甥っ子のぬいぐるみ

山本アヒコ

子育てって大変だ

「二時間だけだから、お願い」

「まあ、大丈夫だよ」

 妹から『ちょっとだけ子供をみてくれないかな?』と連絡があったのは金曜日のことだ。日曜日に昼の二時間だけ、夫とランチと買い物している間だけ、二歳の子供の面倒をみてほしいということだった。

 せっかくの休日だが、かわいい妹と甥っ子のためならしょうがない。こっちは結婚の予定などない。なので最近は両親への立場がかなり弱い。もし孫の面倒をみなかったことがバレたら、きっと面倒なことになる。両親は孫バカなのだ。

「アンパンマン!」

「そうだねーアンパンマンだねー」

 子供がアンパンマン大好きというのは本当のようだ。テレビでアンパンマンを無限ループさせているだけで喜ぶ。

「でんしゃ!」

 アンパンマンマーチで踊っているかと思ったら、急にプラレールで遊びだす。

「ひかり、はやぶさ、こだま」

「名前を知ってるんだーすごいねー」

 大人でも知らない新幹線の名前をいくつも知ってる。すごい。

 寝転がって新幹線を床で何度も往復させて遊ぶ。全力で。子供のパワーはすごい。

「ふいー」

 ソファーに座り、今は消防車のミニカーで遊び始めた甥っ子を見る。急に立ち上がって走ったりするので、目は離せない。

 ここはリビングで、テレビとローテーブルとソファーがある。その床の所々に甥っ子のオモチャが転がっていた。

 子育ては大変だ。オモチャを片付けるヒマもない。妹のちょっとした息抜きのためぐらい、協力するべきなのだ。

「あー」

「ヨダレたれてるたれてる」

 床に落ちたヨダレをティッシュでふく。

 ヨダレかけの必要性がよく知らなかったが、これがなければ何度も服を洗濯しなければならないのだとわかった。偉大な発明だ。

 甥っ子はぬいぐるみを持って遊んでいる。こっちへ走ってきた。

「元気だなー」

「うきゃー!」

 抱きしめると、持ったぬいぐるみを顔に押しつけてきた。

 ヨダレでベチャベチャで冷たかった。

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甥っ子のぬいぐるみ 山本アヒコ @lostoman916

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