第11話:お肉パーティ

 その日の夜、村人全員がアクシアの中央広場に集まってのお肉パーティが開催された。

 最初こそマギスたちを遠巻きに見ていた村人たちも、今では肉を片手に持ちながらお礼を言いに自ら歩み寄ってきてくれている。

 エミリーとしては現金な奴らだと感じていたが、マギスからすればこれで僅かでも心を開いてくれたのであれば構わないと思っていた。


「本当にありがとうございます、マギス殿」

「いえいえ、気にしないでください。最初に言いましたが、不良在庫だったんで」


 恐縮仕切りのアボズに対して、マギスは笑顔で対応している。

 とはいえ、そんなアボズが持つ皿の上にも大量の肉が盛られており、態度と行動が合っておらずエミリーがマギスを間に挟んでジト目を向けていた。


「美味しいですね、エミリーちゃん」

「んっ? まあ、そうであろう。何せジュエルホーンの肉は高級だからな」


 そんなエミリーの隣にはニアが陣取っており、ニコニコしながら肉を頬張っている。

 その表情は満面の笑みを浮かべており、肉を食べるだけでこれだけの笑顔ができるものかとエミリーは内心で疑問に思っていた。


「――せんせーい!」


 そこへ『先生』と口にしながら近づいてくる者たちがいた。


「……先生じゃと?」

「実は私、ここで子供たちの先生をしているんです」

「へぇ、そうだったんだ」


 三人が会話をしている間に子供たちはニアの周りに集まってきており、挙句の果てにはエミリーを押しのけて彼女の隣に腰掛ける者まで現れた。


「ぬお? ぬおおぉぉっ!」

「おっと! 大丈夫か、エミリー?」

「ぐぬぬっ、まさか我が子供に追いやられるとは……この体が恨めしいぞ!」


 怒りの形相で隣にやってきた女の子の明るい銀髪が揺れる後頭部を睨みつけているが、相手はそのことに全く気づいていない。

 それどころか目にすら入っていないのか、ずっとニアの方を見ながら黙々と肉を頬張っていた。


「ちょっと、ティアナちゃん? お客様を押しのけちゃダメでしょう?」

「……えっ? お客様?」


 ニアの指摘に驚いた反応を見せたティアナは、きょとんとした顔で振り返った。


「……ほ、本当にいた!」

「お主、気づいておらんかったのか!」

「だって~、小さくて見えなかったんだも~ん」

「ち、ちちちち、小さいだと!?」

「「「「「「うん」」」」」」

「ぬおおおおっ! マギスウウウウッ!」


 集まった六人の子供たちから即答で頷かれてしまい、エミリーはマギスに助けを求めた。


「いやー、確かに小さいよね」

「裏切り者がああああっ!」

「いや、裏切ったとかじゃないから。事実だから」

「貴様ああああっ!!」

「ご、ごめんなさいね、エミリーちゃん! こら、ティアナちゃん! 相手が気にしていることを口にしたらダメでしょう!」

「何気に傷口を抉ってくるではないかああああっ! ニアよおおおおっ!!」

「ええええぇぇっ!? ご、ごめんなさああああいっ!!」


 最後の一撃をまさかのニアから受けてしまい、エミリーガクッと崩れ落ちてしまった。

 その姿に子供たちは大きな笑い声をあげ、マギスはクスクス笑いを浮かべ、ニアだけが困り顔を浮かべている。

 その光景が面白かったのか周りからも笑い声が飛び交い、何故かマギスがエミリーからジト目を向けられることになった。


「あはは、ごめん、ごめん」

「絶対に許さんからな! 本当なら我はでかいんじゃからな!」

「なんだこいつ? 変な喋り方だし、本当はでかいんだって!」

「面白いね、この子! ねえ、お友だちになりましょうよ!」

「ぬおおおおっ! なんじゃ、止めてくれ! マギスウウウウッ!!」


 しかし、最終的には子供たちに興味を持たれてしまい、気づけばエミリーは六人に囲まれてしまい、身動きが取れない状況になっていた。

 その光景にクスクス笑いだったマギスも声を出して笑い、ニアも困り顔から満面の笑みに変わっている。


「この場にいる全員、絶対に許さないからなああああ! ……ぐぬぅ」


 最後には子供たちにエミリーが押し潰されてしまい、賑わうお肉パーティの会場は爆笑に包まれたのだった。

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