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第20話 加奈ちゃん、東京に降り立つ!

~~~~久遠加奈~~~~


私は今東京に来ている。

と言ってもまだ空港内だけどね~。


そのあと、家を急いで飛び出して電車に乗り、なんとか時間ぎりぎりで空港についた。


多分人生で一番焦ったんじゃないかな~。

ともあれ無事につくことができて何より!


飛行機を降りた後、荷物受け取り口でキャリーケースを受け取ってから広場に出る。

東京には来たことがあるとはいえ、その数は百にも満たない。

だから目的の場所に行くにはどう行けばいいのかが分からない。


だいたい東京の空港って広すぎるよ!

こういう時、目印があれば楽なんだけどな~。


空港の見取り図を見ても、何処に行けばいいのかあまりわからないし。


「ねえねえ、あの人可愛くない?」

「めっちゃ美人じゃん。着物もとても似合ってるし」

「コスプレ?」

「なんかの撮影じゃないの?」


見取り図を見ながら思考していると、だんだんと周囲が騒がしくなる。


「花見か?」

「いやいや、四月ももう終盤。桜なんて散ってるだろ」

「花見だとしても空港に来ないんじゃない?」

「ってか、よく見たら後ろにSPいるんだけど!」

「あの美人何者!?」


美人に着物で後ろにSPが控えている。


とても身に覚えがあるのはなんでかな~?


こんな人の多いところで目立ちたくないし、速く離れていよ~。


「どこに行くんですか? 加奈ちゃん」

「……」


誰かが話しかけてきたけど無視無視。

今は早く逃げないと!


「聞き方を間違えました。どうして逃げようとしているんですか? 加奈ちゃん」

「……」


今度は逃げられないように肩を握られてしまう。


「何か逃げないといけない理由でもあるのですか?」

「……そう思うんなら自分の外見に聞いてみたら~」


後ろを振り向くとそこにいたのは和服美人。


凛としたたたずまいに、女性の私でも見とれてしまうほどの美しい美貌にスタイル。何より、日本人特有の長い黒い髪が彼女の美しさを際立たせている。


今の彼女を一言で表すなら『大和撫子』


その言葉が彼女以上に合う人なんてそうそういない。


彼女の名は幸村ゆきむら霧江きりえ


日本有数の流派を持つ武術・舞踊の家元である幸村家の末娘。


そして、私と一郎君の後輩でよく遊んだ幼馴染。


「加奈ちゃんが来るというから正装で来たというのに何か問題でも?」

「大ありだよ~。今の日本は洋服が主流なのに和服、それも着物出来たら注目されるのは必然じゃん」

「それなら何も問題ありませんよ。皆さん私に注目していますので加奈ちゃんのことは一切見てません」

「いや、逆だよ。霧江ちゃんの恰好が派手だから普通の私が注目されるんだよ。……前会った時もこのやり取りしなかったっけ?」

「しましたね」


前会った時、というよりも私が東京に来て霧江ちゃんが迎えに来るたびにしている気がする。


「長話はあとにして私の家に向かいましょうか。問い詰めたいこともありますし!」

「な、何のことかな~」


思い当たる節はたくさんある。

でも今は現状をどうにかしよう!


空港じゃこれ以上目立っちゃう。


幸い、霧江ちゃんの家はリムジンを使っているので、目立ってしまったとしても空港よりも視線を感じることはない!


「お嬢様、お車の準備ができています」

「ありがとう。下がっていいわよ」

「はい」


お家の人と話しているときはかっこいいんだけどな~。


「おい、あれ」

「え、本物? 初めて見た!」

「いくらするのかな?」

「マジであるんだ」


外から入ってきた人の会話が聞こえてくる。


まあ、リムジンでもやっぱり目立っちゃうよね~。

でも乗ってしまえば問題ないし、少しだけの辛抱!


「めったに見れないし写真撮っちゃお!」

「あの人大変じゃないのかな?」


ん?


