第4話 スローライフがしたいだけの人生だった……
「さて、入るが良い」
遠目からも巨大だった城は門前までくると、余計にその存在を主張する。
そうそうそうそう、これこれ!
オレはゲームで見た魔王城にテンションが上がった。
シナリオの中では駆け足で廊下を進み、出てくる魔族を倒していかなくてはいけなかったため城の内装など見る暇がなかった。
だが今は戦闘する必要もなくゆっくりと見て回れる。
非常に嬉しいご褒美だった。
追手も倒してくれたし、魔王様万歳!
オレは勝手に魔王様と呼ぶことにした。
オレ達は案内されて広い空間へとまでやってきた。
真ん中に長いテーブルがあり、いくつか椅子が置かれている。
貴族とかが食事をするときに使うテーブルのようだ。
ということはここは食堂みたいな場所ということだろうか?
「まあ立ち話もなんじゃな。座るといいぞ」
魔王様は真っ先に上座にどっしりと構える。
オレは少し迷ったが魔王様の斜め右隣に座ることにした。
仲間たちも腰を落ち着ける。
「そなたら、腹は減っておらぬか?」
聞かれた途端に鳴り出すお腹の音。
そういえば昨日から何も食べていない。
「お腹へりました」
真顔でそう訴えると魔王様は噴き出した。
「んっふふ。そなた、正直すぎやしないか? まあよい」
魔王様はそばにあったベルをちりんと鳴らす。
後ろのドアから魔族の女性たち(メイドさんの格好をしているから恐らくメイドさん)が料理を運んで来た。
並べられていく料理。
鶏型モンスターを丸ごとぱりぱりになるまで焼いてある料理に薄い膜の張ったスープ、パン……その他もろもろ。
何て名前の料理なのかは分からないが、異国の料理って感じがする。
香りは美味しそうだ。
「さあ、遠慮せずに食すがよい」
「いただきます!」
「あ、ヴォン様っ!」
オレは素早く食べだした。
隣にいたリューナさんが何か言い掛けたが、空腹が限界だったオレは気にせず食べた。
うまい!!
うますぎる!!
やはり空腹は最高の調味料だ。
「ちょ!! これめちゃ美味しいです!!」
「んっふふ。そうじゃろう。妾は美味いものしか食わぬのでな」
魔王様も食べ始めている。
逆に仲間たちは手を付けようとはしていなかった。
いの一番に飛びつきそうなクローネちゃんでさえ手が伸びていない。
「あれ? 皆食べないの?」
「いや……その」
「僕はいっかなぁって……」
「お兄ちゃん、よく食べられるね」
何だろうか。
オレ、また何かやってしまった?
「大方、毒でも入っていないかと疑っておるのだろうて」
魔王様はおもしろそうに目を細めた。
「毒? え、いれてあるんですか?」
オレはまじまじと体を見るがどこも異常はない。
遅効性の奴だったらアウトだが。
「んっふふ、どうじゃろうなぁ? 魔王が料理を振舞うなど、そう思われても仕方がないのだがなぁ。そなたはよう食べたのぅ」
「貴方! 本当に毒を仕込んでいたのですか!?」
リューナさんが椅子から立ち上がり魔王様を睨む。
リューナさんだけじゃなかった。
皆立ち上がり魔王様に殺気を向けている。
「ちょ、皆! 落ち着いて! オレは何ともないから!」
オレは慌てて宥める。
魔王様に殺気を向けるということは、つまり魔王に挑むということ。
今のオレ達では勝利する可能性などない。
「フフ、それが正しい反応じゃて」
魔王様は殺気を向けられても余裕の表情でなまめかしく微笑んでいる。
仲間たちを一瞥した後、その視線はオレに注がれた。
「しっかし、そなたは警戒心というものを覚えたほうが良いぞ? 世の中には妾のように善良な者だけとは限らぬのでな。本当に毒を食わせられてしまうぞ」
毒……毒なぁ。
正直、そこまで慌てていない。
だってゲーム内のヴォンは毒無効・呪い無効・腐蝕無効と状態異常の耐性がチートだったから。
死者を統べる
それに……。
オレは魔王様をまっすぐに見る。
「魔王様ならいつでもオレ達を殺せるでしょう? だったら毒を入れるなんてことしないと思いますが……」
そう。魔王たるもの、毒などに頼るわけがないのだ。
魔王様はぽかんとした表情でオレを見ていた。
「……ふ。んっふふ。アハハハハ!!」
爆笑だった。
何がおかしいのだろう?
「ふふ、ひい……んふふふ」
眼に涙をため腹を抱えている。
そんなにおかしいこと言ったか……?
「そ、そなた……本当に大物よなぁ……っふふ。あーおかしい」
「そうですか?」
オレは首を傾げる。
「ふふ、ヴォンのいう通り毒など入っておらぬわ。心配ならそこの獣人族の小娘に浄化をさせてから食えばよい」
獣人族の小娘?
オレは魔王様が指さす方を振り返る。
驚き顔のクローネちゃんだった。
そっか。そういえばクローネちゃんは治癒能力がある種族なんだっけ。
「クローネちゃん、出来そう?」
「できるですけど……なんでわかったのですよ?」
確かにクローネちゃんに治癒能力があるとは一言も言っていない。
「ふふん。そんなものお見通しよ。妾には第三の眼があるからのぉ」
第三の眼。
ゲームでもあった設定だ。
「確かあらゆるものごとを感知できる眼でしたっけ?」
「何じゃ、知っておったのか」
その通りと頷く彼女は自分の額に指を向ける。
今は閉じられているが男になった時にはしっかりと眼が開かれていた。
ゲームではあの眼が開いている間は次のターンの攻撃まで予測されて避けられることが多く厄介だったのを覚えている。
未来予知までできるとは、さすがはラスボス魔王様。
「第三の眼で見ればそなたらの能力など手に取るようにわかるわ。……まあ木っ端どもをわざわざ見ようとは思わんでな。そこは誇るが良い。……それよりも」
魔王様は再びオレ達を眺めた。
「大聖女に大精霊、それから勇者に召鬼道士とは……変な組み合わせじゃのぉ」
「ん? なにて?」
思わず聞き返す。
変な単語しか聞こえなかったが、気のせいだろうか。
「ん? 何をそんなに驚いておる?」
「誰がなんだって?」
召鬼道士は分かるとして、大聖女・大精霊、それに勇者!?
変な汗が流れる。
まさかそんなことあるわけ……。
「何じゃ。知らずに組んでおったのか?」
魔王様は呆れたように目を細め一人一人指を指しながら口に出す。
「そこの獣人族、ホワイトウルフか? の娘が大聖女。そっちの水色髪の娘は先祖返りの大精霊。で、そこの金髪の娘が勇者じゃて。っま、今はまだ種じゃからそうなる可能性があるというだけじゃがのぉ」
oh……。
嘘だと言ってくれジョニー。
オレは白目をむいた。
もれなく大重要ポジションの人たちじゃないか!!
どこがモブだっ!!
いるか! そんなモブ!!
っていうか勇者と関わり持っちゃってたかぁ~。
魔王とも関わっちゃってるし。
もう軌道修正できなくない?
これ詰んでない??
スローライフできなくない?
スローライフがしたいだけの人生だった……。
オレは燃え尽きた。
「アッハハハハハハっ!! なんじゃあそなた、この世の終わりのような顔をしてっ!!」
オレの姿を見て魔王様がまた笑い出す。
随分とよく笑う魔王様ですね(小並感)。
予想以上のダメージを食らったオレはそのまましばらく灰になっていた。
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