わたくしは人形ではありませんわ

@curisutofa

わたくしは人形ではありませんわ

『私の淑女マドモアゼルは本当に愛らしいな。まるで生ける磁器人形ポーセリンのようだ♪』


『有難う御座います御父様。とても嬉しく思いますわ♪』


上級の騎士シュヴァリエとして御領地を御治めになられていられます御父様は、愛娘であるわたくしに対して、幼い頃から聞き飽きた讃辞を満面の笑顔で送られますと。


『私の淑女マドモアゼルも十二歳になるから、そろそろ縁談も考えなければならないので、貴女の祖父でもある岳父様おとうさまに御相談する為に、少しの間夫妻で留守にするけれど、お姉さんと姉妹二人で家臣団と共に留守番をするように。私の淑女マドモアゼルにもお姉さんと同じくらい良縁となる婚約者を見付けてあげるからね♪』


完全なる善意で話されていられる御父様に対して、物心が付いた時からしつけられている所作で、優雅エレガントに恭しく深々と御辞儀を行いまして。


『心底よりの御礼を申し上げますわ。御父様♪』


深々と行う御辞儀の最大の長所は、頭を下げた際に上位者に対して表情が見られない事にあると、最近は特に強く感じるようになりましたわ。


『私の淑女マドモアゼルは本当に良い子だね♪。下がりなさい』


『はい。御父様。失礼をいたしますわ』


城館の御父様の居室から退室した私は廊下を歩いて自室に戻りながら、自由になる為には御父様と御母様の御夫妻が御爺様の御領地に出向かれて不在の間に、逃げ出すしかないと覚悟を決めながら部屋に戻りましたわ。


『持ち出す荷物は最低限にする必要がありますわね』


直ぐに行動に移れるように荷造りを自室でしていたわたくしは、部屋に飾られている御父様が一流の職人に依頼して製作させた、わたくしと瓜二つのヌイグルミを手に取りますと。


『…これは置いていきましょう。存在自体が不愉快ですわ』


わたくしと瓜二つのヌイグルミを元の場所に戻しますと、二度と視線を向ける事無く脱出の準備を整えまして。


『わたくしは御父様の磁器人形ポーセリンでも無ければヌイグルミでもありませんわ。意志を持った一人の人間であると、城館の外の世界で必ずや証明してみせますわ』

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