ける。


「収穫祭。手伝えなくて悪い」

「いいよ。そもそも僕の仕事だしね。それよりも楽しんできなさい」

「ええ。そんな顔しないの」


 ロイスもアテナもフッと頬を緩ませ、エドガーの頭を撫でた。エドガーは少し複雑そうに、それでもうれしく頬を緩めた。


 そして、エドガーは後ろに待たせていた馬車をチラリと見やり、ロイス達に手を振る。


「じゃあ、行ってきます。セオとか、レモンとか、マリーさんたちにもよろしく頼む」

「うん。分かってる。行ってらっしゃい」

「ええ、行ってらっしゃい」


 ロイスとアテナは我が子の旅立ちに何とも言えない表情をしていた。


「エド兄。面白い本とかあったら、送ってね。あと、教師の中で生物学とか植物学専攻の人がいたら、僕に教えてね」

「……相変わらずだな」


 兄が旅立つというのに、見送りの言葉もなしに天使の笑顔でそんなことをいうラインにエドガーは呆れた。


 それから馬車に乗り込もうとして、ユリシアが怒鳴る。


「問題を起こすんじゃないわよ! 私にまでとばっちりが行くんだから!」

「はぁっ!? 令嬢やら子息やらを殴りまくった狂犬令嬢には言われたかねぇわ! っつか、お前のせいで俺がどれだけ迷惑を被ったか!」


 エドガーがそう怒鳴れば、プイッと頬を膨らませてそっぽを向く。


 「ったく……」と口の中で呟いたエドガーは、チラチラと自分を見るユリシアに少し嬉しそうな溜息を吐く。


 口はあれだが、エドガーを気にしているのだろう。先ほどの発言も、要約すれば、何かあれば私が暴力でどうにかするから、と言っていたのだ。


 ただ、暴力でどうにかするのは困る。


 そう思いながら、エドガーは十一年間一緒に過ごしてきたユリシアに微笑む。


「まぁ、あれだ。お前のいい相手でも見つけてきてやるよ。今のままだと行き遅れそうだしな」

「ッ! 余計なお世話よ!」

「へいへい」


 肩をすくめたエドガーはアテナが怒り出す前に馬車に乗り込んだ。


 そして、馬車が走り出す。


「じゃあ、行ってくるよ」


 エドガーは馬車から手を振って、生まれ育った故郷を旅立った。


 目指すは王都。これからエドガーは学園へと入学するのだ。






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