変な会話が聞こえてくる。


大変? もしかしてリムジンを洗車してるのかな?

でもここ空港だよ。

それに、さっき準備はできてるって言ってたし。


「あれ、絶対冬だったら寒いだろ!」

「日本で走って大丈夫なのかな?」


だんだんリムジンのイメージが消えていく。


車なんだし冬は寒いのは当たり前なのになんで?

車だよ。日本は知っていいじゃない。


違和感を覚える極めつけに、さっきから会話が聞こえてくるけど誰も車内の話をしていない。

普通、リムジンを見たら『中は赤いのかな?』だったり、『冷蔵庫はついているのかな?』みたいに一般の車ではありえないことを想像するはず。

それなのにそれがまったくないなんて、何かおかしい。


「霧江ちゃん。今日ももちろんリムジンで来たんだよね? SPさんもこんなにたくさんいるし」

「すみません。実は少し車の調子が悪くて、今日は別のもの出来ました」

「別のものって……」

「あ、見えました。あれです!」


外に出て一目散に目に入ったのは一定の場所に集まっている人だかり。

そして、その人だかりから見える物体。


私でも資料でしか見たことないだけに本物を見るのは初めての車。


「……これってレンタル?」

「まさか。我が家にある人力車ですわ」


まさか人力車で来るなんて。

それは人が集まるわ。


だって、この時代に人力車なんてレア中のレアだもん。

何度一郎君と一緒に乗りたいと夢見たことか。


「ちょっと待って、もしかしてあれで行くわけじゃないよね?」

「はい、あれで我が家へ向かいます」


うん。これ以上は何を考えても無駄かな。

霧江ちゃんの家は交通機関を利用しない決まりがあるみたいだし、歩いていこうにも今日の霧江ちゃんの恰好じゃ絶対に無理。


でも一つ聞きたいことがある。


「SPさんはどうするの~?」

「皆さん後をついてきますよ。じゃないとお父様に怒られてしまいますから」

「そーなんだー」


もう考えるのはやめよう。


これ以上何を考えても周りの光景は変わらない。


絶対に目立つこと間違いなし。


空港を出た私たちはなぜかスカイツリー、雷門を観光してから幸村家へと向かう。


そのたびに注目され霧江ちゃんは周りの人に手を振り返していたけど、私は緊張のあまり体が硬くなっていた。


霧江ちゃんの家はとにかく大きく、門から家に入って歩くこと五分で本邸にたどり着く。


木の作りで出来ている家は、どこかの武道館と思ってしまうほどの大きさ。


いつ見てもこの大きさにはなれない。


「お帰りなさいませ、お嬢様」

「ただいま帰りました。お父様は?」

「ただいま京都の方にお出かけになりました。呼び戻されますか?」

「大丈夫よ、聞いただけ。今日は加奈ちゃんがいるから料理は豪華にお願いね」

「かしこまりました」


この会話も聞きなれた。

私が来るときは毎回行われる会話。


霧江ちゃんの家は家に入ってからさらに歩くこと三分の所にある。


中に入るといかにも女の子らしい人形やカーペット。

外観とは全く別で、霧江ちゃんの部屋は現代的な洋式の部屋。

広さは十畳くらい。


と言っても霧江ちゃんの部屋はこの部屋だけでなく、右の襖の奥に寝室。

寝室に関しては一軒家が3軒建つくらいの広さ。

左のふすまには霧江ちゃんの作業部屋。

作業部屋には防音室にパソコンが10台。マイクが6つ。資料集にその他もろもろ。

因みに10台のうち3台は私の作業用パソコン。


幸村霧江、またの名を夢見サクラ。

大手Vtuber企業ガーデンランド所属のVtuberであり、現在進行形の売れっ子ラノベ作家。

私の仕事相棒ビジネスパートナー


今日東京に来たのはそれが理由……などではない!


