ぬいぐるみ裁判【KAC20232】

喜楽寛々斎

第1話

 和茂は父とテレビを見ていた。


 偽証罪についての番組だった。


「嘘が罪なら…父ちゃんも裁かれないといけないね?」


 母が遺したという、すっかり薄汚れたぬいぐるみたちをテレビ台から机に移して—————そうして裁判は始まった。






『被告人は和茂の父です』


 と、母クマが言った。


『被告人は「危ない工具があるからこの部屋には入っちゃ駄目」と嘘をつきました』


『部屋にこもる時に、仕事だと嘘をつきました』


『体操着袋や上履き袋が市販品だと嘘をつきました』


『弓袋もです』


 並んだイヌがネコがヒヨコがブタが、次々に陳述する。


『そして被告人の最も重大な嘘は、我々について偽ったことです』


 とフクロウ。


『被告人は我らを作ったのは母であると嘘をつきました!』


『母から預かっていたのを順々に渡しているのだと嘘をつきました!』


『和茂のことを考えながらひと針ひと針縫ったのは自分なのに!』


『一日仕事をして帰ってきて、疲れている中で一生懸命つくったのは自分なのに!』


『母の愛を騙るために、父の愛をなかったことにしたのです!』


『それは大罪です!』


『被告人は和茂にとって大事なものを嘘で隠しました!』


『和茂には「辛かったら何も言わなくていいからくっついでおいで」と言っておきながら!』


『被告人は自分が辛いときには一人でこっそり泣いていました!』


『大丈夫じゃないのに大丈夫だと何度も嘘をつきました!』


『そりゃあんまりです!世紀の大犯罪です!』


 聞いているうちに顔を覆ってしまった父に、裏声をやめた和茂はそっと聞いた。


「…被告人は何か申し開きがありますか?」


 父は首を振る。


「被告人は、罪を償う気がありますか?」


 彼は鼻を啜りながら頷いた。


「じゃあ父クマを作ってよ、父ちゃん。母クマの隣に並べたいからさ」






 数日後、和茂が部活を終えて帰宅すると、居間の机の上に裁縫道具が散乱していて、母クマの隣に父クマと子クマが並んでいた。

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