ぬいぐるる!!

橋本洋一

ぬいぐるる!!

 俺、タカシ十五才!

 街外れの森にある、巨大なビルを偵察していたら、中からくまのぬいぐるみが一体、俺に向かって駆け出してきた――はっきり言っちゃえば追ってきたんだ。


 どうやら知らない間にセンサーに引っかかったようだ。

 俺は「うわあああ!」と喚きながら街まで情けなく逃げる。

 だけど、木の根に引っかかって転んでしまったんだ。


「ぼく、くまの……さん。人間の脳が、大好きなんだあ」


 恐ろしいことをメルヘンチックに言うぬいぐるみ。

 ああ、ここで終わりなのか……


「……うごけない?」


 鋭い爪で攻撃しようとするぬいぐるみの動きが止まる。

 それはほとんど停止されられたようなものだった。


「危なかったわねえ、ぼうや」


 後ろから女の人の声。

 振り返ると、手の甲にピンクッションを付けた、つぎはぎだらけの服を着た、二十歳後半ぐらいの女がいた。


「あ、あんた。まさか――」

「うふふ。くまさん。あなたの意図はここで断ち切られるわ」


 女が両手を指揮者のように動かすと、鋼鉄でできているはずのぬいぐるみがばらばらに切断された。

 俺が呆然としていると「駄目じゃないぼうや」と女が言う。


「この時期は『バーゲンセール』なんだから。滅多に『デパート』に近づくのはNGよ」

「そ、それでも行かないといけないんだ」


 俺はばらばらになったくまのぬいぐるみから『コア』と呼ばれる宝石を取り出した。

 このコアは高値で売れる。


「妹が病気で、薬を買うのにお金が必要なんだ」

「……そう。ありふれた話ね」

「あんたは『糸遣い』なんだろう? 唯一、ぬいぐるみに対抗できる戦闘集団」

「だとしたらなに? 雇うつもり?」


 俺は頭を下げた。

 というか土下座をした。


「お願いします。俺が捧げられるものなら全て捧げるから。妹の薬が買えるだけのコアを取ってきてください」

「…………」

「情けないけど、俺にはこれしか……」


 すると女は俺の肩に手を置いて「男の子が簡単に頭下げちゃ駄目よ」と言う。


「分かったわ。あなたが私の弟子になるのなら、コアを取ってきてあげる」

「本当か!?」

「ええ。でも『糸遣い』の道は厳しいわよ」


 女はにっこりと笑って言う。


「あなたの張り詰めた意図が途切れないよう、厳しくいくわよ」

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