第10話 死せるもの達よ、目覚めの時間だ

 



 アレクがゼノンへと斬りかかる。


 ――ガガッ


 が、その刃は祖父に受け止められた。

 オレの攻撃もアレクを投げつけられることで中断させられてしまう。


 ――ドンッ


「っ!」


 オレはアレクを何とか受け止めるとすぐにその場を離れた。

 凄まじい殺気。


 祖父から放たれているものだ。

 次の瞬間には先ほどいた場所に剣が刺された。


 祖父の異名、聖剣王ホーリーセイバー

 確かゲームでも出てきた言葉だ。



 その剣の腕は勇者にも勝るとも劣らないと言われ、弱きを助け強きをくじくために存在する。

 聖人君主であると認められた人につけられる称号だ。



 弱いわけがない。

 むしろ、今のオレ達の実力ではかなうかどうか。


 あちらは一人であるのに、屈強な戦士が数十人で掛かってくるかのような重圧がかかる。


 不用意に近づけば、あっという間に細切れにされるだろう。



 オレは近接戦には向かないし、アレクやキョンシーたちでも近づくのは危なそうだ。

 キョンシーたちの体が硬いと言っても、聖剣王の剣戟に耐えられるかどうか……。



 どうする?

 ゼノンの首さえ取れれば終わるはずなのに!!



 オレは祖父の剣を避けることしかできない。

 反撃の隙が無いのだ。


 アレクも切り結び、キョンシーたちも加わって攻撃をしていくが全て受け流されて決定的な隙ができない。


「それ、相手は聖剣王だけではないぞ!!」


 さらに悪いことにゼノンが呪いを振りまく。


 クローネちゃんのかけてくれた防御魔法がなければ床に転がっている死体のように肌が黒くなっているだろう。


 だが、それもいつまで持つか。



 ギイン。ドンッ。ガツッ。



 鈍い音がホールに響く。


 不味いな。

 早く決着をつけないと、どんどん戦況が悪くなる。



 その時、うめき声が上がった。

 声のした方を向けば、アレクが苦しそうに息を切らしているのが見えた。




「ぐっ」

「アレク!!」


 均衡は一気に崩れた。

 アレクが膝をついたのだ。


 急いで駆け寄ってみると、頬に黒い痣ができている。

 呪いが進行し始めたのだ。


 息は荒くなり、痣がどんどんと広まっていく。




「ははははは!!! ようやくか! それ、お前も呪ってやろう!!」


 得意げな声がホールに響き渡った。


 ゼノンがオレに向けて黒い波動を放つ。


 ――ジュワワワワ



「くそっ!!」



 万事休すか!?




 ……。


 あれ? いつまで待っても痛みとか来ないけど?


 オレは首を傾げた。


「ふん、うまく避けたか。今度はよけさせぬぞ!!」



 再び黒の波動がオレを襲う。



「うわああああ!!!」




 ……?


 アレ?

 マジで何ともないんですが?



 オレは首を傾げる。

 ゼノンも首を傾げる。



「「……?」」



 気まずい空気が流れた。


「な、何故だ!? 何故利かぬ!? おかしいではないか!!」


 いや、オレに言われても。


 思いたるとすれば……。


「あ」


 十中八九、オレの召鬼道士の力が原因だろう。

 というか、ゲームでヴォンは「呪い無効」だったの忘れてた。




 なーーんだ!!

 じゃあゼノンなんて聖剣王さえ何とかすればオレの敵ではないということだな!!


 オレはニチャァという音と共に笑顔をお届けした。


「こっからはオレのターンだ!!」

「っく!! 聖剣王よ! 早くそのガキの首を斬らぬか!!」


 ゼノンが聖剣王に命令を下す。


 だがオレとてやられてばかりではない。

 実力でかなわない相手でも、ここには手数がたくさんあるのだ。



「『死せるもの達よ、目覚めの時間だ』」


 オレからあふれ出る紫の光。


 ――バチバチバチッ!!!



 ホールを飲み込むかのように広がっていく紫電が死者たちを囲む。


 ゴオオオオオオ


 今までよりも大きな規模でうねる闇。


 それは瞬く間にホールを支配する。

 動きだすのは第三級の亡者たち。


 その数五十。


 オレ達が倒した兵士たちだ。


「さあ、これで手数は用意できた。覚悟しろ!」

「っく!!」


 聖剣王は死者たちに任せた。


 オレはゼノンに集中しようではないか。

 ちょうど見方も来てくれたようだし。


「お兄ちゃん!! 大丈夫なのよ!?」

「ヴォン様!?」

「ヴォンよ、大きな力を感じたのだが?」


 三人娘がやってきた。


 どうやらあの敵たちを全滅させ終わったようだ。


 説明している時間はない。

 アレクがもう限界だろう。


「クローネちゃん!! アレクの治療を!! 呪いだ!!」


 オレはそれだけ叫ぶとキナコに乗ってゼノンへと向かっていった。



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