ゴールデンウイーク!

第27話 ゴールデンウイークに向けて!

凸待ち配信を終えて数日。僕はどこか燃え尽きていた。

今日も配信があるというのに、何処か気合が入らない。


別にVtuberをやり切った! だなんて思っていない。むしろ僕はまだまだな方だという自覚はある。


でも、これまでの一か月近くが過酷だっただけに、普通の生活に戻ると何もやりたくないという気持ちになってしまう。


明後日からゴールデンウィークに突入する。


せっかくだし、ゴールデンウィークには生活でも配信でも何か大きいことをしたい!



「と、いうわけで、ゴールデンウィークに何か大きいことをしたいんだけど何か案ない?」

「……そんなことどうでもいいから夕食の準備して」

「ちょっ、ひどくない来夢!? 僕は真剣なのに!」

「帰ってきてすぐにつかまった私のことも考えてくれない? 今すぐお風呂に入って汗を流したいんだけど」

「……ごめんなさい」

「よろしい。じゃあお風呂入ってくるからご飯の準備よろしく」


来夢に対して何も言い返せない。

確かに来夢はいつも帰ってきたらまずお風呂に入る。


それが家に帰ってきてからの来夢のルーティン。

これをするといい歌詞が浮かんでくるらしい。


仕方ないので今日の晩ご飯は来夢の好きな『僕特性! チキン南蛮』を振舞ってあげよう!


チキン南蛮を作り始めて30分立ったころに来夢はお風呂から上がり部屋へと一直線に駆け込んでいく。


いい歌詞でも浮かんだのかな。


だとしたらご飯を食べるために降りてくる来夢は機嫌がいいかな。


作り始めて50分。

ご飯も炊けてようやく晩御飯が出来上がる。


「来夢! ご飯で来たよー」

「今降りるー!」


大きな足音を鳴らしながら下りてくる。


「お兄ちゃん! この匂いってチキン南蛮だよね!?」

「せいかーい!」

「お兄ちゃん大好きー!」


うん。やっぱりとても上機嫌。


これなら相談しやすいし、しっかりと答えてくれそう。


来夢はチキン南蛮にがっつきながら、どんどん食べていく。

僕も来夢に後れを取らないように、しっかり噛みながら急いで食べる。


おかげで、今日の晩ご飯はいつもなら20分以上かかるところを10分近くで食べ終えることができた。


「それでなんだけどね、来夢。ゴールデンウィークに何か大きいことをしたいんだけど、何か案ない?」

「うーん。それは配信でってこと?」

「どっちもかな。これからゴールデンウィークだっていうのに、何にもやる気起きないんだ」

「あー確かに。お兄ちゃんのここ数日ってとても忙しかったうえに、今までの生活とはかけ離れてたもんね。もしかしてだけど今の感じって夏休みが終わる前日みたいなの?」

「ちょっと違うけどそんな感じかな。今から普通の配信をしてもリスナーさんたちは見に来てくれなさそうなんだよね」

「確かに」


普通の新人であれば最初はソロ配信で基盤を固めていき、慣れてきたら他のVtuberさんとコラボしたりして、普段とは違う特別な配信を行う。


だけど僕の場合は炎上に始まり、コラボ配信、凸待ち配信と僕の基盤となる配信を一回もしたことがない。

むしろ今までの配信が基盤となってしまい、本来の普通の配信が物足りない感じになってしまう可能性が高い。


「私はお兄ちゃんの考えすぎだと思うけどな~。むしろリスナーさんたちはそろそろ普通の配信を見ないと、お兄ちゃんの配信は反応に疲れて見たくなくなる感じがする」

「……僕の配信ってそんなに反応につかれる?」

「うん、めっちゃくちゃ疲れる」


そうだったんだ。

てっきり、見に来てくれる人みんな楽しんでくれていた気がするんだけど。


「だから、普通の配信でいいんじゃない?」

「うーん、でもなー。せっかくのゴールデンウィークなんだし、特別なことがしたいんだよねー」

「……正直これは言おうか迷ったんだけど、聞きたい?」

「え、気になる」

「帰宅途中にお義姉ちゃんから電話来たんだけどさ。ゴールデンウィーク期間、東京に行かない?」

「……え」


これは僕の聞き間違いかな?


今東京って単語が聞こえたんだけど。

この僕に対して東京に行こうって言った気がするんだけど。


……いや、気のせいだね。

念のためにもう一回聞いておこう。


「来夢、ワン・モア・プリース」

「ゴールデンウィーク期間なんだけど東京行かない?」


聞き間違いじゃなかった!


「何で東京!? 大阪……は大都会だからだめ。……田舎とかじゃダメなの!」


こういってしまっては東京都民に申し訳ないけど、僕は東京、いや、都会が嫌いだ。

人は多いし、電車の本数も線路も多い。


特に嫌なのは高そうな店がたくさんあること!

あれには全然なれない……。


確かに、秋葉原やお台場に入ってみたい。

飛行機にも乗りたいし、新幹線も見てみたい。

むしろ行ってみたい理由は無数にある。


でも行きたくない!

人混みも嫌だし、電車を間違えるのも嫌!