「それじゃあ霧江ちゃん。夜まで遊びたおそ~!」

「お~! じゃありません! 今日は聞きたいことが山ほどあるんです!」

「ちくしょ~。乗ってくれなかったか~」

「当然です。配信を休みにして加奈ちゃんの来る日程を1日早めたのはこのためなんですから」

「それで、聞きたいことって何~」

「まず一つ。いつの間にいちろー先輩と結婚してたんですか? 結婚式には呼んでくれるって約束してたのに」

「あー、それね~」


霧江ちゃんとは小中一緒だったけど、私たちが中学卒業のタイミングで東京へと引っ越した。

私と一郎君が結婚したのは高校卒業してすぐ。

その時に結婚式も行った。

そのころには心の底にモヤモヤを残しながらも霧江ちゃんとの約束は完全に忘れていた。


そして私と霧江ちゃんが再開したのは私が21歳の時。霧江ちゃんと再会してようやく心の底にあったモヤモヤはなくなった。


「つまり私との約束は忘れていたと」

「ごめんね~」

「ひどいですよ。別れるとき結婚式に呼んでくれるって言ってくれたのに」

「その当時霧江ちゃん携帯とか持ってなかったし、引っ越し先の住所も知らなかったから」

「それはそうですけど」


あー、ようやく話せた!

いつも会うたびに黙っていた罪悪感はあったけど、なかなか切り出せなかったからね~。


「まぁそれについてはもういいです。本題はそっちじゃなくてあの子・・・のことですから?」

「あの子?」


霧江ちゃんは作業部屋の中から1枚の紙を取り出し見せてきた。

その紙に写っているのは私が描いた『神無月ヤマト』の初配信の時の一部。


「私も加奈ちゃんに推されてこの子の自己紹介動画は見ました。正直に言うと、世間的には『神無月撫子』さんのおかげで人気が出たという意見は少なくありませんが、彼一人の実力でも遅かれ早かれ人気が出るのは間違いありません」

「べた褒めだね~。でも言いたいことはそれだけじゃないでしょ?」

「はい。教えてください。どうして、どうして……」


わなわな振るえる霧江ちゃん。

嫌な予感がするので少し後ろに身を引くけど両肩をつかまれる。


遅かった~。


「どうして私に何も相談してくれなかったんですか?」

「そ、相談って私がVの絵師ままになること? それともVtuberをするにあたっての相談?」

「どっちもです」


あー、どっちもか~。


「霧江ちゃんじゃ相談したところであまり力になれなくない?」

「ひどくないですか? 私だって力になれますよ。絵師になることは無理でもVtuberをするにあたってのアドバイスくらいならできます」

「あ、でもやす——ヤマトの動画なかなか良かったでしょ? あれ、一郎君がアドバイスしたんだって」

「私なら動画のクオリティをもっと上にあげられますよ?」

「何に張り合ってるの~? まぁ、私は相談してもよかったけど、ヤマトと霧江ちゃんって初対面でしょ? 多分ヤマトは緊張しちゃうと思うよ」


確か、保仁くんが小1のころに霧江ちゃんは小6。関わることは全然なかったはず。

……いや、うちの小学校って確か……。


「加奈ちゃん。多分だけど私イチロー先輩の弟さんのこと知ってると思います」

「あー、これは確定だね~」


ヤマトは性別不明のVtuber。だけど、霧江ちゃんは一郎君の弟だって知ってる。

そこから導き出される答えは一つ。


「霧江ちゃんって一年生の食事当番してた?」

「してましたよ。一年間。そこには弟さんもいました。確か名前は久遠……保仁くん」


確定。

霧江ちゃんは保仁くんに会ったことがある。


「知ってたんだね」

「いちろー先輩にはよく弟さんの話聞かされましたし、私自身彼と話したことはあるので」

「あー、ヤマトの性別のことは」

「内緒、ですよね」

「お願いね~」

「分かりまし——」


その時、私たちのスマホから通知音が鳴り響く。


どうやら霧江ちゃんも設定していたみたい。


私たちは二人で一緒にMytubeを見て夜を過ごした。


~~~~~~~~~~~~

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