選ばれなかった私と選びたい幼馴染〜幼馴染には秘密がある〜
ろくまる
第1話
「──私、本当に選ばれなかったんだ」
結局のところ、私は家族以外に存在を求められていない、らしい。
私、アリーシャ・ルーテンは公爵家の娘で、兄であるテオ・ルーテンは第一王子であるルドルフ殿下の乳兄弟。
小さい頃は何度か一緒に遊んでもらっていて、自他共に認める幼馴染と言ったところだと思う。
そんなルドルフ殿下に淡くも恋心を抱きつつ婚約者の候補として頑張っていたのだけど、今日正式にルドルフ殿下とロザリア・ゲイル伯爵令嬢との婚約が決まった。
私は、ルドルフ殿下を取られたくなくて、市井でも流行ってる物語のように努力したら認めてくれるかなって、何年も思っていた。
でもルドルフ殿下は4歳も年下の私を妹だと思っていたし、同い年で話も合うロザリア様に恋をしていらっしゃっていた。
炎の魔法が得意なロザリア様らしく燃えるような赤い髪に意志の強いオレンジ色の瞳。黄金色の髪に青い空色の瞳のルドルフ殿下と並ぶと一種の絵画のように美しくて。
数日前にふたりのその姿を見た瞬間に自分が選ばれなかったんだと、気付いてしまった。
でもあれは夢だったかもしれない。そう思っていたのに、現実は逃がしてはくれなかった。
「テオ兄様と違って、優秀なところ無いもの。まぁ、そうよね」
テオ兄様は最上級のサファイアのように濃くて美しい青の髪と瞳を持っていて、水の魔法を扱う我が家でも随一の使い手。次期当主に相応しい能力を持った、ルドルフ殿下の側近候補。
対して私はテオ兄様より少し明るい青色の髪にアクアマリン色の淡い青の瞳。
公爵令嬢って事で美しいと褒めてくれる人はいるし、魔法や勉強を頑張った事に褒めてくれる人はいたけれど、今は受け入れられそうにない。
だって、やっぱり、好きな人に選ばれたかったもの。
「──アリーシャ、大丈夫か?」
私室のドアから声が聞こえて、私はどうぞ、と声をかけた。廊下に出ていた侍女が扉を開けて、その後にテオ兄様が入って来た。
お父様似の垂れ目の私と違ってお母様似の切れ長なテオ兄様は、色んなところから釣書が来るほどの美丈夫。羨ましい限り。
「別にちょっと、いえかなりショックよ、そりゃあもう」
「すまない。お前の想いを知っていたから、もう少し落ち着いた状況で知らせたいと思っていたのだが」
「……いいの、きっとここまで傷付かなきゃ踏ん切りもつかないと思う。それに何よりも、数日前に君が好きですって顔のルドルフ殿下を見ちゃったんだもの、あれで折れない方が悪いわ」
思い出したくないのに、話すだけであの素晴らしい絵画のようなふたりが思い起こされる。お似合いだった、綺麗だった──私じゃ、ダメだった。
涙がこぼれて、目の前のテオ兄様の形が崩れる。
「私、そんなに、ダメだったのかな。頑張って勉強もして、ルドルフ殿下に褒めてもらえて、でもそこ止まりで……何がいけなかったのかな。ロザリア様も良い人で、でも彼女をいじめるような悪い子にすらなれなかったのがダメだったのかなぁ……?」
「──俺は、アリーシャがそんな悪い子にならなくて良かったと思ってる。アリーシャは真に優しい心を持った淑女だよ」
テオ兄様が私をそっと抱きしめる。久しぶりに感じた兄のぬくもりは小さい頃のようで、私は安心して大声をあげるくらい泣いてしまった。
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