第236話 お誕生日
朝起きてリビングに降りると、すでに女性陣の何名かはこちらの家に来ていた。
その中でも朝から元気な少女が1人、奥間ミルさんだ。
ミルさんはイチタ君とニタ君に対して、自慢げに何かを話していた。
それを聞いたイチタ君とニタ君は羨ましそうにミルさんを見ている。
その横にいたフータさんに関しては、3人にバレないように苦笑いを浮かべていた。
「おはようございます」
既に来ている人に挨拶をしてリビングにあるソファに座り、スマホをいじり始めると、先ほどまでイチタ君とニタ君と話していたミルさんが今度は僕のもとにやってきた。
「おはようございます。聞いてくださいヤマト先輩! 実は私、昨日サンタさんとお話ししたんですよ」
「へ、へぇ~」
これだけでイチタ君とニタ君に何を自慢していたのかわかった。
確かに今までいるかわからないと思っていたものがいたんだから自慢したくなるのもわかる。
「最初はあまり信じていなかったんですけど、私の枕元に置かれているプレゼントを見たら一か月も前にお母さんに欲しいって言ってたヘッドホンだったんです。それをプレゼントしてくれるサンタさんってすごくないですか?」
「うん。すごいね~」
どうしてミルさんが欲しがっていたプレゼントを僕たちが持っていたのか。
それは事前にニュー・チルドレン伝手でミルさんのお母さんに聞いてもらっていたからだ。
おかげでミルさんが一番欲しいものをプレゼントすることができた。
ガーデンランド勢は数週間前にクリスマス企画番組の収録が行われており、その内容にクイズ形式でメンバーの欲しいものを当てるというものがあった。
その際にいばらさん、ラノさん、つばささん、ライガさん、イロハさんはクイズの答えとしてクリスマスプレゼントで何が欲しいか聞かれていた。
その企画番組は昨日の夜に放送されている。
ではどうして僕がそれを知っていたのか。
実はこの企画番組、僕が12月24日に来てくれる人にクリスマスプレゼントをしたいと社長さんに話したことで出来た企画だからだ。
だからガーデンランド勢にもプレゼントを渡すことができた。
一番大変だったのはそれ以外のメンバー。
キラリさん、真冬さん、ハリンさん、太陽、来夢の5人だ。
キラリさんと真冬さんの欲しいものはフータさんたちに聞いてもらおうと思ったが、適当にあしらわれたらしい。
最終的にイチタ君とニタ君の無邪気の問いに口を滑らせてくれた。
ハリンさん、太陽、来夢に関しては獅喰蓮さんたちにプレゼントだとばれないように、という風に頼んだところ、何にが欲しいか分かったのは23日と前日だったので、何かとギリギリだった。
「サンタさんと話せてよかったね」
「はい。クラスの男子たちにサンタさんはいないって言われて、少しショックだったんですけど、いると分かって嬉しかったです!」
ミルさんの笑顔に、暫く本当のことを話すのは無理そうだ、と少し申し訳なくなる思いだった。
ミルさんはそのままいばらさんのいる場所まで行き、枕元に置いてあったプレゼントについて盛り上がっていた。
楽しそうに話している女性陣。
これだけでサンタさんプレゼント企画をしたかいがあったものだ。
しばらく時間が経つと、まだ来ていないメンバーが僕の家にやってくる。
「おっはようございまーす!」
「おはよう、ございます」
最後にやってきたのはラノさんとつばささんで、元気のいいラノさんとは対照的に、つばささんはどこかげっそりした表情だ。
それだけで、ラノさんのいびきの餌食になっていたんだと分かる。
最後の2人が来たので皆に声をかける。
「えー、全員集まったところで1回僕に注目してください」
全員が僕の方を向いたのを確認してから続きを話す。
「まず初めに今回は僕のために日向市まで来てくれてありがとうございます。本当に感謝の言葉しか出てきません」
今思えば僕が東京に行けばいいだけの話なのに、わざわざ僕の方に来てくれて感謝しかない。
