ぬいぐるみの案内人~ドラゴンを連れた鍵師と史上最弱なパーティーの仲間たちKAC版~

野林緑里

第1話

「信じられないわ。本当に!」


 アイシアが激怒していた。


 その前には正座して肩を落としているキイとショセイの姿がある。


「せっかく高収入がえられるはずだったのよ!それなのにあなたたちはこんな低収入の冒険をしにいくなんて信じられないわ! しかも勝手に! おかげでほかのパーティーにとられたじゃないのよ!」


 いつになく饒舌なアイシアにムメイジンやペルセレムが目を丸くしていることもおかまいなく、アイシアは高収入の冒険をすっぽかした二人を叱咤する。


「だってさあ。高収入っていったんだぞ。だから俺たちは……」


 キイとショセイは顔を見合わせる。


「どこが高収入よ! けっきょく、本一冊と銀貨10枚だけじゃないのよ! 確実にこっちの冒険の5分の一じゃないの!」


 おじゃんになってしまった冒険の依頼書を見せながらいう。


 確かにそこに金貨5枚の文字が書かれていた。


 金貨一枚は銅貨十枚に相当する。ようするにキイたちが独断で受けた冒険は金貨一枚の価値ということになるのだ。


「だってさあ。あの姉ちゃん報酬たくさんくれるっていったんだぜ」


「でも、ぼくは手にいれたかった本くれたよ」


「あのねえ」


 さすがのアイシアものんきな二人にあきれかえった。


「うわあああ!」


 すると突然ムメイジンの興奮したような声が聞こえてきた。


 キイたちがそちらのほうへ視線を向けると、ムメイジンがなにかを指差しているではないか。


「どうした?」


 キイが尋ねる。



「ぬいぐるみが……」


「はあ? ぬいぐるみ?」


 キイたちは首をかしげながら、ムメイジンが指差している出入り口のほうへと視線を向けると、そこにはライオンのぬいぐるみらしきものがあった。


「よっ! 諸君」


 キイたちがみていると、ライオンのぬいぐるみが立ち上がり片手をあげてしゃべりだしたではないか。


「だれ?」


 キイたちはどこから声がするのかと周りをみる。


「どこみてんだ? ここだ。ここ」


 キイたちはぬいぐるみをみる。


「ええええ!?」



「ぬいぐるみがしゃべったああああ!」


 そこにいるだれもがしゃべるぬいぐるみに仰天する。


 ぬいぐるみはしてやったりといわんげに仁王立ちになる。


「これ、魔法ですよ」


 そんな彼らの中で唯一冷静だったのが、おっちょこちょいな魔法使いペルセレムだった。


「魔法?」


「そうです。このぬいぐるみは魔法がかけられているんですよ。遠隔操作で動かしているって感じで、本当はぬいぐるみがしゃべっているわけではなくて、魔法をかけた人がぬいぐるみを通して話しているんです」


「正解。だてに魔法使いじゃないね」


 ぬいぐるみ、いやぬいぐるみを操っているらしい人物がいった。


「でも、なんで、魔法をかけられたぬいぐるみが俺たちの前にくるわけ?」


 キイが尋ねる。


「それは……」


「それは?」


 しばらくの沈黙がはしる。


「パパパーン! おめでとう!!」


「はい?」


 なぜかテンションをあげまくるぬいぐるみに首をかしげる。


「君たちは選ばれたのだ! アニマドールのお祭りに招待しよう!」


「アニマドール?」


「アニマドール!!?」


 なんなのかわからず訝るムメイジンとは真逆にペルセレムがいつになくテンションをあげる。


 キイたちがそちらに視線を向けたのはいうまでもない。


「ペルセレム? どうしたの?」


 アイシアがたずねる。


「アニマドールです! アニマドールといえば、ぬいぐるみの産地なんです。今度 数年に一度のぬいぐるみ祭りがあるってきいて、招待券に応募したんです。きゃーー!あたった! あたった!」


「ぬいぐるみ祭りということはたくさんぬいぐるみがあるってこと!?」


「はい! かわいいぬいぐるみも沢山あるんですよ!」


「本当! 実は私ぬいぐるみがすきなの!」


「アイシアさんも!! 」


「きゃーー! たのしみいいい!」


 アイシアもさっきまでの激怒がうそのように上機嫌になる。


 女二人のテンションについていけずにキイたちはきょとんとしていると、ぬいぐるみがキイのほうへ近づく。


 キイが振り向くとぬいぐるみのかわいらしい顔がすぐそばにあった。


 キイはぎょっとする。


「ちなみに私どもアニマドールのぬいぐるみ職人は兼用して情報屋もやっておりますので、おもしろい冒険の情報も得られるかも知れませんよ」


「まじ?」


 男たちはそちらのほうへ食いついた。


「はいはい。あなたたちがもっとレベルアップできるイベントも用意しておりますので、ぜひみなさんで来て下さい」


 ぬいぐるみはキイの手に招待状を渡すと一歩下がっておじぎをする。


「それでは皆様方のご来店おまちしてます」


 そういってぬいぐるみは去っていった。



 そういうわけでキイたちはぬいぐるみの産地とよばれる町へ向かうことになったのである。







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