高校受験に失敗したのでVtuberで才能を発揮します!
@asasinn0125
プロローグ
第1話 高校受験に失敗しました!
「ご主人様、お帰りなさいませ。あなたの
ただいま
今帰ったぞー
私のヤマト~
俺のヤマト!
みんなのヤマトだ!
ヤマトのために争わないで!
僕の目の前にあるパソコンの画面でコメントによる争いが行われている。この光景にもすでに見慣れてしまった。そして誰かが争いを止める。少し前までは原因である僕が止めていたが、徐々に視聴者だけで片付いていくようになった。
原因である僕、いや僕の活動体はというと、静かに下を向いていた。
僕は訳あって今年の春からVtuberをやっている。
最近では新人個人勢でありながら大女優とコラボをした成果で、チャンネル登録者数がうなぎ上りに増えている。
「今からは神無月ヤマトの配信始めます!」
画面の先にいるリスナー相手に話しながら、僕がVtuberをやっている原因を思い出す。
——————————————
————————
————
中学三年の三月。卒業式があった翌日の話だ。
僕の名前は
そんな僕は今人生の分岐点に立っていた。
南の国である宮崎県でも冬場はピークを過ぎたもののいまだに寒い。
そんな中、僕は受験を受けた高校に妹と二人で来た。
周りには同じ制服を着た同中と思われる生徒に、僕の来ている制服とは微妙に違う制服を着た他校の中学生、いろんな人がいる。
寒い朝っぱらから受験を受けた高校に来ている理由。
それは今日が高校受験の結果発表だからだ。
僕としては精一杯やったものの、落ちているかもしれないという恐怖心がある。
だから振り替え休日で学校のない妹と一緒に結果を見に来た。
「お兄ちゃん。寒いんだけど」
「頼むよ
「友達と見ればいいじゃない。……あ、ごめん。友達いなかったよね」
「うっ!?」
自慢じゃないが僕には友達がいない。僕自身にも原因があるかもしれないが、主な原因はほかにもあるけど、今は割愛しよう。
「お願い! 友達がいなくて、結果も見れないお兄ちゃんのために見てきてくれ!」
「はいはい、もとよりそのつもりで来たし、分かったから受験番号見せて」
「来夢~。はい、受験番号」
僕は来夢に感謝しながら、ポケットに入れていた『777』番の受験番号を渡す。
「……バカっぽい」
「言わないで!」
最初は運がいい番号だ! と思っていたけど時間がたつにつれ冷静になり、徐々に「運がいい」と思った自分がバカっぽく感じた。
「あ、張り出されるみたい。私行ってくるね」
「人ごみに気をつけろよ」
結果を見に行く来夢の後ろを見送りながら、石段に座り少しくつろぐ。
待っている時間がもどかしい。心音がバクバクと伝わってくる。
体を縮こまらせながら待っていると、来夢が向かった方向から声が聞こえ始めた。
聞こえてくる声のほとんど、むしろ全てが歓喜の声で、少し離れている僕のところからも親子や友人たちで抱き合っているのが見える。
それにしても、
「来夢遅いなー」
受験結果の紙が張り出されてからそこそこの時間がたった。だというのに来夢はいまだに戻ってこない。
仕方ない、見るのが怖いけど僕も行こう。
そう思い立ち、石段から立ち上がった時、首筋を冷たい何かで触られてしまう。
「ひゃっ⁉」
「……何今の声」
僕の首筋を触ったのは妹の来夢で、いつの間にか後ろにいた。
「ら、来夢⁉ 何するんだよ! ……いや、それよりも結果どうだった?」
「お兄ちゃん……」
来夢は両腕を頭の上まで持っていき、「〇」を作ろうとしていた
当然僕はその行動に笑顔がこぼれるとすぐに両腕で「×」を作られてしまう。
「え……」
「777番はありませんでした」
それを聞いた瞬間、足元から崩れ落ちてしまう。
これまでの頑張りは何だったのだろうか。すべてが無駄に思ってしまう。
「まぁ私は分かってたけどね。お兄ちゃんが絶対に受からないって」
「え、ひどくない? ここは普通落ちてへこんでいるお兄ちゃんを慰めるところじゃない?」
「いや、お兄ちゃん中学のテストで三十点以上取ったことないじゃん」
「うっ」
正直、受験に失敗したことよりもテストの点数を言われたことの方がぐさぐさ来る。
というよりも高校受験の方は落ちるかもしれないということは分かっていた。
