ぬいぐるみを普通に治してと頼んだだけなのに

不明

ぬいぐるみを普通に治してと頼んだだけなのに

 母に頼まれリビングの掃除を始めたツナグ。

『また散らかしてるよあいつ(妹)』

 と内心ため息を付きながら妹の散らかしたおもちゃ、足の踏み場がほとんどない部屋を掃除器で掃除する。

『片付けようか?』と母に行ってみたが『自分で片付けさせるからおもちゃは放置してて』と言われたのでおもちゃとおもちゃの隙間をぬって掃除機をかけてゆく。

 最初は順調に掃除機をかけられていたのだが、急に何かを吸い込み掃除機の動きが止まった。

 掃除機の先を確認すると『熊』『兎』『カエル』のぬいぐるみが綺麗に掃除機に刺さっていた。

「まったく」

 そうぼやきながらぬいぐるみを引っ張ると。『熊』は片目が取れ、『兎』は耳が取れ、『カエル』はお腹の横部分が裂けてしまった。

 慌てて両手で繋ごうとするも、切れてしまってはくっつくものもくっつかない。

 一度は散らかしていた妹が悪いと思って放置しようと思ったのだが、罪悪感の方が強く壊してしまったそのことを正直に妹に話すことにした。そしたら想像通り。

『お兄ちゃんなんて大っ嫌い‼』

 泣きながら怒られてしまった。 

 壊したぬいぐるみと同じものを購入を考えたがあれは母から妹に渡した誕生日プレゼント。同じぬいぐるみを買っても妹は怒りを鎮めないだろう。

 それで……。

「おいハカイ、ちゃんと直してくれたんだろうな。治ってなかったら修理代一万返せ」

 いろんな発明品を作るのが趣味で手先が器用な古くからの親友、ハカイにぬいぐるみの修理を頼んでいた。

「待ってたぞ、ツナグ。もちろん君のぬいぐるみ三体は完璧に治させてもらった」

 机に並べられた治してくれたであろう新品の用に輝き放つ『熊』『兎』『カエル』の三体のぬいぐるみ。

「俺のじゃなく妹のなんだが。まあ治してくれたならいいか」

 三匹を大事に腕に抱え。

「治してくれてありがとな。これであいつとも仲直りできるよ」

 お礼をいい、ハカイの家から出ようとすると「ちょっと待った‼」とドアと自分の間に滑り込み出口をふさぐ。

「……何?」

 顔にてを当て決めポーズをしながら『クック』と不気味に笑うハカイに嫌な予感を持ったツナグは鋭い目つきで言い放つ。

「お前、このぬいぐるみに何かしたか?」

「いかにも。普通に直すだけじゃぁ詰まんない。ぞれで~MAXでクールなぬいぐるみにしといたぜ‼」

 普通に治すだけでいいってあれほど行ったのに。

 握り拳を振り下ろそうと思ったが、治してくれたのには間違いないはず。そう思いこみ怒りを抑え、一呼吸いれると同時にハカイはリモコンを取り出した。

「さあ見せてあげよう、この者たちの真の力を動き出せ!」

 上にかかげたリモコンのスイッチをハカイが押すと、ツナグの腕に抱きかかえられていたぬいぐるみは『ガタガタ』と揺れ始め腕から飛び出した。

 三回転半まわったぬいぐるみは『スッ』、『スチャ』、『ぬちゃぁ』と音を立て先ほどまで自分たちが置かれていたテーブルに着地すると二本足で立ち上がる。

「この者たちが私が治した地球を守る戦士『ジョエル(熊)』、『ロイヤル(兎)』、『前田さん(カエル)』だ‼」

 ハカイの紹介と共ににぬいぐるみは戦隊もののようにポーズをとり、後ろに小さな爆発をおこした。

 どこから突っ込めばいいのか、何処を怒ればいいのか、とりあえず聞かなきゃいけないことは。

「これ……本当に渡したぬいぐるみ?」

「いかにも、触れてみろ」

 そう言われたので試しに熊のぬいぐるみを触ってみると毛並みはサラサラでふんわりしていた。兎も同じサラサラのふんわり。カエルだけはぬいぐるみの身体中ねっちょりとしていたが、お腹を押してみるとふんわりしていた。

 ぬいぐるみには間違いない。動くようになっただけならまだ大丈夫だ。リモコンとカエルをもらわずに自分のうちに帰ればただのぬいぐるみと変わらない。

 カエルだけは自分で新しく買ってあげよう。内緒にしてれば妹にはばれない。

「まだ機能はあるぞ‼」

「もうやめろ‼」

 とハカイはリモコンのボタンをもう一度押すと目が赤く光ったぬいぐるみはガタガタと動き出し三体は力をためる動作を始め、勢いよく腕を広げた。

 瞬間衝撃波が空気中を伝わる。『熊』、『兎』、『カエル』の毛皮と皮がはじけ飛んだ。

 その外見はぬいぐるみとは程遠いメタリックな超合金になった。

 超合金熊は背中に背負ったメタリックの魚を抜き取ると、魚は顔と体がパッカリと割れ大きな縦となる。

 超合金兎は耳が二つに割れ、人参が二本飛び出すと人参は中間で折れ銃の形になり兎の両手に。

 超合金カエルは腕を口に突っ込むと舌を握り引っ張り出し、舌は鋭利な刃となって刀になってカエルは構える。

「どうだツナグ‼ 武器も本物と同等の力を持っているしメタルな感じでカッコいいだろ‼ だがこう見えてもぬいぐるみの機能をそのまま宿している。 サラサラとした毛並みは無くなったがぬいぐるみのふわふわもっちり触感は大幅にパワーアップしたぞ‼」

「……」

「さらに‼ 最後の変形『合体』をお前に見せてやろう‼ さあ行け‼ジョエル、ロイヤル、前田さ……」

 ハカイの言葉が終わる前に熊のぬいぐるみを持つ盾をつかみ取るとハカイの顔面に向かって投げつけた。

 バタリと後ろから倒れたハカイはもがきながら制御するリモコンに手を伸ばそうとするがツナグが間に入る。

 ツナグはしゃがみ込み、しっかりハカイの目をみながら笑顔で。

「もう一万払うから元に戻してくれ」

「……はい」

 ようやくツナグの圧がハカイに届いた。

 その後元に戻してもらった壊れたぬいぐるみをツナグが不器用な手先で針と糸で不細工だが何とか直し、無事妹との仲は普段通りに戻った。

 そしてこれから先二度と彼に修理を頼まない心に誓ったツナグであった。

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