おもちゃ屋のシンボル
有宮旭
おもちゃ屋のシンボル
「ねえねえ、あのこがほしいー!」
「あぁ、あのぬいぐるみね…あの子はね、このお店のシンボルなの。」
「しんぼる・・・?しんぼるって、なぁに?」
「ん-…そうね、このお店で、一番人気なの。昔から、それこそあなたが生まれるずーっと前、私が子どものころからあそこにいるの。」
「えー!そんなにながいきなのー?ママがこどものころからー?」
「そう、私があなたくらいのころから、ずーーっと、あそこにいるのよ。あの子はね、このお店を守ってくれてるのよ。」
「まもるー?」
「そう、…懐かしいわ、あの時はすごく大きく見えたのに、今じゃちょっと埃をかぶって、自分の背丈と同じくらいの大きさになって、手を伸ばせば届く範囲にいるなんて。あの子は守護神のようにお店の中心で鎮座してて、ただただ見上げるだけの存在だった。当然値札なんて見えなくって、ぐるぐる回って一生懸命値札を探したこともあったっけ。」
「・・・ママー?」
「あれが非売品だって知ったのはいくつのころだったかしら。これはお店のマスコットです、売り物じゃありません、なんて、お店の人に聞いたわけじゃないし、誰からも聞いた話じゃなかったのに。あぁ、もう忘れてしまったわ…。」
「ねーえーまーまー、あのこがほしいのー!」
「…あぁ、いけない、いーい?あの子は、まだママには買えないの。あなたがもっと大きくなって、ママやパパのお手伝いをいーっぱいしてくれたら、買ってあげるわ。」
「えーー。いまほしいー!」
「ごめんね、今はどうしても買えないのよ。代わりにあのお人形、欲しいって前に言ってたお人形、買ってあげるから、それで許して、ね?ママのお願い。聞いてくれる?」
「えー・・・わかった、わたしがまんするー。」
「いい子ね。あなたが手が届くようになったら、きっと本当の価値がわかると思うから。それまで、いい子にしててね。あの子はまだ、シンボルなの。」
おもちゃ屋のシンボル 有宮旭 @larjis
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