三つのお願い

ヌリカベ

1つ目のお願い

 おばあさんが妖精をくれた。

 誕生日のプレゼントだと言って。お花の帽子をかぶって緑の葉っぱの羽をつけたフカフカのぬいぐるみの妖精だ。


 そうだ。

 あのとき私はゴネたんだった。

 お気に入りのアニメのキャラクターのぬいぐるみが欲しかったんだ。それとは違うって、おばあさんに文句を言ったんだ。


 それを聞いたお母さんがせっかくおばあさんがくれたのにって怒って、それで私は意固地になって駄々をこねたんだよ。

 そうしたら困ったおばあさんが私に言ったんだった。

「ヒロちゃん。このぬいぐるみの妖精さんはねお願いを聞いてくれるんだよ。ヒロちゃんのお願いを3つだけ。だから本当に困ったときは真剣にお願いしてごらん。叶うかもしれないよ」


 それから程なくしておばあさんは亡くなった。特にどうという訳ではなく老衰でだ。結局そのぬいぐるみがおばあさんの形見になってしまった。


 そんな経緯でそのぬいぐるみを私はずっと持っていた。

 キャラクター物のぬいぐるみは誰かにあげたり捨ててしまったりしたのに、その妖精さんはずっと私の机の上に置いてあった。

 特に意識することもなく部屋の風景の中にいつも有った。


 ☆☆★

 初めてそのぬいぐるみを意識したのは中二の夏だった。

 バレー部に入っていた私は、レギュラーを目指して必死に頑張っていた。

 レギュラーは三年生が占めているのだけれど、一人枠が空いていた。


 その最後の一つを巡って私と親友のマリナが競っていた。

 小学校の頃から親友でライバルで、お互い励ましあい切磋琢磨しながら競い合った仲だ。

 今回もどちらが夏の大会のポジション争いで、二年で唯一のレギュラーを取れるか真剣に励まし合って頑張ってきたのだ。

 結果、レギュラーの座を手にしたのはマリナだった。私は補欠に甘んじることに成った。


 あの子の頑張りは認めるが、それでも悔しいものは悔しい。

 その日家に帰って机の上の妖精のぬいぐるみを手に取った。

 レギュラーになりたい! 補欠じゃなくてレギュラーとして夏の大会に出たい!


 二日後、廊下でふざけていたマリナが誤って三階の階段から足を滑らせて転落したと聞かされた。

 五時限目の救急車のサイレンはマリナだったんだ。

 部活に行くと顧問の先生が沈痛な顔でマリナは右手の複雑骨折で試合には出られないと告げられた。

 私は繰り上がりでレギュラーに選ばれたがまるで嬉しくなかった。マリナは私の分も頑張ってと励ましてくれたが、まるで心は晴れなかった。


 結局マリナは利き腕の複雑骨折の影響でバレー部に復帰することは出来なかった。

 それでもレギュラーで頑張る私をいつも励ましてくれてずっと寄り添ってくれたんだ。

 偶然だろう。もちろんそうに違いないがそれでも、私が祈ったことでマリナに厄災が有ったと思えて仕方なかった。

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