「本番は今日の夜7時から10時と3時間になります。それまでは観光するもよし、夜に向けて二度寝、三度寝するもよしなので、楽にしててください。この4日間の練習の成果を本番で出せるように頑張りましょう! では、解散」
そのまま僕は自分の部屋に向かうが、なぜかキラリさんに止められてしまい、元の場所に戻されてしまう。
それとほぼ同時にみんなが一斉に立ち上がった。
「それじゃみんな、せーので言うよ。……せーの!」
『ヤマト、お誕生日おめでとう!!』
クラッカーの音と一緒に祝福されてしまう。
まさかこんなサプライズが待っているとは思わなかった。
それだけに少し照れ恥ずかしい。
「あ、その……ありがとう、ございます」
「よし、それじゃあ解散!」
最後はフータさんの言葉で、それぞれ家を出たりリビングでくつろいだりし始める。
僕は嬉しさのあまり、にやついてしまった表情を抑えるために急いで自室に戻った。
気持ちを落ち着かせ、平常心に戻ってから下に降りると、外に出なかったメンバーでゲーム大会が行われており、僕も一緒になって遊んだ。
時間は思ったよりも早く流れ、ついに【神無月ヤマト生誕祭】開始15分前になる。
皆いつも通りの中、1人で家物凄い緊張している子がいた。
「……ミルさん、大丈夫?」
「ひゃ、ひゃい! 大丈夫でしゅ!!」
ミルさんはものすごく緊張していた。
それもそのはず。
ガーデンランド、ごろろっく勢はこのようなイベントには何度も参加しているから慣れているに違いない。
ハリンさんは神経が図太く、このような大舞台でもあまり緊張しないタイプの人だ。
対してミルさんは最近デビューしたての新人Vtuber。
先日僕の配信に参加してもらった際は問題なさそうだったが、流石に大舞台ともなると緊張せずにはいられないようだ。
「お、どうしたミルッチ! ガチガチだぞ!」
「しょ、しょんな事あるわけないじゃないですか!?」
「いや、本当か?」
ここぞとばかりにからかっていくラノさん。
そんなラノさんの頭をつばささんが軽くはたく。
「やめなさい」
「って! 何すんの!」
「ミルちゃんをからかうラノちゃんが悪いよ! ミルちゃん、ラノちゃんの言うことは気にしなくていいからね。最初はみんなそんな感じなんだから」
「つ、つばささんたちも、そんな感じだったんですか?」
「ええ、もちろん。私たちも初めての大きなイベントの時は緊張したよ。特にラノちゃんなんて、最初は息巻いてたくせに、いきなり失敗して赤っ恥かいてたからね」
「わぁぁぁぁぁ!!」
「あ、それ僕見たことあるよ。確か2期生最初の3DLIVEだったよね?」
「私も見たことありますね」
「自分の妹もよく見てます」
つばささんの暴露にラノさんは耳をふさぎながらしゃがみ込む。
因みに僕も見たことがある。
2期生最初のLIVEではラノさん以外は緊張で体が硬い中、ラノさんが他の4人を引っ張っていく、という風に進んでいったが、ラノさんは進行していく中で、歌う曲の題名を間違えたり、企画の題名を間違えたり、最後に発表するはずの重大発表の内容をしゃべってしまったりと、終わるころには他の4名の緊張は解けて、逆にラノさんが硬くなる、と言ったLIVEだった。
「因みにこれがその時の切り抜きだよ」
「こ、これが、ラノさん」
「やめてぇぇぇぇ!」
珍しく物凄く恥ずかしがるラノさん。
だが、自業自得なので助けたりはしない。
「こ、これ見たらなんだか、大丈夫な気がしてきました! 私、ラノさんみたいにならないように頑張ります!」
「うん、一緒に頑張ろうね!」
ラノさんを犠牲にミルさんの緊張が解け、一安心する。
「時間が来たので、皆さん位置についてください」
獅喰蓮さんの声に皆移動を始める。
いよいよ【神無月ヤマト生誕祭3DLIVE配信】が始まる……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます