第9話 初配信 #1


時がたつのはとても速いもので、僕がVtuberとしてデビューしてから、早一週間たとうとしていた。


炎上した二日後、カナママに書いてもらったイラストはヤマトがかっこよく描かれており、曲としっかりマッチしていた。


そうしてできた僕のファーストソングは思った以上に反響がよく、アンチコメントは多少あったものの、九割近くは僕の歌声に、カナママのイラスト、ライムの作詞作曲を絶賛するコメントだった。


炎上しているだけにカナママとライムにアンチがいかないか心配だったが、特に問題はなくかったみたい。


僕の炎上に関しても、歌を聞いて最初は僕に対してアンチコメントを送っていた視聴者たちの多くの人が疑心暗鬼になっていた。


そして今日はついに土曜日。


ヤマトの初配信日である!


そのことをカナママに書いてもらったサムネと一緒にトリッターで告知すると、多くの人がリトリートといいねを推してくれた。


その中には、


『ヤマトさん、初配信頑張ってください! 今日はお仕事お休みですので最初から最後まで見ています! 炎上なんて気にせずにつき進め‼』


と、飛鷹凛音さんからもコメントがあった。


『応援ありがとうございます! さすがに炎上を気にしないのは難しいですが、僕にできる精一杯を出したいので是非最後まで見てください』


というコメントを返した。


芸能人から来た初めてのコメントに対し、返信コメントを考えるのに時間がかかったのは言うまでもない。


だって尊敬する人からのコメントだったんだもん!

仕方ないよね。


他にもたくさんの人からコメントが届いており、僕の歌を聞いてから考えが変わったというアンチをしていた人からの謝罪文などもあった。


因みに質問に対しては多くの人がコメントしてくれており、一番多かったのは『神無月撫子との関係』と想定内のもの。


そのほかにも『性別はどちらですか?』や『どうしてVtuberになろうと思ったのですか?』が多くある。


ほかにも多くの質問があり一時間で足りるかなと不安になり、ライムに相談してみたところ一言、


「絶対に無理」


と言い切られてしまい、いくつかの質問を削る羽目になる。


配信中に来るコメントからも質問を受け付けるようにしているため、思った以上に削ることになった。


今日の配信は18時から、すでに配信の枠は建て終わっている。

配信時間まであと6時間もあるのに、待機人数は既に千人越え。コメントで皆盛り上がっている感じかな?


質問を削り終えようやく昼食の時間になった。


忙しい僕に変わって今日の昼食と夕食は来夢が作ってくれる。


最高の妹を持てて僕は幸せ者だ。


「お兄ちゃん、緊張してないの?」

「だいぶしてるよ。質問を削っているときだってものすごくドキドキしてたもん」

「その割にはいつも通りに見えるんだけど」

「なんて言えばいいのかな。緊張はしてたんだけど、それ以上に僕の配信を見に来てくれることが嬉しくて、緊張よりも楽しみが勝った感じかな」


そのおかげで普通に昼食を美味しく食べることができている。


「あーなんとなくわかるかも。私も初めて曲を出したときは緊張してたけど、それからは聞いてくれる人がいるだけで嬉しいって思ってたから」

「母さんたちもこんな気持ちだったのかな?」

「そうなんじゃない?」


昼食を食べ終え、せっかくの休日なので気分転換に来夢と買い物に出かけようと思ったけれど、「初配信に向けて休んでて」と、来夢に止められ泣く泣く自室で昼寝をすることにした。





「お兄ちゃん、起きて!」


声が聞こえ目を開けると来夢の姿が目に入る。


焦った表情を浮かべているけど何焦っているんだろう?


「来夢おはよう」

「おはようじゃないよ! 今何時だと思ってるの!」

「あー、何時?」

「もう五時だよ! 今日の配信6時からでしょ!」

「あ」


完全に寝過ごしてしまった!

1、2時間寝るつもりが5時間も寝てしまうなんて!


「来夢起こしてくれてありがとう!」

「お礼はいいから早く準備して、待機人数やばい事になっているから!」

「え?」


それからは、配信に必要な資料のチェックと機材動作の最終確認、トリッターへの告知を終えて開始15分前に配信準備を整えることが出来た。


そこでようやく待機人数を確認すると、来夢が焦っていたのも納得ができた。


待機人数:約2万人


チャンネル登録者数4桁では考えられない待機人数。


これには来夢が、驚くのも無理は無いかも。


Vtuberの配信ではチャンネル登録者数が数十万の人でも、視聴人数が2万人行くことはほとんどない。


ましてや僕の場合は登録者数は数千人。


正直に言うと、四、五千人位見てくれればいいほうだと思っていただけに、驚きしかない。


これが炎上効果かは知らないけど、せっかく見に来てくれたリスナーさん達全員を神無月ヤマトのファンにする気持ちで頑張ろう!


「それじゃあ、私は自室にいるからお兄ちゃん頑張ってね」

「うん、僕を応援してくれた人たちのためにも頑張るよ」


来夢が部屋を出たのを確認して、心を落ち着かせる。


いつの間にか配信五分前。


時間は一刻に迫り、ついに配信時間となる。



✻✻✻


『初めましてご主人様。執事の神無月ヤマトと申します』


来た!

ヤマト様ー!

待ってたぞー!

証拠を見せろ!!


待っていた、というコメントもあれば、アテレコ動画に関しての証拠をみたい、という人もそこそこいる。


『まずは自己紹介……と行きたいところですが、皆さんが知りたいのはアテレコ動画の声に関して、ですよね?』


それそれ!

私はヤマト様を信じてます!

もし本当だったらチャンネル登録してやる!

Vtuberは知らないけど、声真似に興味あるからきた!


十人十色の反応。


多分これを求めてきた人が同接数のほとんどだと思う。

そこからどれだけの人数を僕に興味持たせることができるか。


『それではひとつ、「ご、ご主人様たちのことなんか、全然好きじゃないんだからね。むしろご主人様達がヤマトのこと好きなんでしょ!」』


これは母さんが声を担当した「高橋らん」というキャラで、特徴はツンデレヒロイン。だけど、今回はツンデレメイド風にアレンジしてみた。


らんちゃん!

たからん!

撫子さんが演じた声!

あの動画は本当にヤマトの声!?


『「本当にヤマトの声だよー」』


僕と母さんの関係を疑っている人がいるかもしれない。

だからこそ、今あるコメントに返答して疑惑を完全に晴らす。


コメントに反応⁉

マジで⁉

ヤマト様を信じてよかった!

オリ曲がよかっただけにマジ安心した……


なかなかの好反応。

疑う人のコメントは完全になくなり、僕の声をほめてくれる人が多くなった。


すごすぎて逆に引く

思わずうーっわ、って声に出ちゃったよ……

やばぁ……


中には引いている人もいたけど、これは僕に対しての称賛と受け取ってもいいのかな?


もう少し続けてもいいけど、時間は限られているからこのくらいでいいかな。


『今回の動画が炎上する大きな原因となったのは、映像の使用と声のチューニングを一切しなかったことだと思います。映像に関しては許可をとってはいましたが逆にそれが惑わしてしまう要因になってしまいました。申し訳ございません』

『チューニングに関しては、チューニングをせずに声を変えることができるという特技であるという説明不足でした重ねてお詫び申し上げます』


お、おお……

ちゃんとわかっているなら、俺らからは何も言うことないな

次からは気をつけろよ!

炎上の件がはれて安心しました!


『それではこれより、僕の初配信を始めたいと思いまーす! その前に水失礼しますね』


音が聞こえないように、配信の音を切り水を飲む。

すると、約三万人いたリスナーはどんどんと減っていき、一万強の人数になった。


僕としては一万行ってくれればいいと思っていただけに、この人数はとてもうれしい。


『お待たせしました。この数十秒でご主人様が一気に減ってしまったようですが気にせずに行きましょう』


気にするな!

俺たちがついている!

私たちは何時までもいるよ!


『ありがとうございますご主人様方。では初めに自己紹介と行きましょう』

『皆様既に知っておられると思いますが、僕の名前は神無月ヤマトと言います。年は10代、性別は……秘密です』


何でだよ⁉

性別気になる!

何歳なんですか!

ご主人様命令です。教えなさい!


『執事には秘密が多いんですよ。ですがそうですね、年齢に関してはこの後の配信でいくつかヒントを出すと思いますので推理してみてください。推理というほど難しくもありませんが』


ご主人様たちなめんなよ!

ヤマトきゅんの秘密、全部暴いてあげるからね!

今、ヤマトの秘密が暴かれる。


いい感じにコメントが盛り上がってくれている。なかなかにいい感じ!


『ふふ、楽しみにしてますね。次に誕生日ですが12月25日生まれです。クリスマスの時にサンタ様から現世に命を授かりました』


この誕生日は僕自身の誕生日でもある。

僕に似ているんだからせっかくだしヤマトの誕生日も僕と一緒にしようと思いこの日にした。


『次に僕を生んでくれた親です。僕を生んでくれた親は花村カナママ。ライトノベル「転生したらショタになったのでお姉さんたちにちやほやされます!」のイラストを担当しているママです!』


花村カナ⁉

Vのママになれたのか⁉

トリッターでずーっとなりたいって言っていた夢がかなってる⁉

花村カナ:

ヤマトちゃん、頑張って~


『あ、カナママ! 見てますか~。これからも頑張るので、応援お願いしま~す』


カナママ⁉

夢が叶ったんだな!

おめでとう!

花村カナ:

ありがと~。


カナママの登場でコメントはカナママへの祝辞でいっぱいだが、カナママを知らない人は若干取り残されている。

このままではいけない。すぐに話題を変えよう!


『次に僕の特技を紹介します。特技は声真似と歌、歌に関しては一昨日出したオリジナルソングを聞いてください』


あれはよかった。

最高!

ライムの曲にヤマトの歌唱がちょうどいい感じにミックスしてた!


『他には演技に料理、絵描きに工作ですかね』


多彩だ!

芸術家かっ!

演技ってもしかして本当に……

いや、まだわからない!


『逆に苦手なのは勉強ですかね。中学の時は30点以上取ったことありませんので。ちなみに中三で最高得点は理科の8点です』


はあっ⁉

頭悪っ!

高校の成績は!

てか高校行けたの?


おそらくこのあたりから徐々に気づき始めてくる人が出てくると思うが、まだネタ晴らしをするつもりはない。

みんなが完全に感づき始めてからネタ晴らしした方が面白いだろうし。


『それではいい時間ですのでトリッターで集まった質問に答えていきたいと思います!』


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