インスタント・ファンタジー
斎藤秋介
インスタント・ファンタジー
おれは高校二年生。
さっきずっと待ち望んでいた新作のゲームを買ってきた。
ニヤニヤしながらパッケージを眺めていたのがいけなかったのだろう。
おれは信号に気がつかなかった。
デカいブレーキ音が、すぐ耳元で聞こえた。おれは反射的に右を振り向き、目をつぶった。
目を開くと、辺りは一面の真っ白だった。
光のなかから人影が歩いてきた。
「これからあなたは転生します。スキルはどうしますか?」
「すべてのスキルください」
「わかりました。必ず世界を救ってくださいね」
おれは草原に降り立った。
可愛い女の子がゴブリンに襲われている。
「死ね」
おれがつぶやくと、ゴブリンたちは消し炭になった。
「ありがとうございます!」
「慈善事業じゃないぞ。かわりにおれのモノになってもらう」
「ありがとうございます!」
それから、おれたちの旅が始まった。
雪山で凍えている女がいた。
おれは身体の暖まるスキルを使った。女はそれで心が温まったのだろう。女はおれのモノになった。この世界における二人目のヒロインだ。
砂漠で力尽きそうになっている女がいた。
おれは周囲を草原にするスキルを使った。世界の生態系を変えてしまうかもしれないが、どうせ異世界なのでどうでもいい。女はおれに感謝し、おれのモノになった。この世界における三人目のヒロインだ。
その後もおれのヒロインは増え、最終的には30人くらいになっていた。
18禁描写は省くが、おれは異世界で“男”になった。飽きるほど性を貪った。
それに飽きてくると、おれはスキルを使って魔王城に瞬間移動した。
「クックック……」
「死ね」
おそらく魔王はなにかを続けようとしていたが、めんどうだったので一瞬で消し炭にした。
辺り一面の真っ白な景色におれは戻ってきた。
光のなかから人影が歩いてきた。
「よくぞ世界を救ってくれました。あなたを現実世界に帰します」
「死んでるんじゃないんすか?」
「女神特権で生き返らせます」
「ありがとう!」
気がつくと、おれは無事に信号を渡り終えていた。
手にはオープンワールドRPGのパッケージが握られている。
帰宅し、さっそくプレイしたが、“本物”を知るおれにはなんだかつまらなかった。
明らかにシュリンクを取っているくせに、おれは『新品未開封です』と嘘をついてフリマアプリにそれを出品した。5000円で売れた。
その後、異世界でコミュ力を鍛えたおれは、学校中の女を口説きまくった。
2ヶ月で彼女が100人以上できた。
現実世界も捨てたもんじゃないな、とおれは思った。
インスタント・ファンタジー 斎藤秋介 @saito_shusuke
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