これがスーツアクターの矜持!

きつねのなにか

「ちぇーんじげっとぅわーわん!」

「なにい、、最強のひとつを出してきたか、今回はここまでのようじゃな」

「逃がすか、ブレスターファイアー!」

「ぐわぁ」


はーい、OKでーすという言葉と共に今回の撮影が終わる。

今演じているのは「The、ぬいぐるみ戦隊ぬいじゃぁなー」のスーツアクターである。役者さんは激しい動きは出来ないので我々がスーツを着て演じるのだ。だから戦隊ものや仮面なんとかで顔出しとかはないわけだ、わかるね?


「こんかいはげっちゃーろぼてぃくすですかねえ。さすがにこれはいくら何でも」


おやっさんがこうため息をつく。戦隊ものの人気が陰りを見せてから、戦隊ものTvではいろんな作品に挑戦してきた。今回のぬいぐるみ戦隊もその一環であると言えよう。


「まだまだおいちゃ駄目ですよおやっさん。子供のキラキラがある限り戦隊ものは続くんですから。ぬいぐるみだってスーツを着替える口実が出来たから良いじゃないですか」

「そうか、でもなあ、キリギリスぬいぐるみがぬいぐるみチェンジしてスーパーぬいぐるみんとなってぬいぐる波を発射するのはさすがに違和感があるよ」

「まあ、それが世間の選択ですから」


私だって抵抗がある。そもそも昭和の仮面なんとかやスーパーなんとか人というチョイスはいくら著作権を考慮したにしたって古すぎる。

ぬいぐるみチェンジだってワンカット前宙を入れただけで次の瞬間にはまったく違うぬいぐるみになっている。今の時代とはまったくそぐわない。


だけど、だけど。それでもやらないといけない地方戦隊ものの意地ってもんがあるんだ。


「おやっさん、今度はキリギリスぬいぐるみから全能の神ぬいーぐるーみーへの変身だそうですよ、いっちょかっこいい所見せて下さい!」

「しょうがねえ、やるか」


そういっておやっさんが出て行って数分のときである、にわかに撮影場が騒がしくなった。


「どうしたんですかい?」


私は下っ端のアシスタントディレクターに声をかける。


「それが、おやっさんが変身に失敗して病院に運ばれたそうで」


ぬいぐるみスーツアクター、本家のパクリスーツアクター。ここが真のスーツアクターになるときである。


「おやっさんのシーン、俺が撮るぜ! まかせな!」


今日もスーツアクターはかぶり物ぬいぐるみを被ってスタント撮影をする。

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これがスーツアクターの矜持! きつねのなにか @nekononanika

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