第40話:成長の確認

 ――マギスがアクシアに来てから、一ヶ月が経過した。

 その間もマギスは魔獣狩りに青空教室の教師の二刀流をこなしており、村人や生徒たちとの交流を深めている。

 そして、今日は青空教室の日であり、生徒たちの成長を確かめる日でもあった。


「最初の時以来の模擬戦だな!」

「絶対に勝ちましょうね!」

「負けないんだからねー!」

「いつも通り僕が指揮をするから、その通りに動いてくれよ」

「わ、分かった!」

「ピピも大丈夫なのー」


 リックがやる気に満ちた声をあげると、アリサとティアナがそれに応え、カイトは冷静に指示を出し、オックスとピピは静かながらも闘志を燃やしている。

 マギスは生徒たちの姿に成長を感じながらも、教師としてまだ負けられないと一人瞑想しながら気合いを入れていた。


「……よし、やろうか」

「なんじゃ、緊張しておるのか、マギスよ?」


 気合いを入れたマギスを横目にエミリーが問い掛けると、彼は微笑みながら頷いた。


「彼らも成長しているからね。少しの油断が負けに繋がることもあるだろう?」

「それでもお主とこ奴らでは、まだまだ差があるだろうて」

「それでもだよ。特に彼らは六人だからね、警戒は必要さ」


 二人で会話をしていると生徒たちの準備も整った。

 すでに陣形を組んでおり、彼らの気迫がマギスにも伝わってくる。


「かかっておいで、みんな」

「よーし! やってやろうぜ、みんな!」

「「「「「おう!」」」」」


 リックの雄叫びと共に全員が声をあげると、前衛の二人が駆け出した。

 左右に分かれるではなく、まっすぐマギスめがけて突っ込んでくる。


「オックス! ピピ!」

「「アースウォール!」」


 カイトが二人の名前を叫ぶだけで、何をしてほしいのか意図が伝わっており、即座に魔法を発動させる。

 前回の模擬戦と似たような動きだが、その練度は段違いだ。


「へぇ、僕の動きを先読みしたか。いい判断だね」

「余裕ぶれるのも!」

「今だけですよ!」


 マギスが後方へ飛ぼうとしていたのを先読みしていたカイトは、オックスとピピのアースウォールを発動させる位置を事前に指示していて。

 先読みがピッタリと当たりマギスが感嘆の声を漏らしていると、リックとアリサが自らの間合いに彼を捉えた。


「だけど――遅いよ」

「うおっ!?」

「きゃあっ!?」


 リックの袈裟斬りとアリサの刺突はほとんど同時に繰り出された。

 しかし、僅かなずれを見逃さなかったマギスは先にリックの袈裟斬りを弾き返すと、返す剣でアリサの刺突を叩き落した。

 バランスを崩した二人の背中に剣を当てて終わらせようとしたマギスだったが、その直前にアースウォールを挟んだ背後から間合いを詰めてくる気配に気づいた。


「はあっ!」


 カイトの槍がアースウォールを突き抜けてマギスへ襲い掛かる。


「すごいね! 槍で貫く部分だけ、強度を脆くしていたのか!」

「くそっ! だけど、これで終わりじゃありませんよ!」


 マギスの目がリックとアリサへ向いている隙を突いて背後に回り込んでいたカイト。

 このひと突きで終わらせることができればよかったが、マギスは土を貫いて出てくる音を敏感に察知し、体を半身にするだけで紙一重の回避を見せつける。

 会心のひと突きが決まらなかったことに悔しさを滲ませたカイトだったが、これが決まらないことは想定内だ。

 だからこそ、カイトのひと突きは次の一手のための布石に過ぎなかった。


「「粉砕!」」


 直後、アースウォールが砕けて砂煙を巻き上げる。


「はあっ!」


 さらにカイトが槍を巧みに回転させると、砂煙をマギスの方へ殺到させた。


「目くらましか! 面白いね!」

「そう言っていられるのも今のうちだよ、せんせー!」


 目の前の戦略に感嘆の声をあげたマギスは、背後への警戒をおろそかにしていた。

 そこへ気配を消して忍び寄っていたティアナが、ナイフを鋭く振り抜いた。


「うん、合格点だ!」

「「「「「「――!?」」」」」」


 完全に隙を突いたティアナの一撃が決まると思っていた。

 だからこそ、やや興奮気味の声音で生徒たちを褒め称えたマギスに驚愕させられてしまった。


「うわあっ!?」


 直後、砂煙の中からティアナの悲鳴が響き渡る。


「ティアナ!」

「ねえ、カイト! どうなっているのよ!」

「ぼ、僕にも分からないよ!」


 リックがティアナの名前を叫び、アリサとカイトは何が起きているのか分からず困惑している。

 徐々に晴れていく砂煙を見つめる五人の生徒たちは、ティアナの腕を掴み立っているマギスと、投げられて背中を地面につけている彼女の姿を目の当たりにした。


「……みんな、とても素晴らしい模擬戦だったよ」


 最後にはいつもの柔和な声音で、マギスは生徒たちへの賞賛を口にしたのだった。

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