それさえなくなれば行ってもいいけど、東京に行ってそれらは簡単になくならない。


「田舎なんて今住んでいるところと変わらないじゃん。お兄ちゃんは行ったことあるかもしれないからいいけど、私なんて行ったことないんだよ」

「あるよ! 小さいころに……」

「記憶にございません! だから行ってみたいの! お願い……」

「た、たとえ来夢のお願いだったとしても……。少なくとも人混みや電車の乗り間違いが解決できないと僕は行かないからね!」


高そうな店はこの際どうでもいい。

入るのは嫌ではあるけど入ることなんてそうそうないし、入ったとしても何もしなければ問題ない。

むしろ大きな問題は人混みと電車。これらは誰にもどうすることはできない。


「あ、お兄ちゃん。それなら大丈夫みたい。さっき加奈お義姉ちゃんに聞いたらどうにでもなるんだって」

「え?」


僕のもとに神は舞い降りてこなかった。


今見えるのは地獄の鬼。久遠加奈という女の鬼。


「これで、東京行けるよね!」

「う、うん」


全く喜ばしくない東京観光が今決まってしまった。



***


『ということで、今週の土曜日から東京に行くことになりましたー』


僕は早速、初めての平日配信で今日あったことを報告した。



おお!

いいじゃん!

何が嫌の?

東京は賑わいよくていいところだよ!



『その賑わいが苦手なんですよ。人混みに電車の本数に線路の多さ。新幹線が見れるのはいいんですけど。それ以上に嫌なんですよね』



全く理解できない……

自分田舎者なんで東京には憧れます。

東京都民からしたら田舎の方が憧れるかな

田舎者で東京に憧れないのはヤマトくらいじゃない?


『そんなことありません。いいですか! 都会にあこがれない田舎者もいるんです! みんながみんな東京に行きたい! って思うと思わないでください!』



分かった分かった!

言いたいことは分かったけど今週の土曜日からっていいの?

ゴールデンウィークまであと数日はあるぞ。



『ああ、そこらへんはあまり問題ありませんね。来週ですけど妹の学校は長期休みらしいので。まぁその分夏休みの日数が減りますけど』



まじ!

うちの学校もそうならないかな……

いやいや、これってただ休日の先取りしてるだけじゃん。

夏休みが減るのはちょっと……

それ言っても大丈夫? 東京都民が一気に空港に駆け寄るんじゃ……。


『あ』



やってしまったw

俺はヤマトのためにそういうことはしない!

でもヤマトファンじゃないけどヤマトを知っている人は見に来るかも。

これで性別合戦に終止符が……


『まぁ、僕も妹も顔の公開はしていないので『撫子』の子供として検索しても兄さましか出てきませんから大丈夫かと思います』



ヤマトの言葉で安心できない。

俺らで阻止するんだ!

安心してヤマト! 俺らも悪い旅行にならないように手伝うから!

まずは土曜日の空港チケットを買い占めろ!



なんかヤバい雰囲気だけどそんなことするようなバカはいないよね。


『まぁ、人混みが起きないようにしてくれるらしいので僕はそれだけでも十分ですね。それでは今日も普通に配信していきます』



も?

普通とはw

普通という言葉調べなおそ……


ヤマト様親衛隊015785

東京で待っています!

¥5,000


ついに5桁突入したか……


***


そのあとは何事もなく、初配信から3週間近くにしてようやく普通の配信をすることができた。



そして時が過ぎるのは早く土曜日のゴールデンウィークがやってきた。



~~~~~~~~~~

とある掲示板


神無月ヤマトについて語ろう。


365:名無し

配信ではああ言ったけどどうする?


366:名無し

>>365

東京旅行のやつ?


367:名無し

>>365

何もしないのが無難だと思うけど


368:名無し

>>367

でもせっかくだからいい旅行になってほしくない?


369:名無し

>>368

それはそうだけど、俺たちができることってたかが知れてるし……


370:名無し

>>369

もういっそのこと本当に東京にある空港のチケット全部取るか?


371:名無し

>>370

流石にそれは……


372:名無し

>>371

いや、協力を募ればいけるかも。しばらくまともな生活はできないけど……。


373:名無し

>>372

やっぱりそれは無しにしよう。ヤマトも初配信で言ってたけどあまりお金を使い過ぎないようにって。


374:名無し

>>373

確かに言ってた


375:名無し

>>373

もしこれをヤマト様が知ったら絶対に悲しむ


376:名無し

>>375

でもどうするよ。それだと結局ガチファンじゃない連中はヤマトの素顔を見ようと東京の空港に押し掛けるかもよ


377:名無し

>>376

あ、それについては安心していいかも


378:名無し

>>377

え、どいうこと?


379:名無し

>>378

自分テレビつけながらヤマトの配信見てたんだけど、さっき臨時ニュースで土曜日のみ東京都の空港全て運休、立ち入り禁止になったらしい。


380:名無し

>>379

え、


381:名無し

>>379

何それ


382:名無し

>>379

怖ぁ


383:名無し

>>379

でもこれでヤマトの素顔を見に来る不届き者はいなくなったね


384:名無し

ヤマトも東京に来れなくなったけど


385:名無し

確かにw


386:名無し

じゃあ今日はこれで解決かな?


387:名無し

>>386

解決だね


388:名無し

じゃあ自分は去ります


389:名無し

>>388

おつかれぇ!


~~~~~~~~~~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る