第六幕

第24話 疑心

「あの……見つけた僕が言うのもなんですけど……その、解けるんですか? 


 純汰じゅんたに訊かれた景梧けいごはというと、先程から朝春の顔が載っている張り紙と睨み合っていた。というのも、件の張り紙には謎の文言が書かれていたから……というのもあるが、正直なところあらゆるものを疑うしかなくなったために、考えをまとめる必要があったのだ。

 支給されているポーチからペンライトを取り出し、張り紙を見つめる。夕方になり、うす暗くなってきたからだ。

 そんな中で、純汰が景梧に声をかける。


「お、お兄さん……?」


「……ちったぁ我慢できねぇのか? 考え無し君のこっちは必死に考えているんだぜ?」


「す、すみません! つい!」


 謝る純汰を視界の外へやると、景梧は思考を整理し始めた。張り紙に集中しているようにみせかけつつ、警戒は怠らずに。


(このガキが張り紙を見つけたのは本当に偶然か? それによって、この妙なガキの言う暗号もとい文章の意味が変わってくる。いや、それよりもまずはこの張り紙か? ここでのアーサー王が朝春あさはるのことっていうのは確定だが、そもそもなんでアイツが?)


 一呼吸置いてから、景梧は純汰に声をかける。


「おい、ガキ。他の円卓が来ないかどうか見張ってろ」


「え? あ、は、はい!」


 どこか嬉しそうな純汰を視界の端に置きつつ、景梧は再度考えを巡らせる。


(アイツが絡んでいた実験ってのが鍵なのか? いやそもそも、なんの目的で、なにを、どのように実験していた?)


 弟の朝春がなにかしらの研究者になったことは、両親からそれとなく聞いてはいた。だが、の弟に昔から敵わなかったコンプレックスから、聞き流してしまったのだ。

 ――それをずっと、後悔していた。


 だが、それが仇となり今情報不足に悩まされている。


(……皮肉なもんだな。生きている時はさして興味もなかったのに……ここに来て知りたくなるとはな? なぁ朝春?)


 自嘲しながらも、まずは目前にある張り紙のが問題だ。


(ふむ。『王は魔女を選定し、日は堕ちた』ねぇ? 詩にしか思えない内容だな。……これを暗号? ……なぜあのガキは?)

 

 疑問の一つを解消するために、景梧は少し離れたところで周囲を見渡している純汰に声をかけた。


「おい、ガキ。なんでお前はこの文章を暗号だと思う?」


「え? だって、意味がわからないじゃないですか! なら暗号でしょう?」


「てめぇは自分が意味不明だと思ったらなんでも暗号にするのか? 考え無しにもほどがあるだろうが。てめぇみたいな脳内お花畑君に文章なんて合わせてたら、この世の文章は大体暗号になるぜ?」


 吐き捨てるように言うと、景梧は深いため息を吐きながら、もう何度目かわからない張り紙と向き合った。

 純汰は何か言いたげだったが、すぐに見張りを再開したようだった。その様子を見て、景梧は思う。


 (このガキのことも、知らねぇとだな……)

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