それほどまでに、僕は頭が悪い。
母さんが言うには兄は両親の得意分野の学力と父の才能を、来夢は両親の得意分野と苦手分野を足して割った学力を、そして僕は両親の苦手分野を引き継いだらしい。その分両親の才能だけは最大限に引き継いでるそうだ。
「お母さんには連絡した?」
「してない」
「しといたほうがいいよ。心配してたし。私はお義姉ちゃんに連絡するから」
「は~い」
遠くで喜ぶ新高校生を眺めながらお母さんに電話をする。
今は仕事中だろうにワンコールでつながった。
「もしもし、お母さん?」
『あ、保仁? おはよう』
「おはよう。さっき受験結果確認したんだけど」
『もう出たのね、それで、どうだった?』
「だめだった」
『それは残念ね。でも大丈夫よ。あなたには私とお父さんの才能があるんだから、高校に行かなくてもやっていけるわ』
母さんはいつもこれだ。僕がテストで悪い点数をとっても怒らない。今回のことだって受験に失敗しても怒りはしなかった。
怒ってくれないのは僕に対して興味がないから、とかではない。母さんは僕が勉強できないのを知っているから。だから勉強に関しては怒ったりはしない。
ただ、別のことに関しては怒ってくる。
それは——。
『これで受験勉強は終わりね。それで、今後はどうするか決まったの?』
「まだ、しばらくは働けそうなところを探すことにするよ」
『そう、だったら「
「はーい」
『じゃ、撮影が始まるから切るわね』
それからすぐに通話は切れた。
そう。僕の母さんは役者をしている。
それも、日本国内では知らない人は少ない超ベテラン女優だ。名前は神無月撫子。もちろん神無月撫子は芸名で本名は久遠
今は東京に住んでいるが、僕を育ててくれた大切な家族だ。
母さんみたいに役者にはならないのかって?
悪いけどなるつもりはない。
母さんは会うたびに誘ってくるが、僕は両親の軌跡をなぞるつもりはない。
「電話終わった?」
「ああ、相変わらず忙しそうだったよ」
「お仕事だもん。仕方ないよ」
「だな」
母さんと関わる時間がないのは納得しているが、それでも会いたいという気持ちが僕ら兄妹にはある。
「それで来夢の方は連絡終わったのか?」
「今つながってるんだけど、お兄ちゃんに変わってほしいって」
「僕に?」
来夢からスマホを受け取り、耳に当てる。
「もしもし」
『あ、保仁くん。久しぶり~』
「お久しぶりです。義姉さん」
『相変わらず固いね~』
「あはは」
今僕と通話している相手は、兄さんの妻で、僕ら兄妹が二人暮らし出来る最大の要因である久遠
兄さんは仕事の都合で県外にいるが、義姉さんの仕事はイラストレーターで家でもできるらしく、僕ら兄妹を見守るために宮崎に残ってくれた。
ちなみにペンネームは
「それで、明日の件なんですけど……」
『わかってるよ。三者面談で保護者の件でしょ。お義姉さんに任せなさい!』
「よろしくお願いします」
『はいはい~。それで、話変わるんだけど今日私の家に来れる?』
「今日、ですか……」
少し返答に困ってしまう。別に行けないわけではない。同じ市内に住んでいるが、向かうまでは時間がかかってしまう。
「急ぎですか?」
『うん。だいぶ急ぎかな~』
「はぁ、分かりました。少し時間かかりますけどいいですね」
『いつでもいいよ~』
それだけ言うと通話は切れてしまった。
別に嫌いというわけではない。むしろ好きなくらいだ、家族として。だが、どうにも小さい頃の苦手意識が出てしまう。
「お兄ちゃんってお義姉ちゃんのこと苦手だよね~」
「まぁ、小さいころから知ってるけど、僕に対しての扱いがなー」
「あー、よくお兄ちゃんの声で癒されてたもんね」
思い出しただけでも恥ずかしい。どうしてあの時はあの声であんな言葉をささやいていたんだ。
「私帰るね、昨日も夜遅かったし、明日から学校だから」
「ああ、僕は義姉さんのところに行くよ。今日はありがとね」
「家の鍵、いつものところに入れとくから、じゃあね」
妹はそう言って高校を後にした。
僕も徐々に喜びながら帰っている新高校生を眺め、義姉さんの家へと向かうことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます